第九話『定型イベントの不定型収束』

着いたぞ!人里〜!

魔境から結構歩いたところにわたしにとっての始まりの街がありました。


街道の途中に廃墟っぽいところもあった。あそこが健在ならさぞアクセスも良かっただろうに。


「まずは宿を取るか?」


「いや、直で冒険者ギルドまで行こう」


この3人ともかなり打ち解けた。たまに畏れみたいなのを感じるけど。


!なんだこのいい香りは!


「先行ってて!わたしはやるべきことができた!」


「ちょっと待て!お前ギルドの場所知らねぇだろ!はぐれるな!」




ふぅ、3人を撒くことに成功した。冒険者ギルドは適当に歩いてれば見つかるでしょ!

それよりもこれだよこれ!

肉だ!美食だー!!

目覚めてこのかたまともな食事を食べたことなかったんだよ!半年も洞窟にいたからさぁ!

幸いなことに金ならあるからね!


「おっちゃん!肉串、並んでるの全部ちょうだい!」


「お嬢ちゃん太っ腹だな!金はあるのか?」


「これで足りる?」


レイヴンに貰った宝石を幾つか渡す。


「⁈あ、あぁ、十分だ」


「ならよかった。また買いにくるからよろしくね〜!」


うぅ〜ん!美味い!まだまだ美食は沢山ある。堪能しなければ!




⬜︎⬜︎⬜︎




「おい、ギルマスはいるか?」


こんにちは。私はフェアメーゲンの街の冒険者ギルドの受付嬢をしているユーリと申します。

A級魔境である黒龍山脈へ依頼に行っていた冒険者パーティー、『シュタイン・アンラーゲ』の皆さんが帰ってきました。


「おかえりなさいませ。ギルマスはいると思いますけど、どうかなさいましたか?」


「黒龍山脈で起きたことについて、ギルマスに報告があるんだ」


「分かりました。では、ギルマスに取り次ぎますね」


何かあったんでしょうか?




⬜︎⬜︎⬜︎




「で、話ってなんだ?」


「あぁ、この前受けた依頼で、俺たち『シュタイン・アンラーゲ』は魔境の中で零獣を狩ってたんだよ。そしたら運悪く異常成長したワイルドベアの縄張りに入っちまってな…」


「まじかよ。推定何級くらいだ?」


「弱く見積もっても二級くらいだな。だが大事なのはその件じゃねぇ。そのワイルドベアを瞬殺したやつがいる。しかも冒険者じゃねぇ、たぶん一般人だ」


「はぁ?そもそもあの魔境は許可が無いと立ち入りすら出来ないはずだろ?冒険者でもないやつが立ち入っていたなら、そいつは騎士様とかじゃなけりゃありえねぇ」


「話は通じるやつだったから、一応この街まで連れてきたんだが…ギルドに着く前にどこかに走り去っちまった。自分でここまで来るとか言ってたが、探しにいくか?」





ギルマスの執務室を出てギルドのロビーに行くと、入り口の辺りがなんだか騒がしくなっていた。


人混みを掻き分けて前の方まで行くと、そこにはガタイのいい冒険者に馬乗りになって拘束し、首に手を当てて残忍な笑みを浮かべる恩人サマがいた。




⬛︎⬛︎⬛︎




うまい!

肉串も買った、林檎とか桃のフルーツも買った。ちょっと高かったけど砂糖菓子も買った!

美食サイコー。


ちょうど冒険者ギルドらしき建物も見つけたし、買い食いはここら辺で終わろうかな。


「たのもー」


初めてだからね。舐められないようにしないと。


「おいおい嬢ちゃん。ここはあんたみてぇなちんちくりんが来るようなところじゃないぜぇ?」


早速絡まれた。なんだこのおっさん達は。

ガタイのいいやつが2人と背が高い痩せた男の計3人。人がいるし平和的解決を目指した方が良いのだろうか。


「おい聞いてんのか?もしかして俺たちにサービスでもしてくれんのか…ぶべらっ!」


反射的にのっぽに回し蹴りを放つ。


「あ、つい手が出ちゃった」


もうやっちゃったしいっか。暴力に訴えよう。

呆気に取られているデブの股間を蹴り上げ、そのまま顎に裏拳を叩き込んで意識を刈り取る。


「て、てめぇ!」


殴りかかってくる男の手を掴んでそのまま背後に回り込んで押し倒し、首に手を添える。

このまま首折ろうかなぁ。


「おいおい恩人様!ちょっと待ってくれ!」


「おい!何事だ!」


おっさんが2人追加された。あ、1人はルークさんだった。


「ルークさん、そっちのおじさんは誰ですか?」


「あんたが便宜を図ってくれと頼んでたギルドマスターだよ…」


「あぁ、なるほど。こんにちはギルマスさん。わたしを冒険者にしてくれませんか?」


「…まずはそいつを離してやってくれ」


「なんでですか?こいつらが先に手を出してきたんですよ?」


嘘である。喋りかけられただけだがアブナイ発言も聞こえてきたのでわたしは悪くない。以上、閉廷!


「わかった。ギルマス権限で試験をパスして冒険者登録させてやる」


「わぁ、嬉しいですね。ありがとうございます」


…格付け完了っと。ふふっ、にやけが止まらないなぁ。今の所順調だね。


「ほら、離してやったぞ。さっさと立てよ」


わたしがそう言うと、意識を失ってたデブ含め三人が一斉に起き上がって整列した。

これはこの前手に入れた『慈悲』の効果。『慈悲』はいろいろスキルが含まれてるけど何が出来るのかを簡単にまとめると、「他者の蘇生、他者と自分との間でエネルギーのやりくり、格付けが済んだ相手を自分に服従させる」とまぁ、めちゃめちゃ強い。

好感度上昇のおかげで交渉も上手くいきやすいしね。


何はともあれ冒険者デビューだ、わくわくしちゃうね。




★★★




今回出てきたルークさんのパーティー名『シュタイン・アンラーゲ』は我ながら会心のネーミングセンスだと思ってます。

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