Day.24学校に行くときに婚姻届をもらってこよっか
「ねえねえ、伊織。結婚しよう」
「あー、そうすっかね」
初ちゃんと別れてから家に帰って、寝て起きたら伊織が朝ごはんを作りにきてくれた。
一緒に作ってもらった朝ごはんを食べてる時に昨日初ちゃんに言われたことを思い出して伊織に提案したら即決、快諾、二つ返事だった。
「言っておいてなんだけど、悩まないの? 一生のことだよ。後80年くらい」
「俺は中学の時から一生お前の面倒を見る気でいたよ」
「え、聞いたことない」
まじで?
中学生でクラスメイトの痴女の面倒を一生見ようとか、なんでそう思うに至ったのかちっともわかんない。
私だったら断固お断りなんだけど。
「言ったことない」
こちらの混乱をよそに伊織はしれっと言って、食べ終えた皿を重ねている。
「それに結婚ってのも思いつかなかった。陶子もたまにはマシなこと言うんだな」
「失礼な」
「結婚って届出出せばできんの?」
「さあ?」
言い出しては見たものの、伊織にはするっと流されると思っていたから、何にも調べてなかった。
二人で台所を片付けてから座り直してスマホで調べる。
「んっとねー、婚姻届っていうの出せばいいって。あ、お父さんの扶養から外れるから言っとかないとだ」
「婚姻届……役所にあるっぽいな。あ、自分だけじゃなくて保証人いるってさ」
「ふうん。お父さんとかお母さんでいいのかな」
「18歳以上なら誰でも良さそうだぞ。俺は兄貴にでも書いてもらうかな」
「わー、住民票とか免許証、マイナンバーカード、なんもかんも変えるんだ。あ、スマホの名義もだ」
「……どっちかの苗字に寄せないといけないんじゃないっけ?」
「そっかあ。三沢にしたらオトじゃなくなるなあ」
「じゃあ園生にする?」
「別にって感じ。お兄ちゃんがもう園生のまま結婚してるし、私は三沢でいいかな」
「じゃあそれで。俺も結婚はしてないけど兄貴いるからどっちでもいいんだけどね。だってどっちがどっちにするにせよ、書類書くの俺でしょ」
「さすが伊織。わかってるう」
「大学の願書すら俺が書いてるからな」
そういう感じで、私と伊織はスマホをぽちぽちしながらやらなきゃいけないことをメモしていく。
途中でお母さんに結婚すると連絡したら電話がかかってきた。
伊織の方にも伊織ママから電話が来ている。
『いきなり結婚ってどういうこと? 就職して落ち着いてからじゃだめなの?』
「職場で手続きするの大変くない? 私にできると思う?」
『多少のあれこれはもちろんあるけど、なんで今なの』
「思いついたから」
『ちょっと伊織くんに代わってちょうだい』
「伊織、伊織ママと電話してる。あ、スピーカーでみんなで話そう」
伊織を突いて通話をスピーカーにしてもらう。
うちの母がすみませんね、の気持ちで眺めていたら、気づいたら伊織がうちの母と伊織ママにスマホ越しにぺこぺこしていた。
「ちょっとー私が伊織に結婚してって頼んでるんだからね。お母さんたち伊織を責めないでよ」
『あんたがちゃらんぽらんだから伊織くんに迷惑かけてるんでしょ!? 反省なさい!』
「すんませーん」
怒られた。伊織ママの方はめっちゃ笑っていて、妊娠させたわけではないなら好きにして、とのことだった。
とはいえうちのお母さんは伊織に甘い。
なにしろお母さんからすれば伊織は末っ子バカ娘に中学の時から勉強を教え、偏差値を10以上上げて進学校、そこそこの有名大学へと連れて行ってくれた恩人なのである。
その上、一生面倒を見てくれるとなれば、まー頭上がんないよねー。
なんて他人事のように考えていたら、またなんか聞こえてきた。
『あなた、就職はするのよね? そのまま伊織くんにおんぶに抱っこなんて許しませんよ』
「するよう。オフィス系と事務系の資格、ちょっとずつだけど取ってるって」
『本当に三沢さんも伊織くんもごめんなさいね、うちのバカ娘が。末っ子だから甘やかしてしまって』
「だーいじょうぶだって」
『あんたはちょっとは反省しなさい!』
その後しばらくお説教されて、今度の休みに帰省して説明することを約束させられて、やっと電話が切れた。
「ごめんねえ、うるさくて」
「いや……多分あっちが普通だから」
呆れたように伊織に笑われた。
開けてある窓からはちっとも風が入ってこない。
今日も暑い日になりそうだ。
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