第二章 -戦争-
第三十七話『知らんかった』
「ねぇねぇ、シエンくん。あそこに変なのいるよ?」
遠くの草むらの近くに変な生き物を発見。薄い灰色の体をした頭が五つのイモムシみたいな見た目してて気持ち悪い。
「えーっとですね、あれは『ペール・ハンド』と言って、『プレイ・グース』に進化する前の幼体ですね。めちゃくちゃ危ない零獣です…」
この子、すごい物知りだな。どうやらエーアステ・クラッセには零獣についていろいろ教えてくれる講座があるらしくて、そこの知識らしい。
「ところであれって何級なの?そんな危ないってならさ」
「えーーーっと…たしか進化前が二級で、進化後は一級ですね」
へー、高っ。
「てか今まで気にしたことなかったんだけど、零獣の等級分けってどうやって決まってるの?」
上から神話級、一、二、三、四級と下がっていく階級。一般的には強さ順って認識だけどそんな簡単な物じゃないと思うんだよね。講座があるくらいだし。
「えっとですね、実は等級は一般の認識とは違ってかなり厳格に規定があるんですよ」
ほらやっぱり!私の予想としては魔力量とかかな。シンプルだけどわかりやすいし。
「その基準は実は…」
「実は…?」
「『血液』なんです」
血ぃ?思ったよりめんどくさそうだった。
「性格に言えば『血液の純度』ですね。モルテルさんは『龍』をご存知ですか?」
「『龍』か。なんかやべー強いのがいるって言うのは知ってるね」
「零獣は全て、八体の龍から誕生したという経緯があります。最初の龍に血の成分が近ければ近いほど等級が上がるんです」
うわ…めんどくさっ!いちいち持って帰って調べないと等級分からないんだ!
「更に言うと、零獣の最高位は『
へぇー。巷で聞いたところによると、『神話級』に出会ったらもう助からないから祈った方がいいとかなんとか。そんな強い奴等の更に上!絶対にお目にかかりたくもないね…
「ですので…早く離れましょう。あいつ危険なんですから」
「え、二級なんでしょ?倒せるよたぶん。大丈夫大丈夫!」
「いやいやいやいや、今言いましたけど零獣の等級って強さの指標じゃないんですよ。つまり、ランクが低くてもめちゃくちゃ危険なやつはいるんです!」
そんな危ないの?イモムシじゃん。ぷちっと潰せそうな、正に掌サイズだし。あ、だから『
「近くで観察したいなぁ」
「だめです!ほら、行きますよ」
そこまで言うなら仕方ないか。先に進むとしよう。
今は、街と街の間の街道をたぶん6割くらい進んだところかな?けっこう順調だね。
あと見て分かる通り、シエンくんとはかなり打ち解けた。なんでだろうか、すごい喋りやすいんだよね。いい子だからかな?
今向かってるのはヴェールトロース王国…つまり今いる国1番の学術都市『ヴィッツ』。
あのクズは医者だし、もしかしたらいるかもしれないと思って私が決めた。
街を出た後すぐにシエンくんにあのクズが何処にいるか知ってるか聞いたけど、やっぱり知らなかった。ただ、あいつは王国お抱えの研究者になってるらしいので、たぶんヴィッツにいるでしょう。
ああ、あいつをこの手にかけるのが楽しみだ!ではでは、ヴィッツへれっつらごー!
◆◆◆
ふぅん。初めて森から出てきたけど、人の街ってけっこう賑わってるんだね。
「ねぇダウト、君はここ来たことある?」
「あるぞ。遥か昔じゃがの」
「じゃあ役に立たねぇな」
「んなっ⁈」
森から出て意外と近くに大きめの街があった。たーっくさん人がいることだろうね。ワクワクする。
ここまで出張ってきた理由は唯一つ。魔王軍拡張計画を実行するためだ。ここにいる大量の人を眷属に転用できればかなりの強化になりそうだし、今日はその下見だ。
この街を滅ぼすことには、別に問題がある訳じゃない。問題はその後だ。
僕の『悪虐非道』では1人ずつしか眷族を作れない。だから戦力確保のためには全員生捕りにしないといけないわけだ…
正直めんどくさい。殺した方がたぶん楽しいけど、それだと目的が達成できないからね…
「よし、潜入するか!ダウト、『猜疑』を頼んだよ」
「任された。ほれ、『猜疑』」
ダウトの権能、『猜疑』は他者の思考を操ることができる。僕らに使った時は互いにいがみ合わせてたけど、使い方を変えれば他の人が自分に興味を示さないようにすることだってできるわけだ。
僕もダウトも『偽装』とか『隠密』持ってるし、バレることはない!
衛兵のいる門を素通りして、大きめの通りに入る。
なんかざわざわしてる?気になるな。ちょっと見てみるか?
