第4話 地底湖の主

 



 巨大蟹の最初の攻撃は大量の泡を吹き出すだけの、巨大蟹にとっては息を吐く様な攻撃。


 撒き散らされた死の泡はしかし——



「はっ!!」



 ——精霊さんの上げた水柱に当たって弾けて消えた。



 精霊さんはその水の流れで僕達を纏めて水球に閉じ込めると、陸へ向けて弾き飛ばした。



 同時に水柱を突き破って迫る槌鋏。



「っ!?」



 精霊さんが咄嗟に展開した無数の水盾も、まるで紙を割く様に貫いて——



 ——衝撃。



 轟音を響かせ、壁に叩き付けられた精霊さん。安否不明。



 水球は高速で飛翔する。しかしそれを超える速度で追い掛けてくる巨大蟹は、その鎚鋏を振るって僕達を叩き潰そうとした。



 空気の壁を切り裂いて迫る巨大鎚、当たれば即死のそれ。


 デカスラさんが僕達を纏めて水球の端に押し退け、壁になった。



「ぐっ!!」



 辛うじて直撃を避けられたそれは、しかし余波だけでデカスラさんの体の9割を消し飛ばし、僕達を地底湖の硬い床に転がした。



 慌てて起き上がると。



 僕の目の前には。




 巨大蟹の鎚鋏が——





 ——ドゴッ!!





 僕を殺す為に風を切って迫る鎚鋏はしかし、何者かに受け止められた。



「強大な気配を感じて来て見れば、大変な事になってますね」



 遠くからそんな声が聞こえ、突如浮かび上がった水に僕達は飲み込まれた。


 その水は僕達を包み込むと、先程の水球よりも強力な魔力の壁を形成し、僕達を地底湖の天井まで送った。




 そこから見えた物は、広大な地底湖と巨大蟹。


 その鎚鋏を受け止める黄色い巨人、巨大蟹を囲む様に立つ赤、青、緑、白の4巨人と、湖の上に立つ精霊3姉妹。



 巨人は輪郭がぼやけていて、それぞれの色毎にそれぞれの属性を感じた。


 赤の巨人は火の属性。青の巨人は水の属性。緑の巨人は風の属性。黄の巨人は土の属性。白の巨人は光の属性。



 これ程までに莫大な魔力を持つ巨人が一体何処にいたのか?


 考えられる事は一つ。


 巨大な結晶の周りにいた、無数の小さな精霊達だ。



 あの精霊達が属性毎に集まり、巨人になったのだとしたら辻褄が合う。然ながら精霊巨兵と言った所か。


 ……だが、それだけではこうも強大な力にはならない……おそらく妖精の森の方からも集まって来ているのだろう。



 一時いっとき、停止した戦場は、再び動き始める。



 再度振り下ろされた鎚鋏の一撃は、先の一撃に比べて数十倍の魔力が込められていた。

 余波だけで湖が氾濫し、周囲にいた魔物達を飲み込んでいく。



 隙を狙って背後から迫った光巨兵はしかし、その結晶柱から放たれた光線を浴び、その光を受け止めるので精一杯。


 剣鋏を狙った風巨兵は高速機動で攻撃を繰り返すも、表面に浅い傷を刻むだけに留まり。

 それどころか、風巨兵と同じ速度で繰り出される剣鋏の連続攻撃に一進一退の攻防を続けている。


 よく見ると、鋏に着いた傷が消えている、再生しているのか?



