第3話 地底湖へ
《レベルが上がりました》
部屋から出た場所が、広大な地底湖である。
王都の下にここまで大きな空間があると、落盤とかが心配なのだが、王都の歴史書を見るに少なくとも五百年以上は無事だから大丈夫なのだろう。
この地底湖に生息している魔物は、今しがた遭遇したものが8種。
大きなスライムことビックスライム。お馴染みの魔物であり、そして上位種であるデカスラさんには勝てない。嬉しいことに無傷の核を回収。
ビックシザーより大きな蟹が、グレイトシザークラブ。鋏は輪をかけて大きく、食べ応えがありそう。
そこそこに大きなトカゲが、ワイルドリザード。噛み付き攻撃が基本の様で、四肢の膂力もかなり強く、デカスラさんを貫いて食いつかれる所だった。うさちゃんが。
小石兵の大きいバージョンが岩兵。不恰好な人形から綺麗な装備を纏った人型になっていた。
動きが遅く、デカスラさんが押さえ付けると殆ど動けなくなる。
大きな蛙はビックフロッグ。強酸性の唾液を持つが、魔力による物であり、魔力を当てるとただの粘液になる。キモイ。
グレーターコックローチはビックコックローチよりも更に巨大なゴキで動きも早いが、デカスラさんに突っ込んで行くとそれも無意味。
巨大な蝙蝠がグレーターバット。単純に大きいだけでなく牙には麻痺性の毒があり、魔法を僅かに阻害する音波を発してくる。
防御性能が低い為簡単に打ち落とせる。
巨大な蜘蛛はビックスパイダー。粘着質な糸を張って獲物を搦め捕り、毒の牙で弱らせて食らうちょっとヤバい奴。
問題は粘性とか関係なしに消化出来るスライムがいる事。
地底湖内の魔物は僕等より基本格上らしく、既に僕は二つもレベルが上がっている。
勿論連戦なんか出来る筈もなく、襲い来る敵の9割は精霊さんが倒している。
水の弾を飛ばすウォーターバレットを連射したり、水の刃を飛ばすウォーターカッターが異常に大きかったり、ただ水を操って窒息させるだけだったりだが、やはりやたらと強い。流石精霊と言った所だ。
途中、何故助けてくれるのか聞いたところ。賢者様のお知り合いなんだから当然ですよぉ〜。との事、賢者って爺様だよね? ……レイーニャ辺りが話したのかな?
取り敢えず倒した魔物は頂いている。精霊には特に使い道も無いらしい。
他にも、幾らかのアイテムを拾った。
赤色の石が火精石。青色の石が水精石。緑色の石が風精石。黄色の石が土精石。それから露出した鉱脈から溢れた鉄鉱石。
精霊が来る場所という事もあってか精石という種の石が手に入った。
精霊石という物で、ここら辺ではそうそう手に入らない物なので嬉しい。
レイーニャが持っていた杖に使われていたのは雷の精霊石だろうか?
……あの透明度から考えるとその上の精霊結晶だろう。つまり、雷精結晶だ。
そんなこんなで目的地に辿り着いた。
場所は地底湖の真ん中にある小島の前。暗いせいで見えにくいが、水の浅い場所があってギリギリで辿りつけた。
古びた杖 品質C レア度? 耐久力A
備考:硬い金属で作られた古びた杖、何処か気品を感じる。
小島一杯に金属板で作られた魔法陣、その中央にある台座にそっと置かれている一本の杖。
「あれは貰って良いの?」
一応お伺いを立てておく。書物を読んだ上では特に制約はなかったが念の為である。
「結界があって〜、入れないんですよぉ〜?」
精霊さんの言う通り、小島には透明な壁があって入れないようになっていた。
フィールド制限の不可視の壁にそっくりだ、観察してみる。
周辺一帯の魔力の流れから、この結界は維持する為の魔力を湖全体から得てい事が分かる。
湖の北西には例の巨大な結晶があり、過剰な魔力が湖に流れ込んでいるので魔力切れは起きないだろう。
また、魔法陣自体は、金属板に書かれているのではなく、金属板自体に掘られている。
金属自体がただの金属ではない様で、王国の歴史より長く安置されている筈なのに風化は見られない。
この結界を解くには専用の術式が必要だ。だが、開き方は二種類ある。
一つ目は、結界の最も薄い所に耐えられる限界を超える量の魔力を、針程に圧縮して叩きつけ、結界自体を破壊する。
二つ目が、術式を解読して、解除する。
つまり開錠するか解錠するかである。ちなみに、僕の魔力では破壊出来ないので結局の所一択だ。
触って見た所、結界自体は強力な物だが、解除の為の鍵は簡易。
魔力の性質を若干変化させて、特定の波で当ててやれば……。
「よし、開いた」
「あら〜? 本当に変な子ねぇ〜」
目的のブツを回収し、ついでに台座と金属板も頂いていく。
後は撤収するのみだったのだが……。
「あら、見つかっちゃったわね」
「ん? な、何に?」
突然精霊さんが嫌な事を言い出した。それも、間延びしない言い方で。
緊張感を伴うその声に、辺りを警戒する。
強い人が言う警告はつまり……ヤバイ。
ガキンッガキンッと金属音が地底湖の壁を反響する。
水を割り裂いて唯一の脱出路に現れたのは超巨大な蟹。
金属光沢を放つ青い体は、僕の持つ凡ゆる攻撃手段でも傷一つ与えられないだろう。
背に背負う色とりどりの結晶柱は夜の星々の様に輝き、膨大な量の魔力が常に発散されている。
鋏は馬鹿みたいに巨大で、右は斬属性の魔力を帯びた鋭く鋭利な鋏。左は鈍器の様に重そうで、打属性の魔力を常に纏わせている。
口から何気なく吐き出している泡には、魔力抵抗の低い僕など一瞬で溶かしてしまう程の強力な酸属性魔力が込められており、出力的に僕の魔法妨害はまるで意味を成さないだろう。
結論から言うと、今度こそ本当にピンチだ。
先ず甲殻。
単純な硬さだけでなく、背中に背負う結晶柱から膨大な量の魔力が流れ込んでおり、あまりにも強靭に過ぎる魔力の壁が出来ている。
続いて鋏、右の鋏に掛かれば鉄もこんにゃくも一刀両断間違い無し。左の鋏に掛かれば、隕石の衝突とまでは言わないがそれに近い惨状を生み出す事だろう。
つまり、レイーニャとティアの二人がいても先ず以って
ゴクリッと喉が鳴り、冷や汗が頰を伝う。
蟹は物言わぬ瞳で僕等を見つめ——
——攻撃を開始した。
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