第11話 7月1日月曜日【ディアファン】
まず先に言っておくよ。
ボクがキミの言葉に怒ることは無いし、気に障る事なんて全然ないから。
でも本当に良かった。
キミに気持ち悪いって言われるのは、本当に耐えられそうにないから。
今まで生きてきた中で、何度も何度も言われてきた言葉だし、そう言われることに耐性はついているつもりだけれど、傷つかないわけじゃないし、辛くないわけじゃないもの。
特にキミにそう言われると考えただけで、恐ろしくて消えてなくなりたくなる。
まあ、透明だから同じなんだけれど。
人って結局、自分の経験や知識の範疇でしか考えることはできない生き物なんだよね。
稀に「ひらめき」みたいなのを実現する天才もいるけれど、それはレアでしょ?
透明か透明じゃないかという違いだけで、キミとボクの間にはものすごく深い「未知」が存在するよね。
それを少しずつ、時間をかけて教え合いながら、距離が縮まると嬉しいな。
では胸のつかえが無くなったキミの質問に答えるね。
まずはキミたち「不透明人間」と、ボクたち「透明人間」の中間のような存在である「半透明人間」について。
それにしても俊逸な表現を思いついたねぇ、感心しました。
ボクたちという存在はかなり歴史を持っているという話はしたよね。
見えないボクたちはどんな学校にも行き放題だし、どんな場所でも(とはいっても絶対に入れないところもたくさんあるよ。それは物理的にね)行きたければ行けるんだよ。
ボクは「光」に興味を覚えたから、大学に行って何度も何度も同じ授業を受けた。
もう納得するまで何度もね。
いいなって思った? 確かに得だよね、授業料も要らないし、試験もない。
でも質問することはできないんだ。
何度聞いてもわからないところは、自分で調べるしかないんだよ。
だから図書館にも良く行く。
昼間ではなく夜中にね。
だって本が浮かんでいると怖いでしょ?
だから閉館時間前に入って、翌朝の開館時間に帰るんだ。
警備員さんの巡回時間も把握しているから、驚かしたり迷惑を掛けないように配慮すれば、
納得できるまで調べることができる。
絶対に内緒だけれど、気になる本を持ち帰ってじっくりと読んだりすることもあるよ。
誤解しないでね? 絶対に返却しているし破損もしてないから。
キミたちと同じで、ボクたちの中にもたまに天才的頭脳を持っている者が生まれたりする。
しかもボクたちは勉強し放題でしょ? タダで(笑)そりゃ伸びないほうがおかしいよね。
そんな天才の中の一人が「透明人間」の細胞の謎を解き明かし、それに着色をする方法を編み出したんだ。
でもその頃はまだ「透明人間」という存在は社会的に認知されていなかった。
彼は単独で研究をしていたから、治験は自分の体を使うしかないよね。
当然だけれど、失敗もあるし、予想外の出来事もあったんだ。
その結果「不透明が長続きはしない薬」まではできたんだ。
それがキミの見た「半透明人間」というわけさ。
その薬を飲んだら、ボクたちを形成している「透過メラニン」が不透過になるんだけれど、その効果は24時間しかもたないんだ。
開発者によると、ボクたちの体は驚くほど代謝が良いらしいよ。
その代謝によって、不透明が透明に戻る途中の状態、それが「半透明人間」だよ。
開発者に聞いたのだけれど、その薬に副作用は無いらしい。
というのも、薬品会社に忍び込んで……なんて、いくら何でも無理だし犯罪でしょ?
彼らはものすごく努力して自生している薬草だけで開発したんだ。
すごい根性だよね。
そして、開発者は世界に散らばっている同種族に、薬を無料配布すると宣言した。
凄い反響で、特にヨーロッパに定住している仲間からは、依頼が殺到した。
そして「透明人間保護法」が各国で広まっていったんだよ。
日本は遅い方だったんだ。
でもね、保護法が制定されたら、薬の依頼はほとんどこなくなった。
みんな「透明人間」の存在の認知は望んでいたけれど、「透明人間」が嫌だったわけではないということだよね。
ボクらにはボクらの文化がある。
そしてキミらにもキミらの文化があるよね。
どちらかに統一する必要は無いよねってことさ。
そこで絶対的に必要なのは「相互理解」だけれど、これがなかなか難しい。
最初の方に書いたけれど、人って結局のところ、自分の経験や知識の範疇でしか想像も妄想もできない生き物なんだよ。
悲観しているわけじゃなく、これが現実ということ。
まあ中には、キミみたいに好奇心旺盛な人もいるわけだしね。
さっきの薬のことだけれど、開発のきっかけは「恋」だったんだよ。
その天才科学者は「不透明人間」の女性に恋をした。
いつもきれいに着飾っているその女性の横にいるだけで幸せだったのに、ある日急に全裸でたっている自分に羞恥を覚えてしまったんだって。
聖書の中のアダムとイヴが、林檎を食べた時のような感じだって言ってた。
でもその考えは自分たちのアイデンティティの否定に繋がるだろ?
だからすごく悩んだみたい。
でも彼の恋心は消せなかった。
彼女に「自分の存在」を認識してほしいという一心で、世界中を旅して薬を開発したんだ。
なんでそれほど詳しいのかって?
その開発者がボクの叔父だからです。
その恋はどうなったか知りたいでしょう?
それは次回のお楽しみに取っておきましょう。
そろそろ梅雨も終わるかな。
早く終わると嬉しいな。
ではまた。
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