第三十三話『熟!』
こういう時は大体1番前のやつか1番豪華なやつに偉い人が乗ってるでしょ。知らないけど。
「と、言う訳でこれに決ーめた…開かない」
鍵でも付いてるのかな?金かかってそうだもんね。さて、どうやって開けたものか…
「死ねっ!」
「うわっ、危な!」
片手剣による私の首を狙った一撃。それを私はスレスレで避ける。もしかしてこれが『操躯』の効果なのかな?特に意識しなくても反射的に回避行動を取れた。
自動回避が出来るとなると、このスキルかなり優秀だな。
「『斜陽』!」
左手と護衛の男を意識したら発動できた。左手で男を殴り、そのまま『斜陽』を発動する。
一瞬で腐り、殴った衝撃で体が崩れ、肉片と体液が飛び散る。うわっ、顔についちゃった。
この調子で護衛と戦ってると私の体力が心配だから、『混沌の魔角』で撹乱して少しでも時間を稼ごう。
護衛はまだいる。さっさと殺して死体を回収して逃げないとね。と、言うことでドアどうしようかな。『斜陽』で崩せたりしない?…出来ないな。意識しても発動できないや。
あ、そういえば良いスキルがあったな。
「『錬金』」
ドアに触れ、スキルを発動。木材を水へと変化させる。そして中には小太りの中年男性が。額には脂汗を浮かべ、酷く怯えた表情でこちらを見ている。
よく考えたら今の私の格好かなり怖いもんな。出発前に貰った深い藍色のローブのフードを目深に被り、自腹で買った水色のスカーフで顔を隠している。それにさっきの人の体液がローブと腕にしっかり飛び立っていてぬらりと光っている。
「な、なんだお前は!この私が誰か分かっているのか⁈」
「知らないけど…あなたを殺さないと私の身が危険だからね。お命頂戴いたします」
もともと青かった小太りの顔が更に血色を失い、額には大粒の汗が滲み出てくるのが見える。
「だ、誰か!大金をはたいて雇ってやったのだ!私を守ら-むぐっ」
みっともなく喚き散らす小太りの顔面を掴んで言葉を遮る。たぶん感覚の錯乱で周りの護衛には声も聞こえていないだろうけどね。
「それじゃ、本日2度目の…『斜陽』」
あ、やべ。顔を強く掴んでたから腐敗すると同時に顔の形が崩れちゃった。そこで腐蝕を止めたからこれ以上原型を留めておけなくなる心配はもうないだろう。
後はこいつを担いでここから出るだけだけど…なんか辺りがやけに静かだな。さっきまでは感覚撹乱で混乱した護衛達が転んだり叫んだりする音で騒がしかったはずなんだけど…
馬車のドアから顔を出して周りを見る。
「え…なにこれ」
周りには護衛の人達…ざっと15人くらいがぴくりとも動かずに倒れ伏していた。
その内の1人の頭に1羽の小鳥が止まり、次の瞬間にはバランスを崩して転げ落ちる。近づくと翼をばたつかせて逃げようとするが、上手く飛び立てないようだ。よく見ると小鳥の足と翼の半分ほどがぐずぐずに腐っており、翼が動くたびに羽根が肉から抜け落ちて舞う。
風が、生暖かい液体の滴る頬を撫でる。木の葉の擦れる音だけが、街道に取り残された。
⬛︎⬛︎⬛︎
生き残りはいなかった。たぶん。護衛はともかく、私が攻撃した覚えのない御者や馬もぴくりとも動かない。
流石にここに人が来たらまずいので小太りの死体だけ、持ってきた大きめの麻袋に詰めてから担いでその場を離れた。通りかかった人が埋葬なり通報なりしてくれるしてくれる事を祈ろう。
ほんと、なんでこうなった?1番疑わしいのはあの特性。時間もできたし、詳しく見てみようかな。
『
説明長っ!
