第7話 謎の銀髪美少女メイド、スノー
「やぁ、アラン、来たよ」
やって来たのはアランの屋台。
地図とフレンド検索を駆使して辿り着いた場所は北側の広場である。
今日は木製の長椅子と長机が用意されており、其処には妹組達が座っていた。
「おぉ、ユキか、ところでさっきワールドクエストがどうとか試練がどうとか聞こえたんだけど……何したんだ?」
「僕
挨拶もそこそこにいきなり切り出して来たアランに流れる様な棒読みで返す。勿論真顔だ。
「ふーん、まぁ良いが」
半目で此方を見て来るアラン。どうやら、店自体は終わった様だが、妹組達の為に料理を始めようとした所で僕が来たらしい。生の兎肉が置いてある。
「ああ、アラン、良い食材が手に入ったんだ、これを使って料理してくれない?」
そう言って僕が取り出したのは、一抱えもある蟹の肉。この一抱えが山ほどある。
「ああ、良いぜ……蟹肉……だよな……なんか鑑定出来ないんだけど」
「うん? 大丈夫、僕も出来ない」
「そうか……んじゃあ料理するけど、多少時間掛かるから座って待っててくれ」
そう言うとアランは椅子の方を指差した、その後、チラッとウルルを見て目を丸くしたが、すぐに調理に戻って行った。アランって結構気にしない性格してるよね。
椅子の方へ近付くと、アヤがニコニコと嬉しそうにしながら対面の席を促している。
「おにぇちゃん、こっちこっち」
「うん」
「タク兄達も後から来るよぉ」
「そうなんだ」
どうやら西の森で合同で狩りをしていたらしい。
「じゃあ10人かな?」
「うぅん、12人」
「ん?」
話しを聞くに、どうやらタクのパーティーに新しく2人参入したらしい。
席を数える為に見渡した時、妹組の4人が目を見開いて僕を見ている事に気付いた。
そう言えば、僕のメイド服姿を見たのは妹組の中ではアヤだけだった。
ふと、イタズラを思い付いたので、軽いノリで実行に移す。
ふいに席を立ち上がると、妹組全員が見える位置に行く。
片足を半歩下げ、踵を内側に寄せる、スカートの裾を持ち上げ、飽くまで優雅に上品にお辞儀。
「お初にお目に掛かります、お嬢様方。
声も若干女性に寄せて、何時もとは違う気品のある笑みを貼り付ける。
「お、おねぇ……コホン、スノーさん、此方へ来なさい」
「はい、ただいま」
興奮した様に頰を真っ赤に染めたアヤは、軽く咳払いをした後主人の如く振る舞った。ノリノリである。
僕はそれに答えるとニコリと微笑んだ。
アヤの真横に歩み寄る。
「何か御入用でしょうか? アヤお嬢様」
「ゴフッ」
「アヤ、お嬢様?」
ニコニコ笑顔のまま問い掛けると、アヤが机に突っ伏した。
心配げな表情を浮かべて心配げな声でセリフを吐く。
「ガハッ……死ぬ、悶え死ぬ」
「ユ、ユキさん! アヤを誘惑するのは止めてください!!」
何やらトチ狂った事を言い出したアヤを見て、親友のミユウちゃんがそんな事を言い出した。
それに対して、僕は心底驚いた、と言う様な表情を浮かべ、口元に手を持って来る。
「まぁ! わ、
目線を顔ごと逸らし、悲しげな表情を浮かべる。
「ぐっ……可愛い……」
堕ちた。諦めた様に妹を介抱し始めたので、弄るのは此処までにしておく。
「あら? ユリお嬢様、お顔が赤いですよ? お風邪でしょうか?」
次の標的はユリちゃん。顔を赤くしている彼女を弄る。
「そ、そうですね、風邪を引いたかもしれません、測って頂けますか? スノーさん」
「ええ、それでは失礼します」
そっと黒髪を押し上げ額を晒すユリちゃん。
それに応えて左手でユリちゃんの頰を支え、目を瞑り、右手で銀髪を押し上げる。
そのままゆっくりと顔を近付けて額と額をくっ付けた。
温かい。
そしてその熱は少しずつ上がって行っている。
目蓋を開くと、顔を真っ赤に紅潮させて、息も絶え絶え僕の顔を見詰めるユリちゃんと目があった。
「きゅう」
目を回して机の方へぶっ倒れたユリちゃん、何を隠そう彼女は百合なのである。勿論僕が男であると言う事は承知の上だ。
「スノーさん、こっちこっち!」
「スノーさん、ここに座って!」
そう声を掛けて来たのが桜庭姉妹。
「はい、ただいま」
2人の間に腰掛ける、すると2人が左右から抱き付いて来た。
「スノーさん、本物のメイドさんみたい!」
「スノーさん、可愛い!」
「あらあら、甘えん坊さんね」