 火巨兵はその全身を以って巨大蟹の右足を焼き切ろうと奮闘しているが、火巨兵がこの中で一番密度が薄く、苦戦を強いられている。

 湖と妖精の森では火の気が少な過ぎるんだ。



 左側の足を封じようとしているのは水巨兵。地底湖の水を操り巨大蟹の足に纏わりつかせ、動きを僅かに鈍らせる事に成功している。


 だが、巨大蟹とはそもそもの相性が悪いらしく、水巨兵の攻撃は大きなダメージになっていない。



 水の精霊3姉妹は巨兵達が身を以って作っている隙に巨大な槍や刃を放って巨大蟹を攻撃するが、傷はすぐに再生していく。



 蟹の猛威たるや尋常ではなく、たった一匹でありながら、化け物級の8体を相手にほぼ無傷。どれほどの怪物だと言うのか。





 どれ程時間が経ったかは地底湖故に分からないが、相当な時間が経過したのは分かる。


 戦いは未だ、続いていた。


 巨大蟹は両鋏を失い、右足を焼き切られ、全身に着いた大小様々な傷は再生されずに残ったまま。一部は装甲が割れて中身が露出し、致命打となる傷も幾つも存在する。


 正に満身創痍と言った体でありながら、その戦い振りは瀕死であるとは到底思えない有様。



 対する巨兵達は、水巨兵を除いた4体が既に消滅していた。



 火巨兵は不利を悟ってか自らを犠牲にする特攻を敢行し、巨大蟹の右足を焼き切って消滅した。



 風巨兵も火巨兵に続いて、自らを剣鋏の前に晒して無理やり作った隙で、己の全てを消費し尽くして剣鋏を切り落とし消滅。



 土巨兵は鎚鋏の連続攻撃を受け止め続け、つい先程鎚鋏をもぎ取って消滅した。



 巨大蟹の一番魔力が込められた高濃度魔法攻撃を受け止め続けた光巨兵は、土巨兵と同じ時に消滅してしまった。



 残るは水巨兵と精霊3姉妹の4人だけ。



 巨大蟹は全身ズタボロになりながらも魔力を集約し、致命傷を治して行く。


 ここで姉精霊が切り札を切った。


 姉精霊は水巨兵を取り込み、その力を一本の大槍に、凝集したのだ。



 姉精霊が放ったその大槍は、足を焼き切られ身動きの取れない巨大蟹へと飛んで行き——



 ——その強靭な甲殻を貫いて——




 ——巨大蟹を打ち倒した。




《レベルが上がりました》



世界ワールド4蟹の試練ザ・カルキノス



《【世界ワールドクエスト】『星天の第4試練:蟹の試練ザ・カルキノス』をクリアしました》



《【伝説レジェンドクエスト】『清浄なる杖の継承者』をクリアしました》




世界ワールドクエスト】

『星天の第4試練:蟹の試練ザ・カルキノス



参加条件

・ボス『クリステア・アークキング・ザ・クラブ』の討伐



達成条件

・ボス『クリステア・アークキング・ザ・クラブ』の討伐



失敗条件

・無し



達成報酬


参加者報酬

・スキルポイント10P



参加者貢献度ランダム報酬

貢献度1%ーー100%

・武器『結晶大王蟹の蒼双剣カルキノス・ザ・エンドシザー

・武器『結晶大王蟹の蒼壊槌カルキノス・ザ・ブレイクシザー

・武器『結晶大王蟹の虹光杖カルキノス・ザ・レインボーワンド

・防具『結晶大王蟹の守護鎧カルキノス・ザ・プロテクトアーマー

・防具『結晶大王蟹の魂ザ・カルキノス

・スキル『結晶大王蟹の御霊カルキノス・プラスパワー

・スキル結晶『再生』×10

・スキル結晶『堅殻』×10

・スキル結晶『金剛力』×5

・スキル結晶『火耐性』×10

・スキル結晶『水耐性』×10

・スキル結晶『風耐性』×10

・スキル結晶『土耐性』×10

・スキル結晶『光耐性』×5

・スキル結晶『闇耐性』×5

・スキル結晶『雷耐性』×5

・スキル結晶『斬耐性』×5

・スキル結晶『打耐性』×5

・スキル結晶『酸耐性』×10

・スキル結晶『毒耐性』×10



エクストラ評価報酬

早すぎた邂逅

精霊との友誼

・スキルポイント10P

・スキル『幸運』

・スキル『精霊召喚』

・スキル『精霊使役』



全体報酬

・新スキル解放

・星天の第4試練の突破





伝説レジェンドクエスト】

『清浄なる杖の継承者』



参加条件

・資格を保持している事

・追記:一定量を超える器を観測した時



達成条件

・資格を保持していると認められる

・追記:一定量を超える器を観測した時



失敗条件

・無し



達成報酬

・古びた杖

・スキル『聖者』



エクストラ評価報酬

資格未保持者

・スキルポイント5P



全体報酬

・新スキル解放




 ……何か、凄いクエストをクリアした様だ。




 

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