「ユーベルや、お主余計なことを考えておるな?何か余の予知が嫌な反応を示しておる…さっさと必要な事を終わらせて帰ろうぞ」
「えー?つまんないなぁ。どうせ何も起きないって!ちょっとだけ、ちょっとだけだからさ!」
跳躍して屋根の上に飛び乗る。レンガがガシャリと派手な音を立てるが、『猜疑』があるので問題ない。
「あっちの方に…あれ?ざわざわが小さくなっていくような…」
「…おいユーベル、これはマズい。マズいぞ!何か恐ろしいモノが来る!」
「…見つけた」
真後ろから男の声。振り向くと僕の立っている家とは通りを挟んで反対側の家の屋根の上に誰かが立っている。
教会の祭司が着るような純白の衣を身につけ、輝くような純金の髪を風にたなびかせてこちらを睨みつけてきている。
てか、『猜疑』貫通してる?効果だいぶ強いはずなんだけど…
「…主よ、逃げるぞ」
「へ?なんでさ。てかなんで急に主呼び?」
「そんなことはどうでもよい!アレは…アレはマズい。今の我々ではどう足掻いても勝てぬ!」
空気が揺れる。とんでもない殺気を感じ、反射的に背後に向けて裏拳を放つ。しかし、その一撃は虚しく空を切る。
少し離れた屋根の上、しかし先程よりは確実に近くに、あの男が立っている。
「キサマが……か」
「なんだって?聞こえないんだけど?」
「キサマが魔王かと聞いている!!」
鬼のような形相。その容姿からは想像すら出来ない程のドス黒い殺気がグサグサと刺さる。
「先刻、『第二席』から話を聞いた。我らが継承者と勇者は神話級の零獣と魔王によって殺害されたと」
継承者?勇者?なんだそれ。知らないんだけど。
「おいダウト。お前なんか知って…」
肩に巻きついているダウトに目配せをすると、明らかに動揺して目線が泳いでいる。
「…知ってんな」
「た、確かにそれっぽい小娘と童らとは戦ったし、幾ばくか殺しもしたが…」
男の殺気が更に強まる。
「あと、あれ誰⁈こんなヤバいやつが急にポップするなんて何事なんだよ!」
「アレはこの世界でも指折りの強者…光龍王、カフカじゃ。たしか遥か昔に封印されたと聞いたが…まさか無事であったとは」
「もはや我々の間に言葉は必要ない。『魔統の天角・白』」
龍王がスキルを発動する。龍王の頭部から斜め上に向かって真っ直ぐな角が生え、そこから強烈な光を放つ。
「やばいやばい!『悪虐-』…は?」
一瞬にして、いや、一瞬ですらないほどの速さで視界が変化する。
遅れて頭に届く鈍痛。自分が攻撃されたのだと理解する。
「ごほっ、はは…やばすぎ」
「キサマがこの程度で死なぬことは知っている」
まただ。いつの間にか背後を取られている。たぶんこいつは物凄いスピードで移動出来るんだ。それこそ目にも止まらぬ程の速さで。
ダウトはいつの間にか肩から落ちてしまったようだ。無事かな?…いや、この調子だと無事ではないだろうな。まるでお手玉だ。弾き飛ばされて、空中でさらに別の方向へと飛ばされる。
「これで終わりだ。宣誓、ワタシはこの力を悪を挫く為に。『
光り輝く角が音を立てて崩れる。それと同時に僕の首から下の感覚が消滅。遅れて、体が崩れて消えていっていることを認識する。
「はは…まさに瞬殺だね」
「まだそのような口が聞けるとは、驚きだな」
「まあ、僕は魔王だしね」
首から垂れた血が、草原を赤く染める。葉っぱが露出した肉にチクチクと刺さって痛い。そう思っていたら、龍王は僕の頭を無造作に掴み、自分の目の高さまで持ち上げる。
「キサマは絶対に許さん。忌々しいことだが、因果に妨げられてここでキサマを殺すことは出来ないだろう。だが…必ず。いつか必ずこの手で殺してやる」
「…知らなかったよ」
「何がだ?」
いやぁ…知らなかった。まさかこんなに遠いとは。そうだね、まるで…まるで。
「エンドコンテンツだね。挑み甲斐があるじゃないか…!」
「狂人め。これだから精神が破綻しているヤツラは嫌なんだ」
そうだ、ダウトは無事かな?まあ死んでても僕の権能ならもう一度作り出すことだってできるから心配ないか。ストックもまだ余ってるしね。
「最後に、これだけは覚えておけ。仮に、もし仮にワタシを打倒することが出来たとしても、キサマに未来は無い。ワタシ達は…龍王は、八体いるのだからな」
なんて、ああなんて!退屈しない
ラスボスも成長できるストーリー。最高だね。
極光に照らされ、僕の意識は眩い暗闇の中へ昇って行った。
★★★
みなさん!お久しぶりです!
なんやかんやで忙しくしておりましたが更新がスタートいたします!
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