第6話 6月22日土曜日【ディアファン】
これほど楽しみでたまらないなんて初めてかも。
朝起きた瞬間から機嫌がいいらしくて、家族や仲間から不思議がられてるよ。
でも、無理はしないでね。
できるだけ長く続いてほしいんだ。
ボクの姿を見たいわけじゃないって言ってくれたことに、実はとても安心しました。
というか、ボクらを少し理解してくれた感じがして嬉しかった。
ボクたちとキミたちとは、人間として進化していく過程のどこかで枝分かれして、独自の文化を持つ地球上の生き物として存在している。
だから透明という事以外は似ているけど、やっぱり文化も、体の構造もやっぱり少しずつ違う。
「姿を見たいわけじゃない」ってことは、ボクらという存在を受け入れてくれたと解釈するよ。
「異文化交流」が大好物だなんて、ホントにキミは好奇心旺盛なんだね。
普通はどちらかというと、異文化に対しては一歩引いてしまう事の方が多い気がする。
「交流」することは言い換えれば「垣根を超える」ことで、下手すると相手を冒涜する事にもなりかねない。
それを恐れて、ボクも含め、大方の人はなかなか初めからは踏み込めないと思うんだ。
でもキミは垣根を越えてきてくれようとしてる。
それは嬉しいと同時に、ボクにとっては少し怖い事でもある。
キミが思っているよりずっと、ボクは自分に自信がないんだ。
なんと言えばいいのかな? 誰にも認識されないということに、寂しさを感じると同時に、安心しているっていう感じかな。
でもキミとこうして話していると、だんだんとボクらのことをもっと知ってもらいたいっていう気になってくるんだよね。
キミはボクにエネルギーを与えてくれる存在だよ。
「大好物は何ですか?」っていう質問、一般的には「食べ物」のイメージだよね。
キミの大好物は「行動」だったから少し笑ってしまいました。
ボクの大好物の一つは「光を浴びること」です。
そう、日光浴。
光を透過するのにって思うかもしれないけれど、ボクらの細胞は紫外線の一部は透過しないんだって、前に少し書いたよね。
ボクらの体はその光で細胞内のミトコンドリアが「透過メラニン」を形成し、光合成のようにエネルギーも作っているからなんだ。
ちょっと植物っぽいよね。
ボクらはそのエネルギーで生きている。
つまり、経口摂取的な食事はしないってこと。
もちろん口はあるよ。
ほとんど退化してはいるけど消化器官のような臓器もあるにはある。
水分補給は皮膚から。ブヨブヨになっちゃうけど。
食べたり飲んだりのマネごとは可能だよ。ただ、そのまま排泄されちゃうけど。
味覚のような感覚はあるよ。
でもそれを「おいしい」とか「まずい」とかの判定はできない。
脳にそういう判断基準が刷り込まれていないのだと思うよ。
ボクらにとって、光を浴びることは「生きる糧」なんだよね。
だから大好物なのです。
五感は全部キミたちと同じだと思う。
まあ本当に同じかどうかはわからないけれど。
どこかにぶつけると痛いし、呼吸はしてるから臭いものは臭い。
味はさっき言ったように違いは判るけど、うまいまずいはわからない。
もちろん見たり聞いたりしゃべったりできる。
あまり体臭はないみたい。
ゼロじゃないけど。
だからたまに犬には気付かれる。
何にもない方に向かって吠えてる犬っているでしょ?
あれ、ほとんどボクらに吠えているから。
あまり一度に言っちゃうと、さすがのキミも気持ち悪くなっちゃうかも?
なので今日はここまでにします。
好きなことと言えば、食べ物以外には「アニメ」とかが好きだよ。
宮崎さんの映画とか全部観てる。
ああいう世界観が好きなのかも。
初めて会った時、キミも映画好きって言ってたよね。
どんなジャンルが好きなの?
何ていうタイトルだったかな。
ずっと昔、まだ小さな子供の頃に父と観たんだ。
ボクが生まれるずっと前の映画だ。
小さな子供が仕事で離れ離れになった父親に会うために、四国から大阪に行くんだ。
途中、色んな障害や冒険があって。
でも最後にはちゃんとたどり着く。
子供心にワクワクして、夢中で観てた。
終わって帰るとき、父の手をぎゅっと握って離さなかったことも懐かしい思い出だよ。
今日も一日雨だ。
気象庁の人じゃなくて、もう「栗花落」さんが梅雨入り宣言して良くない?
では、また。
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