第8話 6月25日火曜日【はるか】
ごめんなさい。
少し空いてしまった上に連続でわたしが書いてしまいます、お許しください。
日曜の夕方、実は公園まで行ったんです。
でも、百葉箱には入れずに帰ったんです。
月曜の朝も。
けれど入れませんでした。
交換日記が嫌になったんじゃないです。
ちょっと変なことがあって。
月曜日にそのことを日記に書こうかなって思ったんですけど、続けてわたしが書くのってルール違反かなっておもったりもしましたが、どうしてもお渡しする前に書きたくて。
今までのルーティーンは、朝、学校へ行く前に百葉箱を覗いて、日記があれば持ち帰ってその日の夜、お返事を書いて、翌朝また百葉箱に戻すっていう感じでした。
土曜の朝に入れた日記を日曜の朝取りに行って、ワクワクで帰りました。
机に座ってすぐに読んで、そのままお返事を書きました。
そして、交換日記を始めてから最初の休日だったこともあって、なんだかとても浮かれていました。
だからその日の夕方、月曜日を待ちきれずに日記を持って公園に向かったんです。
すると、百葉箱の横に誰かいたんですよ。
近づいてみると、見るからにホームレスって感じの人で、百葉箱を開けてのぞきこんだりしているではありませんか!
彼らにはそうなる理由があって、決してホームレスの方を蔑んだりするつもりはないんですが、わたしたちの秘密の場所が知られてしまうのは避けたかったので、そのまま踵を返して帰宅しました。
また明日の朝いつものように持っていけばいいやって、無理やり自分を納得させて。
そして翌朝、いつものように公園に行くと、昨日と同じホームレスさんがまだいたのです。 よほどそこが気に入ってしまったのかしら。
しかも、まだ朝も早いというのに起きだしていて、段ボールのお家を補強しているではないですか!
日曜のぐずぐず天気で、木陰でも段ボールが濡れたんでしょうね。
かなりヨレヨレになっていたし、水も染み込んでいましたから。
きっとあきらめて引っ越しされるはずって思って、帰りに寄ることにして学校に行きました。
そして夕方……なんと、まだいらっしゃるではありませんか。
きっと陽が出ている間に少しでもお家を乾かしたかったんでしょうけれど、天気予報では夜半から本降りとなっていましたから、さすがに引っ越されるはずだと考え、明日にしようって思って帰途につきました。
このあたりでホームレスの方ってほとんど見たことないです。
そういう境遇の方たちは、それぞれでしょうが、金銭的なことや生活のことで心に大きな傷を負った方が多いと思います。
都会には多いと聞きますが、この辺りで見かけることは無かったのですよ、今までは。
だって田舎でしょ? 大好きな街ですが田舎というのは間違いないでしょ?
単に人口比率の問題だったのか、私が気付かなかっただけなのか。
都会には社会復帰の支援センターがあると聞いたことがありますが、島根にもあるのかなぁとか考えながら、それこそボーっと歩きました。
だってまた渡せなかったって思うと、すごく寂しい気持ちになったんですもの。
大通りの信号に差し掛かった時、赤から青にそろそろ変わりそうなタイミングでした。
それで一歩前に出たのです。
その時に歩道の段差に躓いてしまって、よろけて倒れそうになりました。
ホントに危機的状況だったと思います。
景色がスローモーションになって、ここで大怪我をしてしまうと、みんなに迷惑をかけちゃうって思った瞬間、誰かに支えられたのです。
両脇がスッと持ち上がる感じで、お陰で事故に遭わずに済みました。
振り返ってお礼を言おうと思ったら、そこには誰もいなくて……
「もしかして、一昨年亡くなったおじいちゃん?」とも思ったんですが。
きっとあなたですよね?
もしかしたらあなたのお仲間だったのかもしれませんけど、なぜかあなたに助けてもらったと思いました。
だから「ディアファンさん?」って声に出して聞いたのに返事は無いし、周りを見渡しても見えるはずもなく……
家に帰ってもずっと考えていていましたが、気になって仕方がないのです。
だから今朝早く起きてこれを書いています。
あれはディアファンさんですよね?
わたしにはあなた以外考えられませんので、そうだという前提でお話したします。
本当に危ないところを助けていただき、ありがとうございました。
でも、どうして答えてくださらなかったんですか?
内容の善し悪しは別にしても「透明人間保護法」が制定された今、あなたの存在を隠す必要はないと思うのです。
もしそれで騒ぎになったとしても「じゃあね」ってだけ言って去って行けば、誰もあなたを追うことはしないし、できないでしょう?
もしかして、本当にあなたじゃなかったの?
この日記が百葉箱にあったら、例のホームレスの方はお引越しされたという事ですから、交換日記は続けることができますね。
読んだら是非教えてください。
あなたはなぜ、あそこにいたの?
あなたはなぜ、返事してくれなかったの?
あなたに出会ってから、ドキドキではなくモヤモヤするのは初めてで戸惑っています。
本当のことを知った上で、心からちゃんとお礼を言いたいのです。
御返事、待ってますね。
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