第10話 6月29日土曜日【はるか】

 正直に言ってくださってありがとうございました。

 胸のつかえがとれました。


 わたしが命の恩人に向かって「気味悪いストーカー」なんて思うわけ無いでしょ?

 実はあなたに会ってからずっと、誰かに見守られているような感じはしていたのです。

 わたしもシックスセンスがあったりして(笑) 

 でもそれがあなただとわかって、ほっとしたというか、とても安心しました。


 それにしても、あのホームレスさん、ちょっとかわいそうだったかもですね。

 まさかそんなお告げを受けていたなんて!

 でもきっと、雨をしのげるようなもっと良い場所を見つけたはずと信じることにします。


 予想していなかった事態とはいえ、日記をお渡しできないということが、これほどまでに寂しいとは自分でも驚きました。

 毎日会って話をしていた友達と、急に会えなくなる喪失感みたいな感じでしょうか。


 わたしの毎日はいたって平凡です。

 毎朝バスに乗り、公園を横切って勤務先に向かい、子供たちの元気な声を聞きながら出欠をとり、授業が始まります。


 中には問題を起こす子もいるし、おとなし過ぎて心配になる子もいます。

 子供というのはとかくすぐに熱を出すので、顔色をチェックするのも大事な仕事です。


 子供たちと同じ給食を食べて(実は量も同じなのです)午後の授業を終えると、明日の授業の準備にとりかかります。

 成績表作成の頃は残業も多いですが、普段はそれほど遅くはなりません。


 毎日ほんの少しだけ変わったことが起こりますが、穏やかな毎日が大半なのです。

 その湖面のような日々に、あたなという存在が加わったというか、これはもうわたしにとっては、とんでもない出来事だったのですよ。


 もちろん嬉しいハプニングです。

 透明な人たちが存在しているということは、知識としては知っていても体感したことは無いというのが、悲しいですが現実です。


 それを私は体験できているわけですから、もうワクワクドキドキな毎日なのです。


 そういえば、例の法案が可決されたときに、テレビに出ていた「元透明人間」っていう人たちってどういう存在なのですか?

 色素が薄いだけという印象で、目鼻立ちは目視できていたような気がするのですが。


 何か見えるようにできる薬とか方法があるのでしょうか?

 テレビ画面で見た彼らの印象は「洋服のサイズがあってない?」です。

 絶対にディスっているわけではないので誤解しないでくださいね。

 

 なんと言うか、肌が白いからかな? 背広が浮いて見えたというか……特に首回り。

 そんな印象です。

 とても真剣に保護法の認可に動いておられたのでしょうし、それを成し遂げられたことはとても素晴らしいことだと思います。


 この感想は、大多数の不透明人間の感想だと思います。

 不透明なので、裸でいるわけにはいかないじゃないですか。

 逆に透明な方達は洋服を着ると、それだけが浮く感じですよね?


 以前言っておられた傘も同じでしょ?

 だとしたら、あなたっていつもフルヌードってことですよね?

 もしわたしが手を伸ばしてしまうと、素肌に触れるということになっちゃうわけで。


 変な方に行きそうなので、話を戻します。

 テレビに映っていたあの方たちは、確かに観えていました。

 男性か女性かも一目でわかりましたし、みなさん髪が短いのだなぁと思ったので間違いないと思います。


 でもわたしたち不透明人間とは、何かが違っていたのです。

 もちろんあなたたち透明人間とも違っていました。

 でもご自分たちを「元透明人間」だとおっしゃっていたでしょう?

 あえて誤解を恐れずに言うと「半透明人間」という感じかなぁ。

 あれってどういうカラクリなのかしら。


 あっ! もしお気に触るようなことを言っていたらすみません。


 それから、胸のつかえが取れた瞬間から、怒涛の質問の嵐……ホントにごめんなさい。


 とにかくちゃんと声でお礼が言いたいです。

 でも雨が続きそうなので、今は我慢します。

 でも梅雨が明けたら絶対にちゃんと直接言わせてくださいね。

 返事はしてくれると嬉しいけれど、そこはお任せします。


 それと交換日記を止めるつもりは欠片もありません。

 ぜひぜひ続けていきましょうね。

 

 最後になりましたが、いつも見守って下さっていたとのこと、本当にありがとう。

 お陰さまで今日も元気に生きています。


 では、また次回。

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