第5話 6月21日金曜日【はるか】
まず始めに。
あなたの姿を見たいとは思ってません。
だって見えなから透明人間さんなんだし、その透明人間さんと交換日記をしているのが私なんだもの。
最初からそれありきで始まったでしょ?
だからあなたにそう言われるまで、見たいなんて考えもしませんでした。
でも確かに「透明人間同士って見えるのか?」って疑問を持ったことは認めます。
だって、見えないとどうやって互いを認識するのかなって思っちゃう。
気を悪くしたらごめんなさい。
わたしは小さいときから好奇心アリアリな子で、何でもかんでも興味をもっていました。
だけど、私があなたに興味を持って「見たい」って思ったのは、あなたの姿じゃないです。
見たかったというより、知りたかったのは透明人間さんたちの日常です。
どんな風にどんな暮らしをしてるんだろうって。
透明人間という人たちとお話してみたいなって思っても、どこでどのようにしたら出会えるのか見当もつかないでしょ?
もしかしたら今までも隣に座っていたり、すれ違ったりしていたのかも知れないけれど、確実にいると思えたのは初めてでしたから。
あの公園、通勤の途中だからよく行くんです。
あの日は本当に不思議な日でした。
というのも、あのベンチに座る10歩前くらいから何となく、右側に誰か座っているなと感じたからです。
だから左側に座ったんです。
その時の感覚を敢えて言葉にするなら、温もりを感じたが近いかな?
よく気配を感じるってあるじゃないですか。
見えない暗がりに誰かいる的な感覚です。
でも誤解しないでくださいね、絶対に嫌な感じじゃなかったです。
穏やかな寛ぎを感じたというか、うまく表現できないけど。
とにかくあなたがいるって思ったら声をかけずにいられなくなったということです。
そして話してみると、わたしたちと何も違わないことがわかってきて、もっともっと知り合いたいって思っちゃたんです。
だから迷惑かもって思いつつも、いっぱい質問しちゃいました。
あなたは丁寧に答えてくれましたね。ありがとう。
小学校の時の同級生に「白斑症」の女の子がいました。
みんなじろじろ見てるくせに、かわいそうだから言わないって感じが充満していて、居心地が悪いというか、なんとも嫌な雰囲気でした。
だから私はその子に言ったんです。
「ね、どうしたの? その斑点、病気なの?」って。
急に話しかけられて、その子は驚いていたけれど、ちゃんと答えてくれましたよ。
「うん、白斑っていうの」
「治るの?」
「皮膚を移植すれば治るかもって。でもいいの。ただマダラなだけだもの」
「でも病気なんでしょ? 死んじゃったりするの?」
「ううん、死なないよ」って、彼女は笑いました。
「なら、よかった」ってわたしも笑いました。
周りの子たちは「なんてデリカシーのない」って顔で私を睨んでいました。
でも私は今でもそうして良かったと思っています。
だって彼女は今でも大切な私の親友だからです。
私だけの考えかもしれませんが、誰もが同じじゃないといけない訳なんてないし、違う事の何がいけないのかって思います。
肌の色、言語、考え方や文化、身体的特徴。
多種多様にあって然るべきです。
その個性に触れないようにしたり、見ないようにすることは、相手を見下していることになると思います。
最もいけないのは、陰でヒソヒソ言う事ではないでしょうか。
見て見ぬ振りも絶対に間違っていると思います。
まず、聞いてみて、理解する。
そうすれば互いに心が通じるはずでしょう?
知らないことを理解する努力もせずに放置することが一番の偏見だと思うんです。
正直に言うと、いつもその方法がうまくいくわけじゃないです。
長い間偏見にさらされた人の気持ちは簡単には理解できるはずもないし、それこそわかったふりをするのは違いますよね。
わたしのそんな行動で、傷つけてしまった人もきっとたくさんいるのでしょう。
でも、見下したことや可哀そうにと考えたことは一度もありません。
同じ人間に上下なんてあろうはずがないから。
不便なことがあれば、助け合えばいいことだから。
ごめんなさい、つい熱弁しちゃって。
これがわたしの最良の長所であり、最悪な短所でもあります。
これからも、この調子でいっぱい質問すると思います。
だって知らないことだらけだから。
わたしにとって、今回のあなたとの交換日記は、初めての異文化交流なのです。
これはわたしの大好物の一つです!
だから今まで生きた中でも最高にワクワクした毎日を過ごしています。
今回の最後に質問です。
あなたの大好物は何ですか?
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