第四話『トラウマ』

水晶のあった広間を離れてかなり歩いた。

レイヴンの指先が光って光源になってくれている。

闇龍なのに光系の魔法が使えるのか、はたまた発光するおもしろ体質なのか。真実は、闇の中だ。


「…今から何するの?」


「簡単に言うと戦闘訓練。レベリングだよ。ほら、鑑定したときにレベルの表記があったでしょ?本人のレベルは零獣とかニンゲンを殺すと上がって、スキルのレベルはそのスキルを沢山使うと上がるんだよ。つまり殺しながらスキルの練習をするのが効率がいいってワケ」


「零獣って?」

聞き慣れない単語だ。


「零獣はいわゆるモンスター、魔物の総称だね。零獣にはいろんな等級があってね…1番弱いのが『四級』そこから順に『三級』、『二級』、『一級』と上がっていって、1番上が『神話級』だね。ここらへんにいるのは1番弱い『四級』のザコだから心配ないよ。私もついてるしー。私がいれば『神話級』だってちょちょいのちょいさ!」


そんなに強いのか。よく考えたらこの人(?)ドラゴンだし強そう。


そんな会話をしながらさらに歩いて行くと、なんだか体がぞわぞわするような気がしてきた。さっきから変な音…どこかで聞いたことがあるような音が聞こえてくる。


「あ、いたね。あいつらだよ」



レイヴンが指差した方にいたのは、少し盛り上がった黒光りする物体。

嫌な気配が少し強くなった。


「『鑑定』」




名前:なし

種族:レッサーセンチピードLv.9


【スキル】

隠密Lv.2

蛇行Lv.5

捕食Lv.4

装甲Lv.1




「…ぁ」


「どうかした?」


…ムカデだ。


-『お前にプレゼントやるよ』『ほら、食えよ』『グズグズすんなよ』『私たちのご厚意を無駄にするってこと?』-


怖い。


-バリッ-


頭に咀嚼音が響く。気持ち悪い。


「ギチギチ」


近づいてくる。怖い。

怖い、怖い、怖い、怖い、怖い


その眼が、滲み出る敵意が怖い。

こっちを見ないでくれ。


さっきから変な声が聞こえてくる。頭の中に直接響いてるような音。

蔑みの色が籠った、嫌な声。もう二度と聞きたくない声。私の、大っ嫌いな声。


笑っている。わたしの頭の中で。

頭が痛い。さっき転んだ時よりもひどく、頭の中心からズキズキと痛む。


「大丈夫?」


レイヴンが心配してくれている。返事をしなきゃ、「大丈夫」って、返事を、


「…っっ…!」


声が、出ない。さっきから息も荒い。思考に靄がかかったみたいに、頭が回らない。


あぁ、近づいて、くる。怖い。怖い怖いこわいこわい怖い



「っ!ちょっもやばそう。光に釣られて結構な数のムカデがこっちに近づいてきてる。残念だけどここのエリアはダメかな、けっこういい沸きスポットだと思ったんだけど…よし」

「-潰れて死ね。『インプロージョン』」


刹那、恐怖に染まり切った思考を掻き消すほどに強烈な音が、わたしの鼓膜をつんざいた。

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