第二十九話『おやすみ』

「うはー!今までにない!」


 大蛇を取り込んだ影響か、今まで以上の高揚感!

 あ、そうだ眷族しまいっぱなしだった。


「お前たち、出てきていいよー」


『はー、疲れたのう…お?思考が出来るな?』


「あ?何この声。頭に響く…」


「ん?どうした本体」


 あ、もしかしてさっきの大蛇?もしかして自意識残ってるのか?今までこんなことなかったんだけど…?


『おぉ!人格が残っておる!』


「えぇ…あれ成功すると思って言ってなかったんだけど。どっちかと言うと抵抗しないようにするための方便だったんだけどなぁ」


『そうだったのか…?まあよい。結果として上手く行った訳だしの』


「ちょ…さっきから本体何言ってんの?」


「そっとしとけって。きっと疲れてんだよ」


「もしかしてお前にも実体持たせられるかな?『悪虐非道』っとな」


 とりあえず腕を分離させて元大蛇のための体を作る。


「入っていいよ」


「ん…これでよいか?おぉ、なんか小さいの」


 切り落とした腕の形を蛇を摸して変形させ、そこに意識を移させると腕が急に変色して赤黒い普通くらいのサイズの蛇になった。

 蛇を眺めていると、なにかが頭に流れ込んでくる。




種族:ヴリトラ・セルウス

名前:ダウト


【権能】

猜疑・欠陥


【スキル】

蛇眼

天蓋

血液支配

蛇行

隠密

偽装

看破

尾撃

咬撃

毒精製

予知

無限再生

鑑定

受容

持久

斬撃耐性

打撃耐性

魔法耐性


【称号】

大逆

隷属〈ユーベル〉




『猜疑・欠陥』: 思考誘導、精神支配、感情増幅、洞察、感覚支配、形状変化、自切、反射




『隷属〈ユーベル〉』:奴隷となった物へ刻まれる呪い。主人からの命令を実行する時、行動にプラス補正。主人の命令に背く時、行動にマイナス補正。




 自分以外のステータス?見るのは初めてだな。てか種族違うのか…これだと"僕"として認識されなさそうだから若干運用する時不便かもな。

 でも、見た感じ強いからいっか。


「じゃあ、お待ちかねの城へレッツゴー!」


「いえーい!」


「余、自分の家じゃからテンション上がらんのじゃが…」




城に入ると、何匹かの蛇が中から出てくる。ダウトの眷族かな?

 ダウトが何やら説明すると、引っ込んでいった。


「広ーい!」


 大広間的な空間に辿り着いた。ボロボロな装飾とかも相待ってひじょーに洒落ている。


「ここは元々余が寝床にしていた所じゃな。余は体のサイズを変更できるのじゃが、やはり元のサイズが1番しっくりくるからの」


 僕の首に巻きつきながらそう言う。サイズ変更出来るってことはここからあのサイズにもなれるのか。巨大化はロマンだからな…僕もやりたい。巨大化して挑戦者たちを蹴散らす魔王!絶対かっこいい。

 第二形態は作っておかないとね。テンプレだし。


 その後一通り城の設備を見て回ったけど、ほとんどはボロボロで使い物にはならなさそうだった。普通に雨ざらしの部屋とかあったし。




「本体、これからどうする?」


「2番と3番の部隊をとりあえず戻って来させるかな。たぶんもう目処くらいは立ったでしょ」


「ねね、本体…僕良いこと思いついちゃった!」


「何?くだらない事だったら普通に殴るけど」


「この…名前なんだっけ?ダウト?をさ、四天王にしようぜ!」


「「⁈⁈」」


 元本体勢がどよめく。逆にダウトは首を傾げているけど。


「お前…天才か?」


 たしかに僕ら、つまり『ユーベル』とは別の見た目じゃないと魔王軍四天王は務まらない。それにこいつなら実力的にも申し分ないだろう。


「それじゃあ、2番と3番の部隊が帰ってきたらもう一度話し合おうか。魔王軍拡張計画といこう」


 あぁ、お披露目するのが今から楽しみでならないよ…!




