第14話 錬金術の秘奥
爺様は図書館の大机の前で本を読んでいた。
「爺様、用事終わったよ」
「おお、ユキ、早かったの」
そう言うと爺様は持っていた本をパッと消し、その代わりに机の上に色々な道具を取り出した。
「さて、ユキ、これをやろう」
「……これ、本とペン?」
爺様が最後に取り出したのが何の変哲も無さそうな本とペンであった。
本 品質? レア度? 耐久力?
備考:?
ペン 品質? レア度? 耐久力?
備考:?
——前言撤回、何の変哲もある本とペンだ。
「その本は魔力でページが追加される本、ペンは魔力で書けるインク要らずのペンじゃ」
中々良い物を貰った。
「ではユキ、よーくみておるんじゃぞ」
爺様は僕にそう声を掛けると、何やら様々な紋様が描かれた布の上に、水の入った平皿と正八面体の結晶、丸い石を置いた。
良くみろと言うご要望に応えて良く見てみる事にする。
スライムの核 品質A レア度2 耐久力C
備考:多分に魔力を含んだ綺麗なスライムの核。
魔石 品質A レア度2 耐久力C
備考:多分に魔力を含んだ魔石。
魔力水 品質A レア度2 耐久力F
備考:魔力が溶け込んだ水。
布 品質? レア度? 耐久力?
備考:?
布は分からないけど、他の材料は良く分かる。
スライムはプチスライムの上位種だろう。
魔石は大量に魔力を含んでいる。
魔力水も魔力を含んだ水の事だろう。
「さて、ユキ、これから見せるのは錬金術の秘奥。お主がいずれ辿り着く領域よ」
あの本の時と同様に、爺様は真面目な声音でそう言った。
「良く見ておれ『
爺様がそう唱えると、爺様と魔石から魔力が溢れ出し、カッと光り輝いた。
魔力の光が晴れるとそこには——
——1匹のスライムがいた。
「どうじゃ? 分かったかの?」
僕はコクリと頷いた。
「他にもこう言う事が出来る」
爺様はそう言うと、兎の素材を取り出した。
毛皮に肉、骨に爪や歯、それから兎の魔石と血の入った平皿。
それらのバラされた兎を布の上に置くと、最後に魔力が大量に含まれた魔石を置いた。
「『
光が溢れ、それが収まると現れたのは1匹の兎。
更に爺様は今度は土を取り出した、その土の上に魔石を置いて
「『
光が瞬き、そこには小さなゴーレムが……!
「どうじゃ? ユキ」
——面白いじゃろ
子供の様な笑顔でそう行った爺様に僕はコクリと頷いた。
◇
僕は今、爺様に貰ったクロスを抱えて錬金術のレベル上げをしている。
ちなみにウルルはスライムと兎とゴーレムの3匹に加えて兎ちゃん6匹の計10匹で戯れている。
くだんの3匹は爺様がクロスごとくれた。
テイムを済ませ、本に登録されている。
爺様に貰った本は、錬金術のレシピを書くのに利用させて貰う事にした。爺様もそのつもりだったのだろう。
ほっほっほと笑うと爺様はまた何処かに行ってしまった。
スキルレベリングの為に魔力が切れるまで錬金術の変換を使用した所、法則性の様な物が見えて来た様な気がする。
ビックコックローチの甲殻×10=グレーターコックローチの甲殻
グレーターコックローチの甲殻=ビックコックローチの甲殻×5
ビックバットの牙×10=グレーターバットの牙
グレーターバットの牙=ビックバットの牙×5
プチレッサースライムの核×10=プチスライムの核
プチスライムの核×10=スライムの核
スライムの核×10=ビックスライムの核
ビックスライムの核=スライムの核×5
スカベンジャースライムの核=スライムの核×5
スライムの核=プチスライムの核×5
プチスライムの核=レッサープチスライムの核×5
どうも、変換で出来る物は、その素材の品質による所があるらしい。
例えばプチスライムの核は、完全な状態の物を下位変換するとレッサープチスライムの核が5つ出来る。
半分に欠けている物だと1つ、4分の1だと変換できず、半分の物を2つだと3つ出来た。
この事から、変換には別途代価が必要である。
魔力が回復するまでの間は様々な本を読んで過ごした。
古い書物によると、今朝倒した超巨大ゴキブリは状況から見てマザーコックローチ。或いはクイーンコックローチだろう。
