第16話 狩り前の一時

 



「イテテ! テメェ! ッッ!?」

「何しやがるこの野郎!」

「やんのかゴラァ!」

「あ゛あ゛? やんのか?」

「「「ひぃ!?」」」



 似非イケメンの3人は凄まれると悲鳴を上げて後ずさった……うん……なんかちょっと……魔力が動いた感じがしたぞ。



「カタギの顔じゃ無いね、アラン」

「こちとら密林仕込みでな」



 似非イケメン達は、最初に締め上げられたやつ以外が顔を真っ赤にしている。



「テメェこの野郎! ぶっ殺してやる!」

「3対1で勝てると思うなよ!」



 そう叫んだ二人、こいつらの目は節穴だろうか? 3対1ではなく3対4な上に、仲間1人は顔を真っ青にしてるんだが。


 更に付け足すと此処は門の前、ティアが手で制しているが、門番の二人に捕まれば相応のペナルティーがあるだろう。


 即ち、今の戦力は2対6である。



 似非イケメン1が突っ込んで来たのをアランは軽く背負い投げをして地面に叩きつける。

 それと同時に、鑑定を発動した状態の視界では、攻撃を仕掛けた方の男の名前がオレンジ色になるのが見えた。


 ……これがタクメールに聞く犯罪プレイヤーの表示か。やられたのに。哀れだ。


 怯んで剣を抜いた似非イケメン2には、何の容赦もなく顔面を殴り肝臓に蹴りをかまし、そりゃもうボコボコにしている。


 此方は攻撃を仕掛けていないがどちらもオレンジにはなっていない。判定は一体どうなってるんだろうか?


