第4話 6月20日木曜日【ディアファン】
日記、続けるって言ってくれてありがとう。
絶対に大丈夫だとは信じていたけれど、実際に百葉箱を開けて、そこにあった日記を開いて、キミの筆跡だと確信するまでは、やっぱり不安だったから。
これまでずっと目立たないように(透明なのにこの表現は変かな?)生きてきたから、日陰者意識っていうのかな、どうしても自分のことをまともに相手してくれる人間なんていないって考えてしまう癖のようなものがあるんだよね。
だからキミが日記を返してくれたことが、本当に染みるほど嬉しかった。
今日の空と反対にボクの心は雲一つなく晴れ渡っています。
ボクの名前のことから話すね。
ボクらの祖先は、紀元前15世紀頃のギリシャまで遡るらしいんだ。
そこから少しずつ増えていって、ある者たちは南へ、ある者たちは北へ、そしてある者はシルクロードを超えて、ここ日本に渡って来たんだってさ。
だからボクらの名前はみんな日本人っぽくないんだよね。
「ディアファン」っていう名前は、けっこうポピュラーな名前なんだよ。
日本人的に言うなら「太郎」とか「一郎」とか?
「透き通った初めの子」という意味らしいよ。
透明人間の世界にも少子化の波は押し寄せていて、実は人間界よりもずっと深刻なんだ。
出生率が2以上ないと人口は減少するらしいけど、日本の出生率は1.3だっけ? それで言うとボクらは0.9なんだ。
簡単に言うと、2人で2人の子を産めば、単純には増減なしだけど、ボクらの0.9っていう数字は、明らかに半分以下になっていくってことなんだ。
まさに絶滅危惧種の数字だよね。
キミたちも状況は同じだよね。
1000年後に日本人は消滅するって、どこかの国の学者が計算したらしいよ。
キミがボクと友だちになってくれたように「出会い」って不思議だよね。
偶然なのか、必然なのか。
キミたち人間界も、ボクたち透明界も、この「出会い」が圧倒的に少なくなっているのが今だよね。
それが出生率の低下の絶対的な理由ではないだろうけれど、大きな要因だと思う。
変な方向に話が行っちゃったけれど、変な意味には取らないでね。
ボクがキミとどうこうとか、そんな意味じゃないから、誤解しないで下さい。
「出会う」ってことに戻るけど、透明人間どうしにも出会いはあるよ。
きっと今のキミの頭には、こんな疑問が湧き上がっているんじゃないかな?
「透明人間どうしって互いに見えるの?」
ちょっと真面目に話すね。
「見える」っていう事の科学的な定義は「光が反射する」ことだよね。
つまり、光を反射しないで透過しちゃうものは不可視という事だ。
ボクは島根大学で光工学の授業をずっと聞いていたから、細かいところまで理解はしたし、説明しろと言われればいくらでもできるけれど、たいして面白い話でもないので、詳しいことは省略するけれど、ちょっとだけ。
前回「水は青い」って言ったよね。
あれはつまり、水って光のプリズムの青い色だけを反射してるってことなんだ。
他の色は透過するから目には見えないけど、赤外線や紫外線は透過しない。
だから特殊な眼鏡とかで見たら水は真っ黒に見えるんだ。
ごめん、学校の先生に対して授業してるみたいな口調になってしまった。
ボクって親からも仲間からも「理屈っぽい」とか「説明多い」とか言われちゃう。
もしキミが嫌なら、直すように努力するから遠慮なく言ってね。
性格っていうのは否めないけれど、キミに対しては、少しでも透明な体を持ったボクのことを理解してもらいたいという気持ちだと思う。
だからつい説明口調になっちゃうけれど、しばらくの間は我慢して付き合ってください。
話を戻すね。
「透明人間同士、見えるかどうか」について。
さっき書いた水の話はに通じるんだけれど、ボクらの体は紫外線だけほんの少し反射するんだよ。
だから紫外線を可視化できるスコープを使えば、キミたちにもボクらが見えるよ。
まあ、ほんのうっすらだけどね。
ボクらの眼はこの紫外線に対する反射を増幅して見るようになっているみたいだ。
要するにお互い見えるってことなんだけれど、くっきり見えるわけじゃないよ。
例えるなら「逆光の中のシルエット」かな?
ボクのこと、見たいって思っちゃった?
その気持ちは分かるけれど、透明人間って透明であることがアイデンティティでしょ?
つまり見えないということがボクの個性なんだ。
キミがそれを理解してくれたら嬉しいよ。
じゃ、今日はここまで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます