Day.21あの自由研究の結論をどうしたか、全く思い出せない
丘の先にベンチが並んでいたので、そこに初と並んで座る。
「家にアイスあったから、一緒に食べよ」
「ありがと」
受け取ったアイスにはメロンよもぎきなこ味と書いてあった。
意味わかんねえな。
もっと言えば、友達の彼女と夜中に並んでアイス食いながら海見てんのも、全然意味わかんねえわ。
「こういうのをさ、コウとすべきなんじゃないの」
「ほんとにね。でもできないよ、きっと」
「オレじゃなくてコウに言えよ、それ」
「言って幻滅されたくないな。あたしのこと、はじめて女の子として好きって言ってくれたんだよ」
バカだな、こいつ。
でも言ってることがわかりすぎて、たぶんオレもどうしようもないバカなんだ。
「こんなとこコウに見られて浮気とか言われたくないんだよ」
「……そっか。そうだね。気づかなかった」
初は俯く。
「自分のことばっかで、コウのこともトッキーのことも全然考えてなかったわ」
「やっと気づいたのかよ。おせえよ」
「うん。ごめん。ごめんなさい」
わざとらしくため息をついてから遠くの真っ暗な海を見た。
月もない真っ暗な夜だけど、湾内だからそこまで暗くない。
ずっと向こうに工場の光が見える。
きっと一晩中、いやもっと、オレにはわけわからんくらいの間、ああやって煙を吐き続けているのだろう。
そういや昔、自由研究で煙について書いたっけ。
湯気と煙の違い、だっけ。
そんなことをつらつら考えていると、いつの間にか初の肩の震えが止まっていた。
「あたしね、コウのこと嫌いじゃないよ。いい人だと思う」
「うん」
知ってんだよ、そんなこと。当たり前だろ。
オレの初恋の相手ぞ?
世界一かっこいいに決まってんだろ。
そう言わないオレはたぶん卑怯者なのだ。
初にはちゃんと言えって言ってるのに。
「ねえトッキー。キスして」
「やだよ」
「あたしもやだ。同じようにコウとも嫌。誰であっても嫌」
「オレをダシに使うんじゃねえよ。お前らに挟まれてこちとらダシガラなんだが?」
「ごめん。もうやめる。ちゃんとコウと話す」
「そうしてくれ」
そうして、ちゃんと別れてくれ。
それまでにオレも覚悟を決めるから。
「このアイス美味しいね」
唐突に初は顔を上げた。
「そうか?」
そうか???
結局なんの味かわかんなくて、匂いもいろいろ混ざっちゃって、舌と鼻と脳が大混乱なんだけど??
「コウとはそういう話を出来る間柄になりたかったよ」
「うん」
「でもそれって彼氏彼女じゃなくて、友達なんだよね」
「彼氏彼女でそういう話したっていいだろ」
「それだけじゃ、いられないから」
「うん」
それはそうなんだ。
付き合ったら、今までみたいに楽しいだけじゃいられない。
キスしてセックスして、それから互いの将来の話なんかしてさ。
コウはきっと初とそういうこと全部がしたかったんだろう。
でも初はそうではなかったから。
オレはコウとそういうこと全部したいけど、コウはそうじゃない。
「あーあ。うまくいかねえなあ」
「ね」
どこまで何をわかっているのか知らないけど、初は寂しそうに笑って遠くを見た。
遠く、工場から上がる煙は大きく広がって消えていく。
そういえば、あの自由研究はコウと一緒にやったんだっけ。
小学校が違うのをいいことに、一緒にやったのをそれぞれの学校に提出したんだったわ。
あれ、どこやったんだったかな。
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