大きさだけに注目したらギガントコックローチと言う線もあるが、何せ卵が……いや何でもない。
文献によると、こう言った巨大な虫系魔物の氾濫は度々起こっていたらしい。
今回の一件はクイーンコックローチによる物で、この魔物は主に人間や亜人の街が一定まで発展した時に現れるとか。
もっと具体的に言うと下水道が出来た上で、その下水道をしっかりと管理しないでいると発生するのだろう。
つまりクイーンコックローチを倒すだけでは問題の根本的な解決にはならないという事になる。
国に事の顛末を報告し兵士を定期的に派遣して貰うのが一番良いのだろうけど、彼の災厄が起きてからそれ程時間が経っていない今、何処も兵士が不足していると言う。
アランの料理屋にやたらとNPCが並んでいたのは、この国の食糧事情による所が多い。
文献によると、マレビトは最初から一般人に比べて高い戦闘力を保有している。
それはつまり、戦闘を生業にする連中以外は兎を狩るのにも一苦労と言う訳だ。
そんな中でリアルの感覚から値段を設定したアランの料理屋は馬鹿売れ。
初日や二日目こそNPCが少し来る程度だったし、今日は朝からプレイヤーが買い込んで行ったが、おそらく明日からはNPCが
こうして例の黒い肉はこの国の民の血となり肉となり……これはテロ?
ともあれ、この国の兵力の殆どは、災厄以来広がり続ける魔境の進行を少しでも緩める為にその力を割いている。
後は深刻な食糧事情を少しでも改善する為に農地を広げ、農民を魔物から守る為に兵を派遣し、民の不安から来る犯罪の増加を抑える為に巡回を増やし。
と、まぁ、余裕が無い。
そんな中で神によるマレビトの招来は正に天の恵みと言えるだろう。
「なぁ、君」
しかし、このゲームは上手く出来ている物だと思う、この蔵書量に然り、生き物の生態に然り、人の心にもまた然り。
風が吹けば匂いを運び、刃を肌に突き立てては血が流れる。
これが果たして人の手で成せる偉業だろうか?
「おーい、聞こえてるか?」
これは本当に
「聞こえてないのか? ……えいっ!」
「ふみゅ、んえ?」
頬をつつかれて本から目を上げると、そこには金髪碧眼の美少女がいた。
天窓から差し込む光が彼女を照らし、その長い髪が光を反射する。
年の頃は12くらいだろうか? 見た目の幼さに似合わない理知的な顔付きがこの国の切羽詰まった情勢を表している様に見える。
「ああ、絵本ならあっちの棚ふも」
「だ! れ! が! 小娘か!! 私はこれでも15になる、成人だっ!」
「そうなの、小さいからめふ」
「君、年下の癖に生意気……いや……すまない、君もなりたくてそうなった訳では無いだろうにな……」
僕の頰を突いたり引っ張ったりする少女は怒ったり悲しげに眉を下げたりと忙しい。
というかこの子、昨日すれ違った子だね。
「何か勘違いをしている様だけど——」
「いや、皆まで言わなくてもよい、賢者様が此処に君を置いているなら私も信用出来る。どうだろう、私付きの侍女にならないか?」
「いや、あの——」
「心配はいらない、侍女と言うのは建前だ。そもそも私は自分の事ぐらい自分で出来る、君は私の側に居るだけで良い」
「あ——」
「賢者様には私から言っておこう、給金も私のお小遣いから出すし君の部屋も用意する、だから——」
「何やってるニャ?」
何やら必死に訴え掛けてくる少女に言葉を挟めず困っていると、そこへ図書館の奥からレイーニャがやって来た。
「あ、レイ——」
「ああ、猫の賢者様、ちょうど良かった、賢者様に伝えて置いてくれないか? この
「ニャ? 本当に何言ってるニャ?」
「では失礼するよ、今すぐにでもこの娘に可能な限り幸福になって貰いたいから……さぁ行こう、おっと、そう言えば名乗って居なかったかな」
僕の手を引き、そのまま何処かに連れて行こうとする少女。
彼女はその碧眼でしっかりと僕を見据え——
「私の名前はエスティア。ルベリオン王家が三番目の姫、エスティア・ルベリオン。君の名前を教えてくれないか?」
——どうやら王族らしい。
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