つまりどういうことだ?私の魔力は物を腐蝕させるってこと?だから魔角の効果しかかけてないはずの奴らも腐ってたのか…
危なすぎるな。魔力の制御をしっかり練習しないと周りのものをなんでも腐蝕させるヤバい人になってしまう。ただ、魔力制御って疲れるんだよな〜…例えるならお腹にずっと力入れてるかんじ。少しの間ならまだしも、ずっととなるとさすがにしんどい。
あと、物質に触ると物を腐蝕させる性質を与えるってどういうこと?例えば地面とかにその効果を発動ささておけばそこだけ踏んだらダメな領域に出来るってこと?たぶんそういうことだよね。罠とかに使えそうだし、あらかじめ装備品に使っておけば攻めにも守りにも使えそう。
…ちょっと待って?これ私にも効果あるの?クソ特性じゃん。嫌だよ?自分の特性で腐って死ぬなんてさぁ。あー…でもよく考えたら私って常時私自身の魔力に浸かってるみたいなもんだから、耐性はある程度備わってるのかな?
だとしても、自滅の可能性があるっていうのは怖いけどな…
総評!怖い!
殺傷力に特化した性能すぎて嫌になっちゃうね。そもそも攻撃力過剰だと思うな。体の重要な部位を腐蝕させるだけで無力化出来るし。
まぁいいや…帰るか!このおっさん担いで歩くのだいぶしんどいけど、今なら街まで持って帰れる気がする。
このおっさんが私のこれからの生活を左右する希望!未来をこの手で掴むんだ!
⬜︎⬜︎⬜︎
「…ひでぇなこりゃ」
ここはヴェールトロース聖王国の中でも真ん中くらいの規模の都市、シェルムへと向かう街道のど真ん中。
街同士の行き来の際の利便性が高いため、比較的多くの旅人が通行に使う街道だ。当然、俺のような行商人も通る。
そんな道に、大量の自体が転がっている。酷い匂いだ。腐臭が充満しており、鼻を塞いでおかないと耐えられない。
「ぅう…ぁ」
声が聞こえる。微かな唸り声が。
「君、大丈夫か⁈この惨状は⁈」
唸り声の主の下へと駆け寄るが、その容体は酷いものだ。四肢は見たところ完全に腐り落ちており、もう回復魔法でも治癒は出来そうにない。倒れた時に折れたのか、砕けた歯が散らばっており、口や鼻から血を垂れ流している。
拙く唸り声を発しながら腐った腕を必死に持ち上げ、俺に何かを伝えようとしたようだが…そのまま力尽きて意識を失ってしまった。
男が最後に指差した方向を見ると、引き摺られたかのような血痕が街道から外れて森の中へと続いていた。
森の中には何もなかった。ただ小鳥の囀りと木の葉が擦れる音だけが、何事もなかったかのようにいつもの森を演じていた。
⬜︎⬜︎⬜︎
「はぁー!疲れた〜」
僕、今までも結構…いやかなり自我が強いヤツらを相手にしてたつもりだったけど、あれだけ強情なヤツはなかなかいないね。
誰もいない広い部屋で、石造りの大きな円卓を叩いて笑う。
「あっはは!今思い出しても笑えるね!…やりたいことをやる、かぁ。そうか、そうだよね。僕もやりたいことやろうかなぁ」
耳につけた、鳥の羽根を模した飾がしゃらりと揺れる。この感覚が楽しいんだ。
僕は演劇が大好きだ。それが喜劇なら尚更…面白いことなんていくらあっても足りない。
冷たい第一席も、堅苦しい第三席も、真面目ちゃんな第五席も、無口な第六席も…み〜んな!そうだ、その他大勢の
人生って、何のためにあると思っているんだろう?世の為人の為?んなこと大真面目に思ってる人なんて1人もいないでしょ。
まあ、僕は正真正銘の『
上を見上げると、無機質な天井と天窓から覗く月。
月光が、テーブルと黒曜石をただ照らしていた。
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