Day.17きっと半年は保たないのだろう
微妙に梅雨の明けない蒸し暑い夕方。
今日も今日とて彼女の初に避けられている彼氏のはずの俺……一ノ瀬孝二は背中を丸めて学校を後にした。
トッキーはバイトってさっさと帰ったし、初はまだ授業があるから学校に残っている。
1限くらいなら待ちたかったけど、やんわり先に帰れと断られた。
「もう無理なんかな」
電車に乗って窓の外を見ると、まだまだピカピカに晴れている。
俺と反対側のドアのところにはたまに学校で見かけるカップルがイチャイチャしていて血涙が出そうなほど羨ましい。
(つーか彼女、めっちゃちっちゃいズボン履いてる。なんだっけ、ホットパンツ? シャツもちっさ。着てる意味あんの?)
尻も背中も半分くらい出てるし、脚だって腕だってなーんにも隠していない。
隣に立つ彼氏は思ったより嫌そうな顔をしてるけど、きっとこれからホテルとか家とかで脱がして楽しむんだろう。
血涙どころか歯を食いしばりすぎてカチ割れそうなくらいうらやましい。
(いいなあ)
俺が見たいのは他所の女の尻ではないのだ。
大事な彼女である初がいいのだ。
もちろん俺は紳士であるからして、初が恥ずかしいとか心構えが必要であるとか、そう言うことであれば(辛いけど)待つし寄り添う所存である。
けど初はなにも言わない。
拒否反応はあれど、それを明確な言葉にして言うことはない。
(なんも言われない方が辛いのに)
それを言わない俺も、多分ダメ。
やっぱもう難しいんかな。
付き合ってまだ数ヶ月。半年も経っていないのに、こんなにも距離がある。
向かい側でイチャイチャするカップルの彼氏の方は呆れた顔をしてるけど、彼女がよろけないようにずっと支えているし、荷物も持っている。
たまに見える彼女の横顔はずうっと満面の笑みで、俺はいつから初の笑顔を見ていないだろうか。
この間の休みにトッキーと銚子に行ったのは楽しかった。
長い付き合いだから息も合うし、食べ物の好き嫌いも互いに把握している。
なんの気も遣わずに観光をのんびり楽しめた。
……きっと、初とじゃこうはいかないだろう。
俺はめちゃくちゃ気を遣って、初も落ち着かなくて、目の前のカップルみたいにはできなくて。
あ、やば、泣きそう。
最初は落ち着かなくても、付き合っていけばそのうちトッキーといるみたいに楽しくやっていけるって思ってたんだけどな。
泣かないように遠くを睨んでいるうちに大きい駅に着いて、カップルは降りて行った。
俺はちょっと悩んでから降りることにする。
こんな気分のまま家に帰ってひとりぼっちになりたくなかった。
言えばきっとトッキーの家でトッキーを待たせてもらうことはできたかもしれないけど、したくない。
最近、俺が初のことでぼやくとトッキーが悲しそうな顔になることがあるのだ。
改札を抜ける頃にはさっきのカップルは見当たらなくなっていた。
他にももちろんカップルは山ほどいるけど、おんなじように一人でぷらぷらしている男も女もたくさんいる。
ひとりぼっちが俺だけじゃないことになんとなく安堵した。
誰も彼もが辛みを抱えているのだと、辛いのは自分だけじゃないのだと思わせてほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます