Day.20強く吹き付ける海風が、めちゃくちゃいい匂いだった
居酒屋から四人で学校の最寄駅まで歩き、同じ電車に乗る。
オトちゃんと三沢は途中の乗り換え駅で降りた。
「じゃあねー」
「またねー」
「「またなんてない!」」
女子二人は仲良く手を振り合い、男二人も一応手を振る。
三沢の手を振る仕草はどうみても追い払うやつだったけど。
「トッキーの家ってまだかかる?」
「うん。あと二十分くらいかな。初の家ってどこだっけ?」
「あと十分くらい」
「駅から遠いなら送るけど」
「トッキー、紳士なんだねえ」
初は頬を染めて笑う。
染まっているのは完全にアルコールに依るものなので、トキメキや可愛らしさなどは一切ない。
じゃあマンションの下までお願いしよっかなーと先を行く初に、はいはいと返事をする。
初になんかあったらコウが悲しむし、うちとそんなに方向が違うわけでもないのでまあいいだろう。
(なんでオレ、こんなに言い訳してんの?)
横でぽけっと外を眺めている初がなにを考えているかはわからない。
そう、わからないんだ。
でもって、きっとオレ以上にコウは初のことがわかんなくて、わかんないことに苦しんでいる。
「初」
「うん?」
「きっと、オレら、話さなきゃダメなんだな」
「……なにについて?」
いっとう静かな声で初が言った。
「オレね、初に言ってなかったことがあってさ」
「うん。いいよ、言わなくて」
ガタンゴトンと電車が揺れる。
キキーッとブレーキが軋んで、一際大きく電車が揺れて、そして止まった。
「あたしんち、ここ」
「降りようか」
初について電車を降りる。
結構たくさんの人が降りたので、雑踏に巻き込まれないようにホームの端で電車を見送った。
「ここまででいいよ」
「家まで送る。定期圏内だし」
「ありがと」
「コウとは違うって思った?」
「思った」
コウから、家まで送れなかったと聞いていた。
やんわりと拒絶されて、そっから踏み込めなかったのだと。
ほんとにコイツらめんどくさい。
そこに挟まれるオレの気にもなってくれよ。
今はそんなことないけど、コウに間男扱いされたくねえんだよ。
「こっち」
駅前のコンビニで水を買ってから初の指さす方に向かう。
家には友達んとこに泊まってくると言ってあるので、この際何時になっても付き合ってやろう。
しばらく住宅街を歩くと潮の匂いがしてきた。
方向的にたぶんすごく海が近い。
「ここ」
「マジかよ」
初が立ち止まったのは、海際に立つ高層マンション群の中のひとつだった。
「え、初、お嬢様かなんかなの?」
「そんなんじゃないから!」
初は笑って否定する。
いや、けど、めちゃくちゃデカいぞ? このマンション。
これが摩天楼? 違うか。
「とにかく荷物置いてくるから、そこで待ってて!」
そう言って初は小走りでマンションのエントランスへと消えていった。
いや、しかしすんごいマンションだなあ。
門があって、中にちょっとした公園まである。
公園の端にベンチがあったので座って、さっき買った水を飲んでいたら初が戻ってきた。
「お待たせ。あっち行こう。海見えるよ」
スタスタと先を行く初にくっついて小高くなった丘を登る。
丘の両脇には松が生えているから防波堤? なんつーの? 防風林? そう言うやつ。
完全に脳内でバカを曝け出している。たぶん小学校の社会とかで習ってるはず。
丘のてっぺんまで行くと向こうに海が見えた。
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