第31話 10月11日金曜日【ディアファン】

 本当に久しぶりだね。

 ボクにとってもキミにとっても大変な夏でした。

 でもキミのところは少し落ち着いたんじゃない?

 

 例のノート事件も本人の思い違いだって聞いたし、階段で押されたのも噓だったって報告があった。

 まあ気持ちは分からないでもないし、あの子がいじめの対象にならないことを祈るばかりだけれど、そのことを一番気にしているのは、実は犯人扱いされたアランシオンなんだ。


 彼が言うにはもともと少し浮いていた子で、まわりの注目をなんとか集めようとしているような行動が見られたらしい。

 家庭的な問題なのか、持って生まれた性格なのかは分からないけれど、できればキミも少しだけ気にしてあげてください。


 アランシオンは幼児期からの脱却が上手くいっていないのかもしれないっていう意見だ。

 もしかすると、少し年が離れた妹か弟でもできたとか、何かの精神的要因が関係しているのではないかといってたよ。


 彼はここ数年大学で心理学を聴講しているから、小難しい言い回しをしているけれど、結局のところは彼女が傷つかないでほしいって思っているんだと思う。

 あの子はとても優しい子なんだ。

 だから今回のことも自分で手を上げて学校に通ってくれていたんだよ。


 石田亜子ちゃんのフォローをはるかちゃんが直接するのは難しいルールなのかもしれないけれど、アランシオンの気持ちも汲んでやって欲しいな。


 さて、ボクたちって同じ校舎内にいたのにほとんど会えなかったというか、話すことも無かったよね。

 実は意図的にそうしていました。

 と言うのも、最初からこの施策は失敗するだろうとボクら透明人間は考えていたからさ。


 もし不透明なキミたちと、透明なボクたちが決定的な決裂をした場合、はるかちゃんとか奈穂美さんとかが板挟みになるのは火を見るより明らかでしょ?

 だからもしそうなったとしても「最近は全然連絡が取れなくて、消息も分からないんです」と言えるような状況にした方がいいかなって思った。


 でもね、ズルいって言うかもだけど、ボクは何度もはるかちゃんの授業を見学したし、職員会議で頑張る姿も見ていたよ。

 そんなはるかちゃんを見ているうちに、この愚策(笑)が続くように頑張ろうって思った。

 そういうボクを仲間たちは笑っていたけれど、協力はしてくれたんだ。


 だからボクと同い年で、航空力学の勉強をしているランプシィーも巡回員になってくれたし、通学する事になったアランシオンの保護者も、ずっと授業に付き合ってくれた。


 ちょっとショックかもしれないけれど、全員が同じ感想を言ってたので、はるかちゃんだけには伝えておくよ。


「なぜ個人能力を無視して画一的な授業をするんだ?」


 だそうです。

 ボクも激しく同意してる。


 個の特性を伸ばすことは、本人にとっても、延いては国家の繫栄のためにもなるのに、同じレベルの人間を作ろうとする意図は何だろう。

 個はあくまでも個であり、個の集団がクラスであり学校でしょう?

 もっと言えば、その集団が市となり県となり国家となるはずだよね。


 どうも不透明な人たちって「公平」と「平等」を混同してないかな。

 平等というのは、均一に与えられる、又は課せられるものだよね?

 例えば、義務教育とか、電車やバスの運賃とか。

 これは個の能力や収入などには関係なく平等なものでしょ?


 公平はどうかというと、違うということを認めるということじゃないかな。

 その公平性を保つために、義務教育を受けることができない子も通えるように便宜を計るのだし、子供運賃や障がいのある人の運賃や座席があるんだよね。


 そういう意味で学校教育というのは、平等だけれど公平じゃないと思ったよ。

 足の速い子はそれが自慢であり、自信に繋がるでしょ?

 絵もそうだし、工作もそうだ。

 算数だって国語だって、得手不得手があって当たり前じゃないかな?

 

 なのにみんな同じ事を小学校で6年、中学で3年も義務としてさせている。

 時間の無駄じゃない?

 早く特性をみつけてあげて、そこを特化して伸ばした方が絶対に良いと思うよ。


 こんな話は自分じゃなくて文科省に言えって感じだろうけれど、この短時間で僕たちが感じたことなので、一応伝えました。

 ごめんね。


 でも、ボク個人としては凄いなって思ったこともあったんだ。

 それは「そういう画一的な教育を受けてきた人たち(キミも含めてね)」が、ケンカをしないっていうこと。

 なんとか助け合って前に進もうって団結しているところも驚いたな。


 ボクらは基本的なルールと読み書きを幼い頃に学ぶ。

 これは平等に学ぶんだ。

 早く終わった順に、興味を持った世界に進んでいくんだけれど、急には選べるはずもないよね。

 だから片っ端から経験してみて、自分の心に残ったものや、幸福感を感じたものを追求していく。


 ボクが光に興味を持ったのは割と遅かったけれど、アランシオンが心理学を選んだのは5歳の頃からだったよ。

 まあ、ボクたちはとても特殊な生活をしているから許されるだけだよね。

 自分で稼いで衣食住を賄わなくてはいけない不透明な人たちには難しいのかも知れない。

 だからこそ早く飛び級制度が確立されることを祈っているよ。

 

 なんてものすごく無責任な発言をしてしまいました。


 ここからはちょっと報告です。

 今回のことがきっかけになったのは間違いないのだけれど、透明人間少子化対策本部が設置されることになったんだ。

 今更感が半端ないけれど、どうやら崖っぷちまできているみたい。


 だから少しバタバタするけれど、交換日記は続けていきたいって思っています。

 でもあまり日にちが開くと、日記帳を置きっぱなしにしてしまうことになるよね……

 何か良い方法はありませんか?


 ではまた。


 もう小学校には行かないから、僕が黙って君を見つめてるなんてことはないよ。

 だから安心して授業をしてあげてください。 

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