第2話 地下水路へ
朝、何だか嫌な夢を見た気がしたが、まぁ気の所為だろう。
ともあれ、アヤと一緒にいつも通りの雑事を済ませ、今日も昼と夜のご飯を作っておく。
妹組は今日は西の森に進むらしい、彼女等は一定量強いので特に心配はしていない。
最後にタクメールを確認する。
それによると、昨日一晩のうちに、北と西の森に入ったプレイヤーは潰走。
霧の森に入ったプレイヤーは死亡時、光の巨人に襲われたとかなんとか。
南の穀倉地帯を進んで行ったプレイヤーは遠目に街を確認するも、畑に踏み入った瞬間
それ等の理由は何と無く分かる、取り敢えずログインしよう。
◇◇◇
目が覚めたら図書館のと同じ天井が見えた、いつも独占している爺様のベットではないらしい。
「ふふふ」
「?」
声がする方へ視線を向けると、ティアがいた。僕に添い寝してじーっと顔を見つめてくる。
「おはよう」
「うむ、おはよう」
あの後、帰ってこない僕を探しに図書館に来たが、連れて帰る時間でも無いので、前にティアが使っていたらしい客間の様な場所に連れて来て寝たんだとか。
それで良いのか王女。
客間から出る、どうやら図書館にいくつかある扉の一つの中だった模様。
今度からここでログアウトしよう。
ティアは何か用事があるとかでさっさと何処かに行ってしまった、地下水路ではありません様にと祈りつつ、僕も移動を始める。
歩みを進めながら昨日の調査で分かった事をおさらいする。
先ず北の森だが、北の森は南北にかなり長い森の様だ。
主な生息魔物は、ウルルと同じウルフとその上位種のワイルドウルフ、更に上のワイルドウルフリーダー。
それからワイルドラビットとホーンラビット。ワイルドボア、ワイルドスネーク、ワイルドディアー、ワイルドフォックス、等々。
最も恐るべき魔物は北西の森に住むワイルドベアー、高い生命力と豪腕による攻撃力、強靭な筋肉と毛皮に守られた体は、並みの攻撃では傷一つ付かない。
また、海岸沿いに北東へ進むと、港町があるらしい。
西の森は、南西と北西が妖精の森となっていて人が入る事は禁止されている。
唯一進める中央は、しばらく進むと遺跡があり、大きな門が一つあるだけ。
主に生息している魔物は、スライム種とゴブリン種らしい。
南は、南西が妖精の森、南東がワイルドドックの森、中央はずっと進むと鉱山都市があり、王都から鉱山までは畑が続いている。
畑に入ってカカシに襲われた、と言うのは、ガードスケアクロウと言うゴーレムに襲われたのだろう。大方、畑の野菜を盗ろうとしたとかそんな所か。
東は、北東を進むと港町が、東南東の長い道を進むと崖の上の遺跡に辿り着けるらしい。
東に真っ直ぐ進み海を越えると小島群があり、更にそこを越えて進むと別の大陸がある様だ。船を作れば行けるかな?