この2人は妹組の中では2番目に裕福な家庭なので、家にメイドさんがいるのだ。
僕はニコニコと微笑みながら2人の頭を撫でる。
きゃー! と嬉しそうに声を上げて擦り寄って来る2人。
実際に彼女等は甘えん坊なのだ、お母さんが大好きで、小さい頃から面倒を見てくれているメイドのお姉さんを姉と慕っている。
「おう? ……何だこれ」
タクの呆れた様な声が聞こえたので、優しく2人を退けてから席を立つ。
タク達のパーティーに入った新メンバーの2人の前に行く。
1人は青い髪をツインテールにした黄色ツリ目の美少女。別クラスの
1-Cクラスに所属する彼女はとある理由で孤立、一部の女子からイジメの様な扱いを受けていた。
そこへタクが助けに入ってからは一度もそんな事は起きていない。
イジメをしていた女子達とは僕が軽くお話しをして諭した所、本人達はちょっとした嫌がらせをしていたつもりだったらしく、僕に指摘されて思い直した様だ。
後日しっかりと謝った彼女等は、今は裏でミサキさんの補助活動をしている。
そんな訳でミサキさんは未だクラスで孤立しているものの、イジメは一度も受けていない。
もう1人はショートの緑髪で紫の目の美人、飯高先輩こと
1-Bクラスに所属する彼女は、高身長にスレンダーな体型、サバサバとした気持ちの良い性格で、男子女子問わず人気が高い。
その運動神経は主に球技に生かされて、本人は何の部活にも入っていないが、バスケやバレーの助っ人として大会に出る事もある。
彼女はしばしばタクとセンリに話し掛け、二人をライバル視している様だった。
『やぁ! 宮代君、和澄さん、短距離走の記録、どうだった?』
『おう、俺はーーだな、まぁまぁだ』
『私はーーね、それなりじゃ無いかしら?』
『ぐっ、私はーーだったよ、ソレナリソレナリ』
と言う会話があったとかなかったとか。そして一人になった時は——
『くそぅ、また負けたかー……本当に強いなぁ……次は負けない!』
『そう、頑張ってね』
『うひゃあ!? す、鈴守君!? い、いつの間に』
——と言う事があり、背の低い子達はこの驚いた声が好きで、密着する距離から声を掛けるんだとか。
2人の前に立つと、優雅で上品にカーテシーを見せる。
「お初にお目に掛かります。お嬢様方、
「え? え、そ、その、よ、よろしくして上げても良いわ!!」
「これは御丁寧に、宜しくね、ユキ君」
どうやら飯高さんには見抜かれたらしい。まぁ、見た目で分かるだろうけどね。雨谷さんに限ってはあまり顔を合わせないので致し方ない。
え? え? と混乱している雨谷さんを尻目に皆を席に促す。
「お席へどうぞ、センリお嬢様、ユウミお嬢様、そして——」
さりげなく親友に襲撃。
頰を真っ赤に染めて、照れた様にはにかんで、と。
「——ご主人様」
「うむ、御苦労」
「今日は僕の奢りだよ」
「マジか、後が怖い」
うむ、安心した。僕にその線の趣味は無いのだ。
全員を席に案内し終わり、僕も腰掛けようとして、はたと通りの向かい側を歩いていた人と目があった。
相変わらず綺麗な金髪に空の様に美しい瞳のティアだ。
此方へやって来るティアに僕も少し歩み寄り、謎の美少女メイドスノー、起動。カーテシー、まだやるよ。
「おぉ、こんな所で奇遇だな、ユ——」
「お初にお目に掛かります、ティア姫殿下、
「んぇ? な、何を言っているのだ? ユ——」
「ティア姫殿下はスノーの事がお嫌いですか……?」
凄く悲しそうな顔と声音で上目使いに見詰める。
「な!? そ、そんな訳無い! ユ、スノーを嫌うなんてあり得ない!!」
「姫様!」
「スノー!」
感極まった様にティアに駆け寄る僕、それをティアは迎い入れ、ひしっと抱き合う。茶番はこれくらいで良いだろう。
ティアの拘束からヒョイっと抜け出すと、手を取って引く。
「あ、え?」
「それじゃあこっちに座って」
「え、スノー、ユキ……」
何やらおかしな反応をするティアを席に座らせる。
次いで、皆に紹介する。
「皆、紹介するよ、彼女はエスティア・ルベリオン、この国の王族だよ」
「は?」
「え?」
「な!?」
一部女子から驚きの声が上がった。
「おし、蟹づくしできたぜ! ん?」
アランは割と何でも気にしない性格なのだ。
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