Day.2ベッド以外でも隣にいたい男ってなかなかいない

「どったの初ちゃん、浮かない顔して」


「なに言ってんのオト。浮いてるよ、ぷかぷかだよ」


「初ちゃん真顔怖くてウケんね」


 大学にあるカフェテリアで、泥水みたいなコーヒーを飲みながら、友達と空き時間を潰していた。


 三限と五限の間が空くのほんとクソだと思う。

 正面で暗い顔して午前中に出たレポートを書いているのは最上初。高校の時からの友達だ。

 ちょっと前に彼氏ができて、しばらく楽しそうにしてたのに、ここ最近は随分落ち込んでいる。

 ショートヘアはしおしおだし、口はへの字だし。

 ニコニコしてれば可愛いのにしおれて不細工になっている。


「なあに? かれぴとうまくいかないの?」


「んー」


「下手くそだった?」


「そこまでいってない」


「そこまで行く前にそんなに落ち込むって、相性悪くない?」


 私が半笑いで言うと、初は丸い目をぱちくりさせた。


「相性なんかな。あたしが悪いのかと」


「オンナノコをその気にさせられないかれぴが悪いんしょ? 初ちゃん、なんでも自分のせいにしてない?」


「オトちゃんはすぐ人のせいにするから」


 失礼でウケる。


「私はいつでも誰でもオッケーなビッチだけど、初はそうじゃないんしょ? じゃあそう言わないとね」


「オトちゃん、昔からそう言うけど誰彼構わずやらかしてる?」


「伊織がダメって言うから自重してる。代わりに伊織に好き放題してる」


 三沢伊織は中学からの友達……じゃないな。添い寝フレンド……でもないな、添い寝してない。

 有り体に言っちゃえばセフレだ。

 私はセックスが好きなのだ。

 いろいろしてみたいけど、誰彼構わずすると伊織が怒るので、いろいろの全てが伊織一人に向いている。


「私と伊織だって、ちゃんと合意とるもん。伊織が嫌だって言ったらしないよう」


「オトちゃんが嫌なとき、三沢くんは止める?」


「嫌って言ったことないけど、止めるんじゃない?」


 そういう信頼感があるから、私と伊織は六年間も付き合いが続いているのだ。


「初ちゃんのかれぴ、初ちゃんが嫌がったら止めないの?」


「止めるとは思うよ。そうなる前に雰囲気が無理で逃げちゃった」


「ふうん。じゃあそう言った方がいいよ。かれぴかわいそでしょ」


「できないのが?」


「違うよ。何がダメだったのかがわからないことがだよ」


 泥水を飲み干してカバンからコーヒーの入ったマグボトルを出す。

 これも伊織が用意したもので、めちゃくちゃ美味しい。これに比べたらどんなコーヒーだって泥水だ。

 あいつは私のなんなんだろうなってたまに思うけど、結局いつも『まあセフレだよね』ってとこに落ち着く。


「オトちゃん」


「うん」


「好き」


「知ってる」


「オトちゃん、えっちなことが絡まなければまともなのにね」


「好きって言った口で流れるようにディスるじゃん」


 初は笑って立ち上がった。

 時計を見るとそろそろ四限も終わる頃で。


「初はどこだっけ」


「三号館」


「じゃあ逆だ。またねー」


「またねー」


 手を振って見送ってから振り向くと伊織が来たところだった。


「次、七号館」


「わかってるよう」


 伊織は当たり前みたいに私のカバンを持ち上げる。


「ママー」


「せめてパパと言え」


「えっ、お金くれるの」


「最低かよ。オレが欲しいくらいだ」


「うふふ、だよね」


 伊織と並んで次の授業に向かう。

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