 そんな中、投げられた似非イケメン1は似非イケメン2がボコボコにされているのを見て、慌てて剣を抜き僕の方へと走って来た。



「へへ」



 引き攣った様なにやけ面から魂胆が見え見えである、僕を人質にとるつもりなのだろうが、ゲームの中でそれをして何になると言うのか。


 勿論捕まってやるつもりは無い。


 此処は武器を抜かなかったアランに合わせて対処しよう。僕の方に来たのが運の尽きだ。


 僕の首元を狙って来た手を、しゃがんで避ける。



「へ?」



 まるで避けられる事を想像すらしていなかった様な間抜け面を晒す似非イケメンに、全身のバネを使って拳を振り上げる。



「ゴブァ!?」



 前傾して倒れこむ様になっていた似非イケメン、その顎に鋭い拳が入り、此処で僕にとっても予想外な出来事が起きた。


 何と似非イケメン1が、軽く宙へ飛んだのだ。


 僕の腕力では、横に吹き飛ばす事が出来ても縦に吹き飛ばす事は出来なかった筈。

 それが全身の力を使ったとは言え、こんなに飛ぶのは想定外だ。


 ……レベル上がったからかな? 思えば体の鈍さは無くなってるし、リアルよりも疲労が少なくなっていた様に思う。



「おぉ、ユキ、やるじゃねーか」

「いや、うんそうだね」



 アランの言葉に歯切れ悪く返答すると、残る一人に目を向けた。すると——



「すみませんでしたぁー!」



 ——既に土下座していた。



「……だとよ?」



 それを見てアランが呆れた様に声を掛けて来た、だが、僕は特に何かされた訳でも無いので問題無い。



「まぁ、僕は気にして無いよ、アヤは?」

「……おにぇちゃんが大丈夫なら良い」

「そうかい」



 そう言うとアランは僕達にニッと下手な笑顔を見せた。そのまま似非イケメンに向き直り。



「そう言うこった、其処の馬鹿二人連れてとっとと帰んな」

「は、はい!」



 ぶっ倒れている二人を抱えると、その似非イケメンは走って何処かへ消えて行った。


 まぁ、犯罪者になっても時間経過か数回死亡する事で治るらしいし、悲観しないでゲームを楽しんで欲しい。


 アランへ視線を向ける。



「アラン、助かったよ」

「はは、ユキなら俺がいなくてもどうとでも出来たんじゃ無いか?」

「そう思う?」

「そうだろうよ」



 おどけた様にそう言うアラン、確かに出来ただろうけど、面倒だったからね。



「そんな事より、あー……ユキ?」

「ユキ、失礼だが、その武人を紹介してはくれないか? 話に入れないのはつまらない」

「そうだね、こっちの金髪のがティア、それとこっちの赤い髪のが僕の妹のアヤ。アヤ、ティア、彼はアラン信用出来るよ? 多分」



 紹介を求められたので適当に返しておく、アランもティアも接していて気持ちの良い人なので、適当でも直ぐに仲良くなれるだろう。


 アヤは言わずもがなだ。少し人見知りの気があるけどね。



「ご紹介に預かった、多分信用出来るアランだ。宜しくな、ティアさん、アヤちゃん」

「ああ、此方こそ宜しく頼む、アラン殿」

「うん、宜しく、アランさん」



 挨拶が済み、ティアが衛兵にジェスチャーで問題無い旨を伝えた所で、アランが後頭部を掻きながら問うて来た。



「ところでユキ、その格好は一体……」

「ん? ……あぁ、ただのメイド服だよ」

「おにぇちゃんがおねぇちゃん過ぎて、もう……もう!」



 アランの疑問に適当に応えると、待ってましたと言わんばかりにアヤが飛びついて来た。



「ただのメイド服ってお前なぁ」

「うむ、そうだぞユキ。……それはただのメイド服ではない、私のと同じで遥か過去の遺物、魔法鎧マジックアーマーだ」

「あれ? そうなの?」




服 品質? レア度? 耐久力?

備考:?




 そうみたい。



「そりゃ良いや、で、どの様な効果が?」

「分からん」

「……そう、まぁ良いか」



 分からないのなら仕方ない。心なしか体が軽い様な気がするし、もしかしたら似非イケメンが僕の一撃で飛んでったのはこの服の効果かもしれない。


 少なくとも旅人風の服よりはましだろう。


 そして僕にはそう言った関連の物に対する羞恥心が無い。何せ僕はどんな格好をしても似合う。


 恥ずべき点が無いのだ。



 それはともかくとして。



「アラン、この後は狩りかな?」

「あ、ああ、肉の補充にな。そう言えばユキ、あの肉、結局何だったんだ? 鑑定しても情報が出なくてな」

「うん、わかる様になったら教えるよ」

「いやいや、それじゃああまり意味ないんだけど」

「あの肉はどうなったの?」

「ああ、あの後取り敢えず食ってたら買いたいって奴がいっぱいいてな、安めの価格設定で完売したけど」

「そうなんだ、アランは悪人だねぇ」

「は?」



 ゴキ肉を売り捌くなんて、大罪人だ。



「後でいっぱいあげるよ」

「え? ああ、え?」

「ふふふ」

「う……」

「ん?」



 アランのあたふたした姿が可笑しくてついつい笑みを浮かべてしまう。するとアランが何故か呻き声を上げ視線を逸らしてしまった。どうした?



「おにぇちゃん、可愛い過ぎだよぅ〜!」



 突然、アヤが僕に飛びついて来た、何のことは無い、いつもの事である。それよりもしかして……。



「……もしかしてアラン」

「な、何だよ」

「僕に見惚れた?」

「……はっ、んなわけねーだろ」



 その間は何だろうね、武士の情けで見逃してあげるけどね。



「ふーん、まぁ僕の見た目は超絶美少女だから見惚れるのも仕方ないけど」

「違うからな、ありえないぞ、だってユキは男だ」



 自分に言い聞かせる様に呟くアラン。



「美しい物に見惚れるのは仕方ない事だよ、そうは思わないか? ティア」

「うむ、私の侍女は美しくて可愛いらしいぞ」

「なぁ、アヤ」

「おねぇちゃん可愛い、おねぇちゃん!」

「そうだろう? アラン」

「流石に流されないからな」

「そりゃ良かった」



 僕にもそんな趣味は無い。





 そんなこんなで、ティア、アヤ、アランとパーティーを組んで狩りだ、一応礼儀としてウルル達は召喚していない。親しき仲にもと言う奴だ。



 アランは草原に出ると、おもむろにフライパンと包丁を取り出した。


 成る程確かに、包丁は割と殺傷能力がある、フライパンは盾としても鈍器としても使える良品である。


 詰まる所、アランには何の問題も無い。



 ティアはどんな武器を使うのだろうか、と振り返ってみると。そこには真っ白な全身鎧フルプレートアーマーに身を包み、僕の身長より少し小さいくらいの肉厚な巨剣を二本背負った化け物がいた。


 総重量は計り知れない。



「ティア?」

「ぬ? どうしたんだ? 皆」

「……何でも無いよ」

「ああ、何でも……無いか?」

「おねぇちゃんが何でも無いなら……」

「変な顔をして、君達、ちょっとおかしいぞ? 何か困った事があるなら言ってくれ、そ、その……友達だからな!」



 うん、おかしいのは……いや良いや。嬉しそうだし。



「それじゃあ、狩り、行ってみようか」



 そう声を掛けると、それぞれの返事を返してくれた。


 いっぱい出て来てくれると良いんだけど……。



 そういえば、パーティーを組んだ筈のアラン達が、レギオンにも入ってたんだよね。解釈の上では上位互換という事になるのかな?



 

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