最強の言葉

「でもさ、お互いこんなに不満を抱えているなら別れるのも1つの選択肢としてみたほうがいいんじゃないかな。」彼女が真剣な顔でそう言った。確かに僕も同じようなことを考えてはいた。だが、いざ彼女から言われるとどうしてもショックで別れたくないと明確な意思が自分の中で生まれた。でも未練がましいって思われちゃうのかな。否定して引き止めると迷惑なのかな。初めての彼女で初めての別れ話。どうするのが正解なのかわからない。でもとにかく何か喋らなければこのまま進んでしまう。

「僕は、別れたくない。さっきはひどいこと言ってごめん。たしかに僕も同じようなことを考えていたけど今海月から言われて絶対に嫌だって思った。だから別れたくない。チャンスがほしいです。」どうしていいのかわからず思っていることを今度は言葉を選んで慎重に並べる。すると海月がこう言った。

「わかったよ。私は選択肢にいれるっていうことだけで別れたいなんて思ってないよ。でもさっき言ったのは本音だから、気をつけてほしい。私はあなたの彼女で奥さんになりたいと思っているけれどお母さんになるつもりはないの。2人で協力していきたい。」彼女も冷静になってくれて話し合うことができた。別れたいとは思っていないと言ってくれたときは本当に安心した。そういえば最近お互いの嫌なところしか見ていなくて言えてなかった気がする。

「海月、いつもありがとう。こんなぼくでごめんね。」

___「ありがとうは最強だね。」

いつかの昔、君か言ってたっけな。いつの間に忘れてたんだろう。何回ぶつかっても話し合って受け入れると宣言したことを。僕の近いは浅はかだな。反省しなくちゃ。僕には何でも勝手に想像して決めつけてしまう悪癖がある。それでも今まで仲良くやってこれたのは彼女が我慢してくれてたからなのではないか。一途に愛を注いでくれていたのではないか。何も返せていなかった。いやむしろ攻撃的な態度ばかりでマイナスな気持ちにばかりさせてしまっていたのではないか。そう思うと本当に情けなくなった。

「大丈夫だよ。こちらこそいつもありがとう。」僕にお礼をいうべきところなんかなにもないのにそれでも感謝を伝えてくれる。いつの間にか忘れていた初心ってやつを取り戻した僕は彼女を自分の胸に抱き寄せた。それから彼女のことをじっと見つめる。そこには前まで感じていた不快感なんてものはなくて同棲前の愛おしい彼女が僕の首筋あたりからこちらを見つめていた。

「本当にごめんね。これからはちゃんとする。」そう自分と彼女に誓い彼女の唇にキスをした。

それ以来僕は帰ってきてから彼女と一緒に家事をするようになった。二人で話しながら作業をしていると自然に喧嘩も減りもとの円満な生活に戻った。だが乗り越えたはずの壁はまたすぐに僕らを阻んでくるのだった。

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