第二十話『少年の夢』

「うぅ〜ん、よく寝たー」


自分で設えた肉の寝床から起き上がる。肉の寝床と言っても血みどろの悍ましいやつじゃなくて、ただの肉の塊だ。

それを口に含む。柔らかいけど味が無くて、正直美味しくないけど食欲は満たされる。


「さて、まずは何から取り掛かるべきかな」


僕の思い描く理想の魔王になるために必要なモノは何なのか。大量の軍勢?広大な領地?それとも…荘厳な城?


どれも違う。見た目や居場所の上に存在が成り立つのではなく、自分の行いの上に自分が出来上がるんだ。


「母さんには魔王として生きろと言われたし、それは僕の夢でもある。まずは仮拠点を作って…」


ふふ、夢が広がるなぁ。


「『悪虐非道ノートリアス』」


僕の異能を発動する。まずは戦力を確保しないといけないからね。


僕の右腕がドサリと地面に落ち、膨れ上がってヒトの様な形になる。


『悪虐非道』は自分の体を切り取って生命を生み出し、眷族にする能力だ。眷族の強さは使用した肉体の質量と部位の重要度に比例する。

まあ切り取ったところはまた生えてくるから大して関係ないんだけどね。


今作った眷族は腕を素体に作ったから近接戦闘が得意な様だし、とりあえず一通りの部位で試してみてそれぞれの特徴を把握しておこうかな。




◆◆◆




どうやら足を使うと移動に特化、指を使うと手先が器用に、耳や目などの受容器を使うと索敵が得意に、臓器を使うとシンプルに強くなる様だ。


臓器をえぐった時いちいち痛いし、とりあえずは腕と足の眷族を増やしておこうかな。


「戻れ」


普通に邪魔なので作った眷族は僕の体の中に格納しておく。質量を無視して体の中に入れるみたいだし、不思議だ。


あと実験の途中で分かったんだけど、僕はどうやら不死だけど不死じゃないみたい。

心臓と脳みそ、この2つを同時に潰されると死亡してしまうみたいだ。

それ以外ならどんな傷を負っても回復出来るのは無法だと思うけどね?


「最初に何するかなぁー…」


僕は今鬱蒼とした森の中にいる。僕の持ってる、誰のか分からない記憶ではニンゲンの街はかなり離れた場所にあるしまずは力を蓄えるべきかな。


たくさん殺して、『器』をいっぱいにしよう。




◆◆◆




「みーつけた」


なんか強そ〜な魔物がいるぞ?強敵探しの片手間にボトボト腕の眷族を作ってたから現状眷族は50体くらいいる。

これもしかして数の制限ないのか?

数に物を言わせて相当悪いことも出来そうだね。


ま、とりあえずあの虫型の魔物だ。

見た目は超デカい蛾。周りにギラギラした鱗粉を撒き散らして森林の中を優雅に飛んでいる。


アレを斃して取り込んでやろう。


「よし行け!アイツを地面に落とせ!」


僕の指令を聞いて眷族達が僕の体から出てきて蛾に飛びかかる。


「『炎魔』」


何体かが蛾の翅につかまったのを確認してから『魔王』スキルの効果一つである『炎魔』を…眷族に発動させる。


眷族はもともと僕だったからか、僕の持っているスキルを発動することが出来る。


『炎魔』の効果は抵抗不可の業火を身に纏う、長時間発動すると自分諸共焼け死ぬスキルだけど、使い捨ての眷族なら問題ない。


翅を失った蛾が落ちてきた。


炎を纏っていない眷族のほとんどが地面に這いつくばっているから、あの鱗粉はおそらく麻痺に類する物だったんだろうね。


「さーてと仕上げだ。キミの力、有効活用させてもらうよ」


『王位継承』発動。


意識が暗転し、脳の奥底に昏い愉悦の渦が巻き起こる。




◆◆◆




「あ゛〜…初めてだったけど、上手く行ったかな。そっちはどう?僕」


「大丈夫だよ、元僕」


僕の隣には僕の姿をした眷族…正確に言えば元本体の僕がいる。


『王位継承』は他者に僕の自意識を植え付ける能力。僕の自意識が去っても元の体には意識が残る。だから実質的に僕が2人になったって訳だ。


王位を継承した他人は僕のスキルや異能を植え付けられるが、元々持っていたスキルや異能は全て『悪虐非道』に統合される。


「じゃあ行こうか、もっと面白そうなヤツを乗っ取って、勢力を拡大していこう!」


魔王っぽい必殺技とかコンボ、演出を考えておかないとな。

人に見られてこそ、だからね…




「また会えるのが楽しみだなぁ〜…母さん」


今どこにいるんだろう。




★★★




新視点、魔王ユーベルくんでしたー。


前の話とか見て「レベルとかスキルレベル抜けてんな」とか思ったかもしれませんがユーベルは世界のバグみてぇな存在なので問題ないです()


ちなみに文字化け表示は「封印状態」もしくは「呪い」です。

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