第三十一話『職業病』

 今日も今日とて接客。今日で3日目である。ここ最近の食堂は怪死体の話で持ちきり…食事中にそんな話して大丈夫なのかなとは思う。

 何回か衛兵も目撃証言とかを得るためにやってきていて、私も話を聞かれた。


 事件現場の路地の近くにいた人は男の悲鳴を聞いたとか…!

 一時はどうなることかと思ったけど今の所はバレてない。白髪の少女の目撃証言とかはないらしい。

 もしそういった証言とかがあったらすぐにでも逃げよう。私は小心者だからね。




「はー、疲れたー」


 客も疎になってきた頃に裏口から店を出る。


「失礼、少しお話いいかな?」


 真後ろから声が聞こえる。


「ひっ…な、なんで後ろに…?」


 後ろを向くと、布を口周りに巻いて軽装を身に纏った男が立っていた。


「特に理由はないよ。先日この辺りで起こった殺人事件…なのかな?について情報を集めていてね」


 なるほど、衛兵だったのか。なんで、って言うかどうやって後ろをとったのかは謎だけど。


「はい、私に協力できることならなんでも…」


「君、犯人だろ」


「…場所変えません?」




⬛︎⬛︎⬛︎




 男と一緒に、店からかなり離れた路地までやってきた。


「なんで、私だって分かったんですか?」


「あ、やっぱり君だったんだ。的中率7割ってとこだからハズレだったら申し訳ないと思ってたんだけど」


 勘だったってこと…?え、じゃあカミングアウト損じゃん。それとも異能?とりあえず鑑定してみるか。




種族:ハイヒューマン・アサシンLv.30

名前:ボグボディ


【異能】

超直感


【スキル】

鑑定Lv.7

看破Lv.7

短刀術Lv.Max

投擲Lv.Max

登攀Lv.8

潜水Lv.3

交渉Lv.6

軟体Lv.Max

俊敏Lv.8

無音Lv.Max

無臭Lv.Max

隠密Lv.Max

偽装Lv.5

薬物精製Lv.7

暗視Lv.Max

影魔法Lv.9

土魔法Lv.4

痛覚耐性Lv.5

薬物耐性Lv.6


【称号】

暗殺者




 全っ然衛兵とかじゃなかった。普通にやべーやつだった!スキル構成に殺意が滲み出てるんだけど⁈

 え…私もしかして殺される…?逃げる準備しておいた方がいいかな?

 よく見たら格好も衛兵らしさのカケラもないし、しらを切ればよかったなぁ…


「どうして、というよりどうやってあんな風に殺したんだい?」


「え…知りません。出来る気がしたので実行したまでですよ。あと動機は、2人がかりで私から金を奪おうとしたからです」


「あっはは、そっか分かんないか」


 何笑ってんだよ…なんか最近こんな奴に会ったような気がする。


「というか、貴方はなんであの事件を追ってたんですか?特に特別なことも何もないし、衛兵でない貴方に私を捕まえる権利なんて無いと思うんですけど」


「いや、特別なことならあるさ…君だよ。君が特別なんだ」


 ナンパか…?こんな人目につかない所に連れ込まれているしそうかも。いや、ここには私が連れてきたんだった。


「俺、こんなでもかなりの実力者だって自負してるんだけどさ、君のステータスが全く見えないんだよね」


 はぁ…?私はレベル1だよ?この人、ボグボディは種族も強いしレベルも高いしで見えないはずないと思うんだけど…あれ?でもそうなると私がこの人のステータスが見えた意味も分からないな。

 もしかして本当に私が実は隠された力を持っている可能性も…?いやいやいや、そんなことないでしょ。だって私だもん。


「これは提案なんだけどさ、俺の所属している組織に入らないか?」


 組織ぃ…?怪しい、怪しすぎる。絶対悪の組織だよ、この人のスキル構成からして殺しとか平気でやってそうな。


「…断ったら?」


「君を衛兵に突き出す」


 選択肢無いパターンだったー!最低だよこの人!仕方ない、話だけでも聞く…か?


