第17話 北の草原にて
狩りを始めてしばらく、それなりの時間続けているが兎の出現頻度は前日に比べてかなり低い。
その代わりと言っては何だが、草原を見回してみると、それなりの数の壊れた武器が落ちていた。
壊れた鉄の剣 品質F レア度2 耐久力E
備考:純度の低い鉄で作られた剣。半ばから折れ、錆び付いている。
壊れた鉄の槍 品質F レア度2 耐久力E
備考:純度の低い鉄で作られた槍。先端が折れ、曲がってしまっている。
壊れた鉄の鎚 品質F レア度2 耐久力D
備考:純度の低い鉄で作られた槌。割れてしまっている。
壊れた鉄の斧 品質F レア度2 耐久力D
備考:純度の低い鉄で作られた斧。
壊れた杖 品質F レア度1 耐久力F
備考:若い樹木で作られた杖。半ばから折れてしまっている。
鉄の矢 品質C レア度2 耐久力E
備考:
壊れた鉄の矢 品質E レア度2 耐久力F
備考:
なかなかの豊作……いや、これだと言い方が悪人か。
数はそれなりに転がっている、北の草原だけでこれなのだから全ての草原を回ったら結構な数になるだろう。
インベントリが有れば回収しているだろうし、インベントリのスキル結晶は皆持っていないのだろう。
ここまで3人の戦い方を観察していたが、皆結構な練度である。
アヤは、元の活発さが現れてか高機動力で走り回り、隙を突いては体重を乗せた一撃を叩き込んでいる。
身長と体重から極めて合理的な戦法だ。
アランの方は、フライパンで叩いたり防いだりは当然の事、包丁では、あろう事か生きたままの兎を戦いながら解体していた。怖い。
基本は首狩りだが突っ込んでくる奴には屠腹を迫る。怖い。
ティアに至っては、ちょっと話にならない。
両手に持つ巨剣を軽く振り回し、来る敵来る敵叩き潰して、それは
この戦い様からみるに、やはり、生態系が存在し、魔物の数は有限である。と考えるのが妥当だろう。
このまま行くと、このだだっ広い草原の全てのリソースがプレイヤーに食い潰されてしまう。
それというのも、草原から外に出る事が出来ないのがいけないのだ。
タクからの情報メールによると、草原や浜からその先に行こうとすると、不可視の壁に行く手を塞がれてしまうのだとか。入れるのは南の草原のワイルドドックの森だけ。
その結果、ほぼ全てのプレイヤーが草原での狩りを続けているという事だ。
その原因を調べるのが今回の目的の1つである。
今回草原に来た理由は、大雑把に言えばアヤと遊ぶのと共にティアの食後の運動。僕の性能試しとアランの食材集め。それから鉄屑拾いと草原の先に行く為のヒント探し。
アヤがキャッキャするのを横目に鉄屑と食材を集め、ティアが運動と言う名の虐殺をしている隣で僕も動きを確かめ、あわよくば草原を超える方法を探って行く。
要するに、注意深く周りの様子を見つつ、いつも通り狩りをするだけである。
「ところで君、さっきから折れた剣やら曲がった槍やらを拾っているけど、それは何に使うんだ?」
「まぁ、色々とね」
飽くまでもこの行動は図書館の資料と、市場や戦場を見た上での推測による対策行動であり、確実性に欠けるので誰かに言う様な事ではない。
◇
「全然でてこねーな」
つい今しがた狩った兎を解体しながらアランは困った様に呟いた。
て言うかアラン、普通に解体出来てるんだよね。
「仕方ないんじゃないかな? 一気に数を減らしたみたいだし」
「うむ、
成る程、プレイヤーは通れなくても魔物なら森へ行けるのか、確かに道理だ。
「おにぇちゃーん、こっちにも有ったよ〜」
茂みの中からさっと立ち上がったアヤ、折れた剣を掲げ持っている。
犬みたいで可愛い。
「ああ、ありがと——」
アヤの方へ一歩踏み出した時、ふと、耳がその音を拾った。
何か小さな物が高速で接近して来ている。
その狙いは——
——僕
「ゃ!!」
「ブッ!?」
足を狙って飛び込んで来たそれを、僕は
くるくると縦回転するそれはアランの方へと飛んで行く。
「おっと」
「ブム!??」
アランはそれをフライパンをフルスイングする事で弾き飛ばした。
錐揉み回転するそれはまっすぐアヤの方へと飛んで行き。
「やぁ!!」
「ブミュ!!???」
アヤは持っていた壊れた鉄剣でそれを叩き落とした。
土煙を上げて転がって行った先は……不憫な……。
「えい」
「ぐぎゅ」
憐れ、唐突に襲い掛かって来た小さな襲撃者はピンボールの様に弾き飛ばされ、ギロチンで叩き潰され最期の時を迎えた。
「何だったんだ?」
「びっくりしたよぅ」
二人は表面上は平静を装っている物の、気が付いているのだろう。
今の敵と正面から戦った場合——
——僅かに負ける可能性があった事に。
ほぼ完全な奇襲だった、単純に音が少なく、物凄く速かったからだ。
僕の身内であれに対処できるのはタクかチサトくらいの物だ、次点でアヤとユリ、アランは出来るかな?
重要なのはそのスピードや隠密性だけでなく、耐久力もだろう。
僕の蹴りは効いた様子だったが、それは頭に当たったから。敵のスピードと僕の蹴り上げがうまく噛み合った結果に過ぎない。
それに対してアランとアヤは、不完全な状況とは言え、兎くらいなら確実に狩れる威力で振るわれた攻撃だった。
アヤなら折れた剣でも斬れただろうし、アランならあれで首の骨が砕けていても不思議じゃ無い。
それが、ティアの目の前に転がりでた時点では、見た目に大きなダメージは無かった。
僕ならば削り切れるが、他の子では正面からやり合えば狩りきる前に狩られた事だろう。
ティアが潰したそれは、兎、ただし額に角が生えた少し大きな兎だ。
「ティア、ありがとう」
「いや、構わない。ユキ達がうまく私の前に転がしてくれたから出来た事だ」
「ふふ、そう言う事にしておくよ」
事実、ティアならば容易く対応出来ただろうし、この兎くらいの攻撃が、その全身鎧を貫ける様にも思えない。
「アラン、アヤ、ティア、この兎、僕が貰って良いかな?」
「俺なら構わないぞ」
「私も特に必要無いからな」
「おにぇちゃんが欲しいなら良いよ?」
僕の人生会う人会う人優しくて良いね。
その後は日も落ちて真っ暗になって来たのでお開きとなる。
僕達の取り分の肉は、その殆どをアランに売却、壊れた武器類は全て僕が貰った。
僕はアヤ達と別れると図書館に向かおうとしたが、ティアに手を掴まれ、結局王城に連れてかれてしまった。
本が読みたいんだけど……。
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