第三十二話『アウトロー』
怖い、怖すぎる。話題の主役のはずの私を無視して乱闘が始まってしまった。
私のことを紹介したボグボディに対して近くにいた男が突っかかり、そこを発端として殴り合いの大乱闘が始まった。私は今部屋の隅で小さくなっている。これいつまで続くんだろう…
誰も静止しないし、なんなら野次馬も参戦してよりややこしいことになってる。怪我人も何人か出てるし、アウトローって怖い…
止めた方がいいかな、勇気を振り絞って…
「あ、あの…やめた方が」
「黙ってろ小娘!」
ひぇっ…もうやめだ、帰ろ。この間に荷物まとめて逃げよう。今ならこの人ら以外にバレてないしまだ平穏に生きるチャンスは逃してない。
静かに扉の前まで移動する。私に興味がないのか誰も反応しないので、そのままドアノブに手を伸ばす。
「…あれ、開かない」
て言うかよく考えたらここを戻っていったとしてもあの酒場の厨房から出て行かなきゃいけないのか…それは精神的にしんどい。待つしかないじゃん…
仕方ないので隅っこにあるテーブルに座って壁のシミを数えることにした。…これ血飛沫の跡じゃないか?物騒すぎる。
「はぁ、はぁ…ははっ!俺の勝ちだぜサグ。信じる気になったか?」
あ、やっと終わったらしい。数えてる最中にも壁のシミが増えていって全然数え終わらなかったな。
「おいバカマフラー、てめぇ俺らに勝ったのはいいが、それでお前の言い分が正しいとはならねぇからな?」
今のはボグボディに最初に突っかかった男の言葉。めちゃくちゃ理にかなっている。そしてバカマフラーって…確かに特徴が捉えられてて良いあだ名だね。
「あぁ?あー…それもそうか。おい嬢ちゃん、お前の力見せてやれ」
「え…何言ってんの、マフラーさん。アレの使い方分からないし、そもそも使う人が今いないし…」
「あっそ。じゃあ適当な依頼でも受注して、誰か殺してその死体持ち帰ってきてよ」
はぁ…?重ね重ね何言ってるんだこの人は。殺しに発展するまでのテンポが早すぎるし、何だよ死体を持って帰ってこいって…帰路で確実に牢屋行きなんだけど?
「あー…この依頼でいいか。ほら、こいつはとある商人の殺害依頼だ。この商人はかなり悪徳でなぁ、大層な数の商人達から怨みを買っているらしい。殺しても誰も困らねぇさ」
「いや、殺すのはいいとしても死体を持ち帰るのが無理なんだけど…」
「それについても問題無ぇ。商品の仕入れだの輸送だのの関係でこのターゲットは大きな街を転々としてるから、移動のタイミングで殺っちまえば…零獣にでも襲われておっ死んじまったことにでもすりゃいい」
は、はぁ…だとしても私にとって極めて無駄な時間であることに変わりはないんだけどね…
「ほら、詳細は受付で聞けるからそのまま殺しに行ってきな」
「え、今からですか?」
「あぁ、丁度詳細に載ってる次回の仕入れのタイミングが今日だからな」
おい計画性…当日になるまで依頼の引き受け人が見つからないことなんてあるのか。依頼する方も大変だね。
⬛︎⬛︎⬛︎
「…詐欺じゃん」
今私の眼前には件の商人の馬車が何台もゆっくりと走っている。商隊の周りには金をたくさんかけたであろう護衛がわんさか…
いや、あんな気楽な感じで送り出されたら楽な依頼なのかなーって思うじゃん?到底私1人じゃどうにもならなさそうなんですけど。
私の手札を確認してみよう。発動条件のよく分かってない即死攻撃、『斜陽』。どんな効果かよく分からない『操躯』、『錬金』。なんか字面がすごい『混沌の魔角』。絶対やばい『呪言』。あとはボグボディさんに手渡しされた毒薬と短刀。
不明な手札が多すぎるし、『錬金』に至っては発動方法も効果も何も分かってない。
『鑑定』とかで何か情報が見えないかな?