「分かりましたよ聞きますよ、どんな組織なんですか?」


「冒険者ギルドは聞いたことあるよな?あれと似たような感じさ。ただ冒険者じゃなくて所属しているのが殺し屋ってだけでさ」


「やっぱやばい組織じゃん!」


「びっくりした、急に大きな声出さないでよ」


「いや、びっくりしたのはこっちだよ⁈なんで初対面の少女をそんな物騒な組織に誘う訳⁈頭おかしいんじゃないの?」


「あれ?断るって事?」


「そう、は…言ってない…!」


 マジで嫌な奴だなぁこいつ!あー苛々してきた。もう殺してやろうか?

 そう思った瞬間またあの感覚がやってくる。光る左手とボグボディ。


「ちょいちょい!落ち着いて!それかい?あの男を殺したのってさ」


「分かるんですか?あいつら、何も反応してなかったから私にだけ分かるものなのかと」


「いや、見えてないけど『看破』を使えば分かるんだよ。『看破』は便利だぜ?普通の『鑑定』じゃ見えない情報も見えたりしてな」


 なるほど、やっぱりこれは特殊な方法じゃないと見えないのか。つまりその『看破』とやらがない人なら意識外から即死攻撃を当てられると。物騒だな、そんな場面ないだろ普通。


「落ち着いたか?さっきの話の続きだ。お前には素質がある。それも、とびっきりのな!お前、金に困ってるんだろ?安定した稼ぎになるぞ。お前が望むなら…俺たち『殺し屋ヒットマンギルド』はお前を歓迎するぜ?」


 ボグボディはニヒルな笑いを顔に浮かべながら大仰に両手を広げてそう言う。ちょうど差し込んだ光が彼の広がった腕を照し、装飾品に反射した光が彼の動きに合わせて瞬く。


 人に必要とされるなんていつぶりだろう。判断は…まだ急ぐ必要はないか。




⬛︎⬛︎⬛︎




 ボグボディは私を街の外縁部近くの酒場に連れてきた。私が働いていた所と客の見た目が全然違う。本場のアウトローってかんじ。

 なんかこっちを見る目が怖いし、店内の雰囲気が殺伐としている。


「こっちだ」


 ここが目的地かと思ったが違うらしい。ボグボディは少しも躊躇わずに厨房へと入っていき、床板を剥がす。


「うわ…隠し通路?」


 床板の下には階段が続いており、灯り一つもない暗闇が顔を覗かせている。


「この先だ」


 普通に怖くなってきた。本拠地をわざわざこんなめんどくさいところに隠すなんてやっぱやばい組織なんだな…


 階段を下る。隠し扉を閉じると本当に何も見えない。前歩いてるこいつは大丈夫なのか?私が転んだら共倒れで危ないと思うんだけど…


 壁を支えにしながらよちよちと歩く。てか階段長いな。暗いから長く感じてるだけなのかも知らないけど。


 そこから更に少し歩くと、急に明かりが点いた。目がチカチカする。

 階段を下り切った先には、長い廊下と突き当たりにある木製の扉。


「着いたぜ」


 木製の扉を開けるとそこには、以前見た冒険者ギルドとほとんど同じ構造をした広間があった。人がたくさん座れるようにテーブルや椅子がたくさん置いてあり、依頼が掲載された掲示板とカウンターもある。

 あれ?私冒険者ギルドに行ったことあったっけな…忘れた。


「おーいお前ら!期待の新人ちゃんが来たぞー」


「お前が言ってた腐れ死体を作ったやつの事か?そのガキが?」


「あぁ、そいつのことだ。俺の勘がビビッと来たんでな、連れてきた」


「バカ言え、そんなガキに出来る訳ねぇだろ。冗談のつもりならクソおもんねぇぞ」


 全然歓迎するような感じじゃないんですけど…!

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