第32話 10月13日日曜日【はるか】
もしかするとって思いながら散歩に出て大正解でした。
百葉箱の把手に刺さっている月桂樹を見た時、ちょっと声が出てしまいましたよ。
そうですか、実はのぞき見していたのですね(笑)
ちょっとだけそんな気もしていました。
なんとなくディアファンさんの気配? みたいなものを感じていたので。
だからいつもより張り切っていたと言ったら笑いますか? でも本当にそうかもしれません。
石田亜子ちゃんの件は、担任教諭とも話をしてみました。
今は何事もなかったように接してもらっているようですが、存外子供というのは大人より残酷なので、注意深く見守っていくつもりです。
ところで透明人間少子化対策ってかなり緊急案件のようですね。
それって透明な人たちの中での対策本部ですか? それとも不透明な人間たちがまた余計なことを画策しているのかしら。
前者だとするなら応援(しかできませんが)していますが、後者だとすると不安を感じてしまいます。
ディアファンさんはその本部で何をするのですか?
対策を練るのかしら……
とても失礼なことを聞きます。
まあご存じの通り私は知りたいと思ったら我慢ができないタイプなので。
透明な方達って私たちと同じなのですか?
結婚(マストではありませんが)して、夫婦で子供を作るという?
その方法も同じなのかしら。
下世話な話でごめんなさい。
私たちは性交渉という形でしか子を授かることはできません。
もっと言えば、そこに愛は必要ではない場合もあります。
まあそれはほぼ犯罪ですが。
同じなのかしら。
だとすると不透明な人と透明な人の間にも子供はできるということなのかしら。
相変わらずの質問魔ですね。
本当に私ったら我慢ができない性格のようです……自己嫌悪ですね
バカな想像ですが、そういったケースがあるとするなら半透明な子になるのかしら。
それともどちらかの特性だけを受け継ぐのかな……興味は尽きません。
もし言っても良いことなら教えてくださいね。
仰る通り学校は徐々に落ち着きを取り戻しています。
ほんの少しの間ですが、子供たちにとっては強烈な印象を与えたようで、もう来ないのかと聞いてくる子供も多いです。
きっと彼らにとって『情報としては知っているけれど、実感はしていなかった』事なのでしょうね。
それを目の当たりにした衝撃なのだろうと思います。
子供だけではありません。
教師たちも、自分だったらもっとうまくできたなんて今更感満載な発言をするんですもの。
擁護するつもりはありませんが、担任のお二人は本当によく頑張ったと思います。
アランシオンくんもお姉さんのラランシオンさんも、とても協力的でしたが、やはり責任を負う立場の者としては途轍もないプレッシャーでしたから。
あれから井上先生はかなり悩んでおられます。
ちょっと空気が読めないところもありますが、とても真摯に児童教育に向き合っておられる先生なので、ちょっと心配しているんです。
というのも、なぜ自分はアランシオンくんを庇えなかったのかという後悔の念っていいうのかしら、そんな感じでどうするのが良かったのかをずっと考えているみたいなんですよね。
私はベストアンサーは無いと思います。
正直に言うとやはり顔が見えないと、実感がわかないというか……
自分の思いが伝わっているのかも自信が持てないって感じかな。
そんな中で「いや、大丈夫だ。ちゃんと通じ合っている」って思い込もうとするのはなかなか難しいのですよ。
ちょっと違うけど、遠距離恋愛みたいな?
信じるしか手がないのです。
なんだか変な例えになっちゃったけれど、この交換日記を始めて、つくづく自分のボキャブラリィの貧困さに驚いています。
交換頻度が落ちるという話、お互いに仕事を持つ身なのですから(ディアファンさんのは仕事っていうのかしら?)無理のない範囲で続くことを目指しましょう。
で、考えてみたのですが、日記を書いたらあの百葉箱に小さな熊のぬいぐるみを入れておきます。
そのぬいぐるみが無くなっていたら「受け取れるよ」のサインということにしませんか?
朝と夕方に確認できるので、無くなっていたら日記を置きますので翌日にでも回収して下さい。
でも今回は日記を置きますね。
明日まだあったら回収して熊さんを置いておこうと思います。
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