第3話 6月19日水曜日【はるか】
ワクワクしながら百葉箱を開けました。
で、日記が入ってるのをみて思わず「わぁ!」って声を出しちゃって。
わたしたちの秘密の場所がバレちゃうところでしたよ(笑)
透明人間のこと、いろいろ教えてくれてありがとう。
同じ星に住んでいるのに、何も知らないことってあまりにも多いですよね。
でも同じ人間なのに、本当に何も知らなってとても不自然なような気がします。
だからこれからも色々教えてください。
わたしのことも少しお話ししますね。
我々普通の人間(ほんとに嫌な言い方ですが便宜上許してください)のことを、透明な皆さんはよくご存じなのですよね?
でも昨日の日記には前例がないって書いてあったので、もしかしたらお互いに知らないことだらけなのかなって思ったりしました。
まずは、わたしの名前のことをお話します。
そういえば、あなたのお名前は「ディアファン」さんですよね。
日本生まれってことでしたけど、外国人っぽいお名前ですが、何か謂れがあるのですか?
それとも透明の方たちの中では普通なのでしょうか? って、また質問してるし……ごめんなさい。
あなたはご自分のことを「マイノリティー」とおっしゃっていましたね。
わたしもマイノリティーと言える名前を持っています。
「はるか」って別に珍しくもないと思うかもだけど、実は苗字はもっと珍しくて、フルネームを漢字で書いて、正確に読んでくださった方は今まで一人もいないのです。
わたしの名前は「栗花落 紫陽花」です。
読み方は「つゆり はるか」で、「栗花落」と書いて「つゆり」、「紫陽花」と書いて「はるか」です。
だいたいは「くりからく あじさい」って読まれてしまいます。
あと、漢字の数とフリガナの数が同じ「6」です。
これはそんなに珍しくはないかな?
ご存じかもしれませんが「つゆり」って「梅雨入り」という意味だそうです。
梅雨入りすると言う頃に栗の花が落ちるからだと聞きました。
ちょうど今くらいの季節ですね。
まさにあなたが嫌いなシーズンが、私の苗字っていうのもなんだかなって感じですが。
きっとまだ、気象予報士さんの見る栗の花が落ちてないから、宣言が出ないのかもって考えると、少しだけ楽しくなってしまいます。
言いたかったのは、わたしもあなたと同じ「マイノリティー」だということです。
でも、マイノリティーで何が悪い? と常々思っています。
他と違うことは「個性」でしょ?。
少数派であればあるほど、それは際立つ個性なのです。
個性なんて何種類あったって良いはずでしょ?
わたしはこの「栗花落」っていう姓が大好きです。
夫婦別姓が取りざたされていますけど、いつか私も結婚をして、この「栗花落」とお別れする日が来るかもしれないということが、とても寂しいと思うほどには気に入っています。
ここでちょっと豆知識。
紫陽花って植えてある土が酸性かアルカリ性かで色が色が変わるんですよ。
酸性だと青、アルカリ性だと赤っぽくなるそうです。リトマス試験紙とは反対ですね。
話を戻しますね。
昨日は本当にドキドキしました。
絶対に隣に誰か座っているって思ったというか、感じたというか、とにかく初めての体験でした。
だから、変な人って思われてもいいからって、思い切って声をかけてみたのです。
そしたら「はい」って返事が返ってきて!
驚きはしませんでしたが、とてもドキドキしました。
むしろ、誰かいると確信した自分のことを不思議に感じましたね。
こういうのを第六感っていうのかなって思うと、ドキドキがワクワクに変わったのです。
これからもあなたのお話を聞くのが(読むのが?)とても楽しみです。
だから交換日記、私の方こそよろしくお願いします。
明日、学校に行く前に百葉箱に返しておきますね。
あっ、学校というのは私の勤め先のことです。
わたしは母と同じ教師という職業を選びました。
わたしの人生にワクワクをくださって本当にありがとうございます。
では、また次回。
無理のない範囲でいいので、ずっと続けて欲しいって思っています。
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