Day.16他人の恋路とか画面の向こうのお話でしかない

 なんでこんなことになってんのかな。

 隣に座る男の萎びたような横顔を眺めた。


「三沢くん、聞いてる?」


「ぜんぜん聞いてない」


「ひどくない?」


「ひどくない。勝手に押しかけてなに言ってんのマジで」


 萎びた顔でブツクサ言っているのは先日いきなり話しかけてきた男、武田正時だった。

 なにが面倒って呼びかけるときにトッキーって言わないと返事しやがらねえのだ。

 面倒なのは陶子だけで間に合ってるんですけど!

 部室棟の前で声をかけられ、そのまま近くのベンチに並んで座って、愚痴なんだかなんなんだかぼやきのようなものを聞かされていた。

 あーあ。違う道で帰れば良かった。

 今日は陶子の部屋に行く日ではないので、さっさと帰ってさっさと寝たかったのに。


「三沢くんは彼女いる?」


「いない」


「オトちゃんと付き合わないの?」


「拒否。断固拒否」


「じゃあオレ付き合っていい?」


「そしたらもぎ取るわ」


「なにをだよ」


 ナニをだよ!!!

 陶子と付き合いたいとかぶち⚪︎すぞ。


「感情クソ重でそれを隠しもしないのにしれっとしてんの、なんなのほんと」


「うるせえなあ」


「隠してるオレがバカみたいじゃん」


「バカだろ」


 そう言うとトッキーは頭を抱えてデカいため息を吐いた。

 正直こいつが陶子とどうこうなるとは思っていない。

 それくらい見てればわかる。


「隠さなきゃいいのに」


「隠さない誰も彼もが隠さないでいられるわけないじゃん」


「主語デカくして誤魔化すのもバカじゃん」


「三沢くんはオトちゃん以外の人にも優しくして???」


「するわけねえだろ」


 トッキーはだよなーと言って笑った。

 だらだら喋っているうちに空がオレンジに変わっていく。

 潮の匂いが遠くから漂ってきて、ベタつくようだ。


 陶子は今頃なにをしているだろうか。

 多分エロサイトの巡回をしたり、明日の服を選んだりしているのだろう。

 露出度の低い服だといいなあ。せめて胸か尻か、どっちか隠れてるといいなあ。

 でも先日珍しくブラウスを着てると思ったらノーブラだった。

「透けてるのエロくない?」

 とのことだった。

 エロいけどさあ! 大変よろしいけどさあ!!!!


「三沢くん?」


「あんだよ」


「帰ろっか?」


「そうしてくれ」


「早くオトちゃんに会いたいでしょ?」


「なんでそうなんの」


 まあ開放してくれるなら、それでいいんだ。

 そう思って立ち上がるとトッキーは普通に着いてきた。


「え? 駅まで一緒に帰ろうよ」


「好きにしてくれ」


「ごめんね。なんか、好きな子から好きな子について延々愚痴られんのキツくて」


「俺、お前のこと全然好きじゃないけどめちゃくちゃうぜえもんね」


「でしょ」


 トッキーはでっかいため息を吐きながら苦笑した。

 まあそれは可哀想だとは思うけどね。

 ふーん、あっそー、めっちゃ可哀想だね??? みたいな。

 テレビの中の人宛ての可哀想、だ。

 

「他に愚痴れる友達いないわけ?」


「どっちのことも知らなくて、根掘り葉掘り聞いてこない友達って三沢くんくらいかな」


「友達じゃないんだけど」


「友達じゃないのにここまで聞いてくれるって、めちゃくちゃいいやつじゃん。お友達からお願いします」


「お断りします」


 お断りしたとこでやっと駅に着いた。

 電車の方向は同じだったけど、向こうは快速電車で、俺は各停だったのでバイバイする。

 わりと強制的にバイバイして、トッキーを見送った。


 あれだろ、道ならぬ恋ってやつ。

 電車の窓越しに手を振り返すと、トッキーはヘラっと笑った。

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