第二十八話『ドミヌス』

「あはははは!んな攻撃効かないね!」


「ほんとにどうなっておるんじゃ⁈普通全身を細切れにしたら死ぬじゃろ!!」


「そこで死なないのが魔王クオリティだよ!」


 嘘である。本当は死んでいる。身体の中に取り込んである無数の眷族に瞬時に乗り換えることで不死身さを演出しているだけだから、このまま細切れにされ続けたらストックが尽きて2番あたりに乗り移らなければならなくなるだろう。


「僕さぁ、思うんだよね。僕にはまだ足りないものがあるって」


「はぁ?いきなりなんじゃ?」


「僕、これまでずっっと『魔王』スキルで攻撃してきたんだけどさぁ、こう思ったんだ。これって実は所謂…なんじゃないかなってね」


 だってそうだろ?何よりも邪悪かつ畏怖を集めるはずの魔王の名を冠したスキルがこの程度の威力しかない訳ないじゃないか。

 おそらくまだまだ進化の余地を残しているはずだ。例えば…組み合わせ、とか。


「ものは試しだ。『雷獣』、『鎌鼬』…」


 魔王スキルが現状で発動できるのは『炎魔』、『牛鬼』、『雷獣』、『鎌鼬』、『蟒蛇』、『土蜘蛛』、『狂骨』の7つ。

 組み合わせは2つずつなら21個、3つずつなら35個…


 伸ばした僕の指先から稲妻が迸り、そのまま空間ごと大蛇の体を舐めるように切り裂く。


「痛っ…!この前も体を両断されたりと、最近は悉くツイておらんな…」


「あー…威力はイマイチか?まあこれはここからの成長に期待するとして、もう一つの必殺技を試してみるとするか」


 現状戦闘の役に立っているのは『魔王』スキルだけだ。その他諸々はサポート用になっている節がある。

 せっかくだし異能も活用してやりたい。僕の見立てではそれだけのポテンシャルを持っているはずだ。


「『悪虐非道』…『異形の魔手ヘカトンケイル』!」


 体を灼かれながら異能を発動する。伸ばした腕の先から肉が膨らみ、もう一本の腕が出現する…それの繰り返し。増殖し、分岐しながらその太さと範囲を拡げていく腕の枝は加速度的に城の辺りの空間を埋め尽くす。


「な、なんじゃこの気持ち悪いものは!身動きがとれぬ…!」


 この技は肉体に収納している眷族のストックの形をこねくり回して外に出すことで実現できるため、発動できる回数には限りがある。

 だけど、この無数の腕全てが僕の眷族であることに変わりはない。つまり…


「『咬合』、『切断』、『蛇行』、『炎魔』…合わせ技・改だ!『火車』!」


 この腕全部からスキルが発動できるのさ!

 全ての腕の表面に鋭い八重歯が出現し、『咬合』と『切断』による威力の上乗せ、そして無数の腕が大蛇の体の表面を唸りながら滑り、発火する。

 別の言葉で表現するなら火を吹くチェーンソーって所かな。


 『火車』は僕の狙い通り大蛇の全身を灼きながら切り裂き、ダメージを与える。

 おそらくこれで一時的には再生を防ぐことが出来るはずだ。


「どう?死んだ?」


「ま、だじゃよ、小僧。この程度でくたばる余ではない…『天蓋』」


「は?え、それバリア?ずるくない?それで回復まで待とうってこと?」


 えぇ…つまんなぁ!とんだクソモンスだなこいつ!僕の攻撃はどれも物理的手段を介したものだ。故にこうも障壁を張られると手の出しようがない。

 あぁ…もう!


「うっぜー!」


 さっきから『異形の魔手』でバリアを圧迫し続けているけどびくともしない。

 なんか僕の手札に使えるものは…!


 あ、忘れていた。【特性】、『邪眼』のこと。

 『不死』しか検証したことはないが、【特性】はオンオフが可能で、オンの状態ならその特性を常時発動可能だ。『不死』なら心臓と脳を同時に潰されない限りはあらゆる負傷、状態異常から瞬時に回復出来るとかいうブッ壊れ。

 『邪眼』はどうだろう?


「『邪眼』、発動」


 オンにすると、頭に発動できる邪眼が浮かんでくる。この状況に最適なのは…


「『再生封じの邪眼』」


「む?再生が出来な…⁈」


 どうやら成功らしい。視線さえ通っていればほぼ強制的に状態異常をかけることが出来るなんて、とんだバランスブレイカーだな。


「どうする?そのままそこに籠ってても何も変わらないよ〜」


 出てこない。邪眼が魔力の消費で使える物だということに賭けているのかな?

 じゃあ追い打ちをかけよう。


「だんまりしてないで、何とか言ったら?『悪虐非道』…『異形の凝眸サイクロプス』」


 『異形の魔手』による複腕から無数の巨大な眼球が出現する。

 もちろん、これら全て僕の目だからちゃんと見えてるし邪眼も発動できる。


「詰みだよ。大蛇さん」


「畜生…!」


「どうする?このまま死ぬか、降伏するか…選んでいいよ」


「降伏を選んだ場合、どうなる?」


「僕と共に、永遠に生きられる。運が良ければ君の人格は残って…円卓とやらをぶっ壊すのを直に見られるかもしれない」


「はぁー…負けじゃ。余の負けじゃよ。お主の軍門に降ろう」


「いいね!君、強かったし…僕の眷族に良い影響が出ると嬉しいな」


 『王位継承』、発動。





「あ、ガッ…はっ、はぁー…!」


 今までよりも遥かに強い快感。全身がビリビリ痺れて、中々意識を手放せない。

 体が、全身が…いや、魂から新しいナニカに作り替えられていくのを感じる。


 今まで渦巻いていた快楽の激流が逆巻き、束の間の静寂が訪れる。

 あ、あそこに誰かいる。


 お母さん…今、そっちに行くからね。




種族:キマイラ・ドミヌス

名前:ユーベル


【特性】

不死

邪眼


【権能】

悪虐非道ノートリアス

荊の冠


【スキル】

魔王

変形

軟体

捕食

吸収

剛性

変身

隠密

偽装

統率

無限再生

並列思考

高速演算

鱗粉

羽撃

外骨格

暗視

吸着

複眼

粘液

跳躍

毒精製

蜘蛛糸

咬合

投擲

登攀

群体

吸血

血液操作

切断

蛇行


【称号】

魔王

猜疑の末路




『悪虐非道』: 分裂、自切、独立思考、眷族化、復元、感覚共有、位相転換、行動同期、代行、貸与、学習、反芻


『荊の冠』:王位継承、寄生、天運、契約、特質付与、特質再現〈猜疑〉、精神攻撃無効




『猜疑の末路』:信心の崩壊。精神攻撃にプラス補正

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