第25話 9月3日火曜日 【ディアファン】

 久しぶりに日記を開いて、やっと再開したんだなって実感したよ。

 手紙も良いけれど、やっぱり日記っていうのは読み返せるし、より親密な感じがして心が弾みます。


 昨日はるかちゃんの学校にいました。

 はるかちゃんの頑張る姿を見て、なんだか誇らしくなって、一生懸命に発言する君に応援の声をかけそうになってしまったよ。


 ボクたちの意見は概ね君が昨日言った通りなんだ。

 無理に制服を着る必要はないと思っているし、安全の確保のための巡回員だと思ってる。

 ボクたち透明人間は、そこにいるという認識を持ってもらいたいとは考えていないんだ。

 むしろ気付かれない方が安心できるしね。


 だから「クラスメイトに透明人間がいるけれど見たことはない」で正解なんだよ。

 手を上げても当てられることはないよね? それでいいんだ。

 もしわからないことがあって、そのままにしたくないと思えば、その子は声を出すだろうし、もし出せなくても後で職員室に聞きに行くと思う。


 それって透明人間だからじゃないでしょ? きっと不透明な子でもそうするでしょ?

 だから特別に気にかけて貰う必要は無いんだよ。

 

 あの職員会議のあと、校長先生と教頭先生、6年と4年の学年主任と担任になる二人の先生が集まったんだ。

 こちらからは巡回員になる二人と、ヴィレッジの代表と生徒の親が出席した。

 これは君の発言があったからこその集まりだ。

 

 結論から言うと、会議室で相対した不透明人間たちの戸惑いが凄かった(笑)

 まあ当たり前だよね。

 でも彼らは(というか、あの法案を通した人たちは)それを子供にさせようとしている。

 それを言ったら愕然とした表情を浮かべたんだよね。


 改めて現実を直視したって感じかな。

 彼らの戸惑いは理解できるし、普通のリアクションだと思う。

 だから子供たちが同じことをするのも簡単に想像できるし、先生たちにそれを咎める権利はないよね。


 だから「ちゃんと登校はするけれど、関わろうとはしなくて良いですよ」って言ったよ。

 もし必要ならこちらから先生に言いますよって言ったら、あからさまに安心した顔をしてたから笑ってしまった。

 戸惑っているのは同じなんだよね。


 それと、報告が遅くなったけれどボクは巡回員になることにしました。

 でも不定期に交代することになったから、必ずしも毎日学校にいるわけではないんだ。

 誰かは必ず付き添っているっていう感じだね。

 主には保護者が行くと思うけれど、これは内緒だよ。

 

 ボクらは幼いころから声を出さないという訓練を受けているんだ。

 だからめったに発言はしないだろうし、困ったことでも余程のことでないと言わない。

 遠慮とかではなく、習慣としてそうなんだということは理解してほしいな。


 授業中に発言しなくても悩まないでほしいんだ。

 それは一応伝えたけれど、あまり理解はしてない感じだったから念のために君にも伝えておきます。

 もし相談されたらそう言ってあげて。


 でもそうなると、なぜ君が透明人間のことに詳しいのかってことになると思う。

 知り合いがいるって言っても構わないけれど、きっと根掘り葉掘り聞かれちゃうよね。

 だから無理はしないでほしい。

 もしそんな話になったら、奈穂美さんから聞いたっていうのが一番無難な回答だと思うよ。


 不透明は人たちはボクら透明人間のことはほとんど知らないでしょ?

 でも透明人間たちは意外と不透明な人たちのことを理解しているんだ。

 だってずっとその中で生きてきたんだもの。


 だからそちらの習慣に合わせることには慣れているんだよ。

 それにボクら透明人間は絶対にルールは守るから、その点は信じてほしいと思う。

 なぜそんなことを言うかって?


 きっと学校に行ったらわかるよ。

 千葉の学校で問題が起こっているんだよね。

 ボクらから言わせたらバカバカしいの一言だけれど、証明のしようがないのも確かだから。


「透明人間に着替えを覗かれました」

「透明人間にお金を盗られました」

「透明人間に背中を押されて階段から落ちました」


 絶対に無いから(笑)

 まあ信じてもらうしかないのだけれど。

 でもこんなことが続くと、きっとお互いのために良くないと思う。

 どうなる事やら……


 はるかちゃん、無理はしないでね。

 立場を悪くしてまでボクらを庇う必要はないから。

 何か困ったことがあったらすぐに言ってね。

 

 ボクが登校する日は、百葉箱に月桂樹の枝を差しておきます。

 なぜ月桂樹なのか……それはまた次回。


 ではまたね。

 次回も楽しみにしています。

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