第三十四話『あつまれ臓物の森』

 ボグボディによると、街の周りの城壁の近くに隠し扉?があるらしいんだけど…具体的な場所を何も伝えられなかったからめっちゃ困ってる。

 街はいわゆる城塞都市みたいなつくりで、教会と領主館を中心として都市が形成されており、その周りを城壁が囲っている。


 当然一周の距離はとても長い。そして「近くにある」とかいうアホほどアバウトな説明…分かるわけない。

 一旦おっさん放置して、ボグボディ他アウトロー達をここまで連れて来ればいいか。


 麻袋に詰めたまま森の中に置いておく。こんなとこ誰も見ないでしょ。

 さて、戻りますか〜。




⬛︎⬛︎⬛︎




 あの酒場まで戻ると、テーブルにボグボディが座っていた。


「お、戻ったか。で、例の物は?」


「…隠し扉が分からなかったから外に放置してあります。誰かさんの説明が雑だったから」


「悪ぃ悪ぃ、そんな怒んなって。おいサグ!てめぇの見たいもんが届いたぞー」


 呼びかけに応え、例の男が遠くの席を立ってこちらまで歩いてくる。


「んな大声出さなくても聞こえるわ酒カスマフラー」


「んだぁ?文句あんのか?酒がなきゃやってけねぇんだよ」


 …大人も大変なんだね。あまり深くは触れないでおこう。




⬛︎⬛︎⬛︎




 2人を連れて街の外、森の近くまでやってきた。門を通る時に、衛兵の私を見る目が凄かったな…まあ、こんなやつら引き連れてたら心配にもなるか。


「んで?例のモンは何処にあんだ?」


「黙って着いてきてくださいよ…見られると普通にマズイ類の物なんですから」


「ほーい」


 森の中を進んでいく。進むたびになんか変な匂いがするような気がするな…嫌な予感。


「たしかこの辺に…ってうわ!腐ってるんだけど!」


 麻袋に詰めた死体を中心に地面や木々が赤黒く変色しており、一帯からは酷い匂いが漂っている。


「おいおい、なんだこれ?どうなってやがるんだ…?」


「触らないで!」


 2人が動きを止める。サグ…さん?が落ちていた木の枝、もちろん腐蝕してるやつを手に取って確認しようとしていたから強い言葉が出てしまった。

 私の予想が正しかったら、枝を触った右手から腐蝕していって腕は使い物にならなくなっていただろう。


「驚いたな。これが嬢ちゃんの力か?一体コレが何なのか…説明してくれるか?」








「へー、つまるところなんでも腐らせることが出来るってこった」


「まあ大体そんなかんじです」


 まさか私の制御から離れると腐蝕が周りに拡がるとは思ってなかったけど…大事にならなくてよかった。


「それにしても怖えぇ力だな…で、どうだサグ?ギルドに入るには十分か?」


 この人に認めてもらう必要があるのかはよく分からないけど、これが通過儀礼だと思うと緊張するな。


「あぁ、というかあの依頼を達成してきた時点で実力は十分だと思っていた。そもそも論点はこいつに実力があるか否かで、特殊な力があるかどうかじゃねぇからな」


 なんかこの人…なんだろう、言葉のカウンターの威力高くない?ボグボディさんの頭が弱そうだからこう見えてるだけなのかな。


 喧嘩するほど仲がいいって言うし、たぶんこれでも名コンビなんでしょ。あ、ボグボディがキレた。




⬛︎⬛︎⬛︎




 なんか会員証みたいなのを貰った。矢と眼球みたいなマークがあしらわれた金属製バッジ。ちょっとかっこいいかも。


「ダセーよな、このバッジ。これ考えたの誰だよ…嬢ちゃんもそう思うだろ?」


「…そうですね」


「そういえば嬢ちゃんの名前、まだ聞いてなかったよな?」


 そういえば一回も名乗ったことなかったな。今度はちゃんと本名を名乗ろうかな。


「私の名前は…」


 あれ?ちょっと待って。私の本名ってなんだったっけ…?モルテル?モルテルが本名だったっけ…


「ん?どうした嬢ちゃん。名乗りたくねぇのか?」


「いや、そういうワケじゃないんですけど…」


 あ、そうだ。鑑定で見たら分かるかも!




種族:亜人Lv.38

名前:モルテル


【特性】

人は全て死ぬ運命にあるTous les hommes sont mortels.


【異能】

命の光I


【スキル】

命の光I

鑑定Lv.2

看破Lv.2

魔統の天角Lv.2

操躯Lv.3

呪言Lv.1

錬金Lv.1

命名Lv.1

奇跡魔法Lv.1

痛覚無効


【称号】

忌み子

元奴隷




 あれ?あの気味悪い謎言語も無くなってるし、名前もモルテルで確定してる。じゃあモルテルが私の本名ってこと?なんかそんな気がしてきた。


「あー…モルテルって言います。私の名前」


「へぇ、『致命的な』…ね物騒な名前じゃねぇか。ま、俺もなんだけどな!」


 笑えないジョークすぎる。適当に付けた名前がそんな意味だったなんて…!


「ってかよ、俺が貸したローブ返してくれねぇか?あれ結構高いんだよ」


「あぁ、これの事ですか…」


 まずい、やってしまった。特性のお試ししてる時に服に侵蝕特性を持たせて攻撃と防御に転用できるかなーって思ってノリで特性かけてしまった。

 ただのローブが、今ではこの通り。




名前:糜爛の外套ヴィランズローブ

所有者:モルテル


【スキル】

腐蝕

帯状変形

認識阻害

自己再生




 興が乗って名前もつけたら、なんか凄いことになってしまった。下3つのスキルはなんなんだ?こんなの知らないんだけど。

 いや、現実逃避はよくないな。素直に謝っておかなきゃ。


「お前なぁ…いいけどよ、あんま他人のモンで実験とかしない方がいいぜ?」


 ド正論で返された。何も言い返せないや…あとだいぶ寛大だね?普通なら怒ってもおかしくないのにな。


「これ面白いことできるんですけど見ます?」


「まじで!見る見る」


 めっちゃ単純だなこの人…まあいいや。


「見ててくださいね…『消滅』!」


 『帯状分裂』と『認識阻害』を同時発動する。するとローブもろとも私の体が帯状にスルスルと解け、ぱらぱらと崩れて消えていく…ように見えたはずだ。


「すげぇー!かっこいいなそれ!」


 やっぱり、すごくカッコいいらしい。名前は要熟考だが、これだけでだいぶ殺し屋…というか暗殺者感は増したはずだ。


 出会い方は悪めだったけど、結構楽しくやれそう…かな?




 数日後、ギルドの掲示板に腐蝕した森林と動物の死体の処理依頼が掲載されていたのはまた別のお話…




★★★




 個人的に『糜爛の外套』はベストネーミングだと思ってます。


「糜爛」(びらん)と「ヴィラン」をかけてあるんですよ…!

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