取り敢えず王都周辺はこんな所だろう。
僕が向かっている場所とは、地下水路である。
昨日調べた情報の中には地下水路に関する事もあった。まだまだ地下水路には秘密があるらしい。
今回はそれを調査するのが目的である。
◇
暗い水路内を進む、今の僕達を的確に表現すると、捕食中のスライム。または、スライムに捕食される者達。である。
具体的には……僕は今、紫色のスライムの中に浮いている。
頭だけは出ているが、その頭にも普通のスライムが乗っている。
更に紫色のスライムの中には、チビうさーずとうさの7うさが頭だけ出したままスライムの表面を泳ぎ回っている。
プチゴーレムさんは、スライムの中に全身を浸からせて手をジタバタさせている。
そしてそれらを先導しているのが銀毛の狼ことウルル。
大きくなったのでデカスラさん的に定員オーバーなのだ。
ウルルに試しに悪臭耐性のスキル結晶を使って見た所、取得が可能だった。
そのお陰で、酷い匂いのする地下水路の中でも、多少敵の位置がわかる様になったらしい、飽くまでも多少だけれども、無いよりは良いだろう。
ついでに夜目と消臭、気配察知に索敵に隠密のスキルも取得させておいた。
そんな訳でのろのろと地下を進んで行く。
時折襲い掛かってくる敵は、大体がデカスラさんに捕まって、痺れ毒で動けなくされてから窒息死している。
ゴーストやスカベンジャースライムはデカスラさんに吸収されて、核と魔石だけが残る。
完璧な布陣だ。
上下左右何処から襲い掛かって来ようと僕と七うさとプチゴーレムさんは無傷である。
このままログアウトしても問題ないくらいの安定感。
ログアウト出来ない理由は、素材の回収が今のところ僕にしか出来ないから。
……まぁ、インベントリのスキル結晶が使えるかは試して無いので何とも言えないが。
それと、一度も遭遇していないが、地下水路にはビックスラッグの上位種、ヒュージスラッグが出てくる。
これは、物凄くでかいナメクジらしい。出会いたくない。
万が一出会った場合は、デカスラさんから離脱して、デカスラさんの全身を使って倒して貰う積もりだ。
願わくばデカスラさんが倒せるくらいの強さと大きさである事を祈る。
そんなこんなで進む事しばらく、目的地に到着した。
地下水路の終点——
——浄化場である。
僕は、そこにいた人に声を掛ける。
「こんにちはー」
「あら〜? こんな所に子供が来るなんて珍しいわねぇ〜、それに……ちょっと変な子ね」
この水色髪で薄着の美女こそが、王都の下水を浄化する水の精霊、ウンディーネである。
なんでもこの下水道は遥か昔のマレビトの技術を使って建設したらしく、その折に強力な水の精霊さんに浄化を頼んだらしい。
「地下に行きたいんだけど」
「あら〜、危険よ〜?」
「行っても良いの?」
「う〜ん、行くなら妹と一緒に行ってね〜?」
「うん、じゃあ行く」
僕がそう答えると、精霊さんは通路の奥に声を掛けた、やってきたのは、精霊さんを一回り幼くした様な美少女。
何やら僕に聞こえない話をした後、幼精霊さんが声を掛けてきた。
「それじゃあ付いてきてねぇ〜」
「うん」
ほぼ同じ顔に同じ喋り方、不思議だ。
スライム進行に合わせて進んでくれる精霊さん。
しばらく進むと、扉の前で止まった。その扉、よく見ると魔力を宿している。
幼精霊さんが魔力を込めると、扉が自動的に開いた。結界か何かだろうか?
先にあった長い階段を降りる。
王都の地下にある、広大な地下水路、その更に下には、巨大な空間があるのだ。
上と同じ様な扉を開く、その先にあった物は——
? 品質? レア度? 耐久力?
備考:?
——超巨大な魔力の結晶。
鑑定では何も分からない、謎の構造物だ。
下が水で満たされたドーム状の空間の中、中央に聳え立つ巨大な結晶は、余剰魔力で淡く発光している。
その結晶の周りを色とりどりの小さな光が舞い踊り、幻想的な雰囲気である。
良く周りを見回してみるとわかるが、多数の魔法陣や魔法文字が刻まれていて、結晶へ魔力が送られている。
王都の下には巨大な魔法陣があり、それが王都内の余剰魔力を吸収しているのだ。
更にその魔法陣の下にも大量の魔法陣があり、この部屋に魔力を送っている。
精霊達も、ただで雇われている訳ではなく、この結晶から出る余剰分の魔力と少しの欠片を貰って働いている訳だ。
更に、この部屋を出ると、其処には広大な地底湖があり、其処は妖精の森の奥にある泉に繋がっているらしい。
結晶の周囲にいる小さな精霊達は、妖精の森からやってきている訳である。
王都が何者かに攻められた時、王都全体を覆う様に結界魔法が発動するらしく、この巨大な結晶はその時の為の燃料貯蔵庫なのだとか。
ただし、僕の目的はこれではない。
僕は綺麗な光景に後ろ髪引かれる思いで、部屋から外に出た。
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