「『鑑定』」
『錬金』:物質を別の物質へと転換する。ただし転換した際に物質の総質量は変化しない。
へー…攻撃には使えなさそうだな。生産系での有用性は計り知れないけど。ついでに『操躯』も確認しておくか。
『操躯』:所持者の保有するあらゆる効果器を随意運動、不随意運動問わず完全に制御することが出来る。
これは…強い、のか?こんなスキル無くても体くらい自分の思うように動かせるし。あ、でもこれ常時発動タイプだからそんな考えるようなことでもないか。
『混沌の魔角』と『呪言』も確認しておこうかな?こいつらは一番期待できそうだ。確実に強い。
『混沌の魔角』:効果範囲内の生物が受容した刺激を撹乱、増幅することが可能になる。また、周囲の魔力の流れを制御することが出来る。
『呪言』:生物、無生物問わず命令した内容を強制させることが出来る。ただし命令対象に実現不可能な内容の場合、命令者は反動を受ける。
感覚の撹乱か…これがどれくらいの効果なのか分からないけど集団戦では輝きそうだね。
視点を街道に戻すと、木々の間から私の前を横切りそうな商隊が見える。
最後に、出発前にボグボディに教えてもらった『看破』を使って全体のステータスをもう一度見てみよう。レベルも上がったしね。
種族:亜人Lv.5
名前:⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
【特性】
【逡ー閭ス】
命の光I
諷域ご
諞、諤
證エ陌
【スキル】
命の光I
鑑定Lv.1
看破Lv.1
混沌の魔角Lv.1
操躯Lv.2
呪言Lv.1
錬金Lv.1
奇跡魔法Lv.1
痛覚無効
【称号】
忌み子
元奴隷
鬲皮黄谿コ縺
諷域ご縺ョ蠢
諞、諤偵?蜻ェ邵
蜻ェ隧帛瑞縺
證エ陌舌?蜻ェ邵
え?何これ。変な【特性】とかいうのが見える…?
あ、うわ!もうキャラバンが通り過ぎちゃう!確認は後にしないと!
⬛︎⬛︎⬛︎
「止まれ、何者だ?」
そりゃそうなるよね。今、私は回り込んでキャラバンの前に出てきたところだ。だから当然護衛に止められる。同時にキャラバンも止まる。
私の返答を待つ奇妙な静寂が森の中を通る街道を包み込む。
名前聞かれたけどどうしよう。「ルシア」って答える訳にはいかないからな…どうせ鑑定しても見えないし、適当な名前を考えて伝えよう。
あの特性にあった単語が語感もいいしそれにするか。
「こんにちは、私はモルテルと申します。名前は忘れましたけど、貴方達の雇い主とお話がしたくて、待ってたんです」
「悪いが身分を証明できない限りそれは出来ないな。タイラーさんは忙しいんだ。もう用がないならそこをどけ」
「まあまあ、そう言わずに…」
護衛達がそれぞれの得物に手をかける。金属同士が軽くぶつかる音が連続して鳴り、再び緊迫した静寂が訪れる。
「『動くな』、『飛んでけ』」
「な、体が--」
初動に完璧だと思った『呪言』、やっぱり完璧だったね。護衛全員の動きを止め、服の中に隠し持っていた暗器と毒薬が私の命令を受けてキャラバンの方へと飛んでいく。
「目、目がぁっ!」
「ジョナサン!クソっ、あ、脚が溶け…」
とりあえず初動は制した。大きな穴が出来たキャラバンの防衛戦を素通りして馬車を目指す。
馬車は全部で5台、この中のどれかに殺害対象がいるはずだ。
5分の1、どれから見ようかな?
★★★
だいぶ更新遅くなりました!すみません!
たぶん次も遅くなると思います!
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