⬛︎⬛︎⬛︎




 森の中を歩く。往路と復路で、足跡の数がこうも違うと悲しくなってくるよ。


「はぁー…殺すべきだったかなぁ」


 あの魔王、ユーベルはそのまま放置しておいた。わたしにだって、知人の生まれ変わりであろう人物を手にかけることへの躊躇くらいある。

 あのあと辺りを探してみたけど、生き残りの痕跡らしきものは何もなかった。たぶん、全滅だろう。


「まあいいや。もともと興味本位だったし…どこかの誰かが代わりに殺してくれるでしょ」


「ところがどっこい、実はよくないんだよね〜。なんであんなところでほっぽり出しちゃうかなぁ?」


「…誰?」


 知らない声。振り返ると、樹木から浮き出るようにして青年が出現する。

 黒曜石のようにキラキラと反射して光る髪と瞳、纏う装飾品に所々あしらわれた鳥の羽のような飾りが目を引く。


「初めまして、異端ちゃん。僕の名前はレアリザトゥール。レアとか、リザって呼んでも良いよ〜」


 なんだこいつ?馴れ馴れしい。それに怪しい、怪しすぎる。


「いや、だから誰だよ。名前とか別にどうでもいいんだけど?」


「え〜?つれないなぁ。折角だし仲良くしない?まぁいいや。僕はね、『円卓』から伝言を伝えに来たんだ」


「『円卓』?」


「あ、知らない?まあそこは大事じゃないんだけどね。君に選んで欲しいんだ!」


「選ぶ」


「そうそう。今でもそうじゃなくてもいいけど、円卓のサポートを受けて魔王を殺すか、それを断って今ここで封印されるか…選んで?」


「は?」


 あまりにも突拍子がない。封印?…って、具体的には何をされるんだろう。身近な封印された人のケースだと、やっぱりレイヴン。あいつの場合は洞窟に三重で封印を重ねがけされて…あ。あいつを封印してたのってもしかしてこいつらか?


「ほらー。早く選んでよ!選択肢なんてほぼ無いようなもんじゃん!見た感じ実力は拮抗してるみたいだったし、戻ってサクッと殺すだけだよ?イージーゲーム!」


「ヤだね」


「え?」


「嫌だ、つってんの。わたしに指図するな」


「…もう一回ちゃんと説明した方がいい?あの魔王、君が生み出したでしょ。それが意図的でもそうじゃなくても、君にはこれから起こるであろう悲しい未来を避けるために責任を負ってもらわなきゃいけないんだよ。だからさっきの問の言い方を帰るとすれば…魔王を殺せ。さもなくばお前を封印するぞってとこだね」


「んなこと分かってるって。舐めてる?てかさぁ、指図するなって言ってるのにわざわざ命令口調に変換して快諾されると思ってるわけ?」


「あははっ!そりゃそうだ!」


 何が可笑しいんだか、男はけたけたと笑い転げている。

 本当に気味が悪い。鑑定でもしてみるか?


(『鑑定』)




種族:クリプトメリア




 え?こんだけ?ってかクリプトメリアって杉の木のことじゃ…?


「あれ、もしかして鑑定とかした?残念でしたー。これ僕じゃないから鑑定してもイミないよ!」


「まじで何なんだ?お前…」


「言ったでしょ、僕はレアリザトゥール。交渉は…決裂ってことでいいのかな?」


 そう言うと、男はにこりと笑う。


「さっきからそう言ってるでしょ。やりたくないことをして過ごすなんて、生きてる意味ないでしょ?わたしはわたしがやりたいことだけやって生きる」


「たしかに!やりたいことやるのは大事だよね〜。それじゃ、封印しますか」


「封印って、具体的に何されるの?てかさ、お前絶対わたしより強いでしょ。お前が魔王サクッと倒してきたらどうなの?」


「あー…まずね、封印されると異能とかスキルが使えなくなる。より重いケースだと移動も封じられるけど、君にはそこまでしないかな。ふたつめ、僕が魔王を殺さない理由は、やっても意味が無いから」


「意味がない?」


「その通り。魔王はただ単に殺すだけじゃダメ。また直ぐにでも生えてくるんだよね〜。直ぐに誕生させない為には条件がいるんだ!それが、勇者に殺されること。僕たち円卓の所属者は勇者になれない。そういう決まりだからね…誰か別で勇者を立ち上げて逐一殺してもらうしかないってワケ」


「なるほどね」


 レイヴンが不思議がっていた、なぜわざわざ勇者を、召喚してまで戦わせるのか。その理由がこれってわけだ。


「聞きたいことはもう無いかな?無いなら、もう封印してもらうけど」


 封印か…ひとまず、これからは封印の解除方法を求めて生きることになりそうだね。そんな方法があるのか分からないけど…


「よし!ロウズ!やっちゃって〜!」




『フルーフ・ズィーゲル』




 その呪いの言葉を最後にわたしの視界は眩い暗闇に包まれ…沈み込み、剥離していくわたしの中で、私の輪郭が強くなっていく。

 わたしなら…きっと大丈夫だよね?なぁ、わたし。




「おやすみ」




⬛︎⬛︎⬛︎




「ん…ここどこ…?」


 どこだか分からないけど…おはよう、世界。




★★★




 おはこんばんちわ。作者です。

 ダウトは人化させようかとも思いましたが人外は簡単に人化させるなの精神で書きました!


 あとこれは豆知識なんですが、『シュタイン』はだいたい『墓場』みたいな意味、『アンラーゲ』は『素質』って意味らしいです。

 ちょちょっとググっただけなのでもしかしたら違うかも…因みにドイツ語です。

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