第12話 地下水路の悪夢 ※挿絵あり

 



 その後の水路にはビッグコックローチしか出なかった、数も一匹から最大で五匹。

 特に危険もなく進んだ。


 途中、レイーニャにユキも戦ってみるニャ、と言われ、渋々戦う事に。



 カサカサとこちらへ向かって来るビッグコックローチへ、一撃必殺の想いを込めたナイフの投擲をする。



 そのナイフは今までで一番のキレの良さで、狙い違わずゴキブリの頭に当たり、深々と突き刺さった。



 よし! と思ったのも束の間。

 ゴキブリはカサカサと進撃を止めず、こちらへ向かって来るでは無いか!



 僕はインベントリから小石兵の死体を取り出すと一抱えもある岩を渾身の力で持ち上げ、巨大ゴキブリに投げ付けた。


 グシャっと音を立てて体液を飛び散らせ潰れたビッグコックローチ。

 僕は無言でビッグコックローチとその体液が付着した小石兵にナイフを突き立てた。



小石兵の魔石 品質C レア度2 耐久力C

備考:小さく魔力量が少ない魔石。小魔石。



 ああ、ドロップのスキルは思考でも発動出来るらしい。



「ユキって案外怪力ニャ」

「僕も驚いてる所だよ」



 うん、火事場の馬鹿力かな。


 ……いや、レベルが上がったからかな?





 そんなこんなで薄暗い水路を進んでいると、水路の横に不自然な穴が空いているのが見えた。


 今までの水路の様に整備された様子が無い、土が剥き出しのその穴。



 僕とレイーニャ、そして猫ちゃん達は、その穴から中を覗き見た。



「……嘘」

「……これは……やっばいニャ」

「……クゥーン」



 それはかなり長い岩の通路、その先には大きな空洞があり。そして——




? LV?




 ——今までのゴキブリとは比較にならない程の巨大ゴキブリと目があった。



 怖気が背筋を駆け抜ける。


 それは嫌悪感からだけではなく、その巨大ゴキブリから感じる威圧感故。



 ただの猫ちゃん達は毛を逆立て、レイーニャですらビクリと震えた程だ。



 ここからだとゴキブリの体に隠れて良く見えないが、空洞の壁は一部ぬらぬらと湿っており、かなり凹凸が激しい様だ。


 鍾乳洞だろうか? 



「レイーニャ、どうする?」

「流石にあれを放置すれば王都の危機にニャるニャ」

「倒すの?」

「……時間も無いみたいだし……やるしかニャいニャ」

「どうやって?」



 何ともなく感じる威圧感から、あれは僕とは比べるのもおこがましい程の力の差があるだろう。



「ニャー……あの巨体ニャらこっちには来れニャいニャ、ここからニャーの一番強い魔法で一撃で倒すニャ」



 そう言うとレイーニャは僕達に下がっている様に言いつける。



 何処からか取り出された石版、その石版いっぱいに、黄色の魔法陣が描かれている。



 レイーニャの手には、いつも使っている木の杖ではなく、黄色の石が取り付けられた杖が握られていた。



 レイーニャは石版の上に乗り、詠唱を始める。



 魔法陣が光りだし、杖の宝石も黄色の輝きを放つ。そして——




「疾く、いかずちよ、偉大なる自然の徒よ、我が魔力を持って顕現し、この大地に知らしめよ!『大雷撃アークサンダーボルト』!!」




 一瞬の出来事だった、レイーニャの放った白い雷は瞬きの瞬間に通路を駆け抜け。


 それに反応して・・・・防御行動を取った巨大ゴキブリの魔法の壁と硬い甲殻を貫いた。



 僕が知覚出来たのは雷が光った軌跡と耳をつんざく様な轟音、そして霧散する魔力の壁。



《レベルが上がりました》






 良く分からないが、自分が地面に倒れているのだけは分かった。



 瞼を開くも真っ暗で何も見えず、何の音も聞こえない。


 夜目が切れたかな?



 メニューからステータスをみる。



ユキ LV9 状態:失明 失聴 空腹


スキル

『錬金術LV3』『召喚術LV5』『解読LV10』『ルベリオン王国語LV6』『鑑定LV6』『地図LV3』『インベントリLV5』『指揮LV5』『統率LV5』『連携LV5』『求心力LV3』『ペットLV3』『従魔術LV4』『解体LV3』




 体力のバーが半減している、その上失明に失聴とは……。



 どうした物か、と思っていると、体に暖かい物が流れ込み、視覚と聴覚が戻ってきた。



「ユキ、大丈夫かニャ?」

「ああ、うん、何とか」



 周囲を見渡すと、猫ちゃん達とウルルが倒れていた、気絶している様だ。


 レイーニャは毛が一部プスプスと煙を上げていた。



「レイーニャこそ、大丈夫かい?」

「ニャ、ニャーはちょっと魔法の反動で火がついただけニャ」

「……そう、ところであの怪物は?」



 周りを見つつ問いかけた。

 レイーニャの持っている杖は黄色の石がひび割れ砕けてただの石になっている。石版も魔法陣が無くなり、バラバラに砕け散っていた。



「ニャ、如何にか倒せたみたいだニャ」



 レイーニャが杖を向けた先には、体に大きな風穴を開けて絶命している巨大ゴキブリがいた。



 通路を通過して巨大ゴキブリの前に行く。



「改めてみると本当に大きいね」

「ニャ」



 ゴキブリが大きければ、それがいる空洞も大きい。



「これも貰って良いのかい?」

「ニャ、魔石以外は特に使い道もニャいからニャー、せっかくだから全部あげるニャ」

「そっか、ありがとう」



 そう言うと僕は家よりもでかいゴキブリをインベントリにしまった。



「これで全部終わりだね、帰ろうか」

「ニャ?」



 ゴキブリの元凶も倒して、もうゴキブリは出ないだろうと思い、レイーニャに帰ろうと伝えた。


 何よりこの地下水路、ちょっとくさいのだ。ウルルも嫌がっていたし、僕も長居はしたく無い。


 だが、レイーニャは訝しげな声を上げた。



「え? まだ何かあるの?」

「にゃ、あれを放置したら意味ニャいニャ」



 そう言ってレイーニャは杖で空洞の壁を指した。

 そこにあるのは凹凸の激しい壁だけ。



「そこに何……が……!?」




 大空洞にある壁、天井、そこは全てゴツゴツとした凹凸があり、そして——



「焼却処分ニャ」




《レベルが上がりました》


《【王国クエスト】【緊急クエスト】『闇に蠢く黒い影』をクリアしました》



 【王国クエスト】【緊急クエスト】

『闇に蠢く黒い影』



参加条件

・ビッグコックローチを倒す



達成条件

・危機を脱する



失敗条件

・ビッグコックローチが地下水路から溢れ出す



達成報酬


参加者報酬

・スキルポイント3P



参加者貢献度ランダム報酬

貢献度5%ーー100%

・スキル結晶『夜目』×5

・スキル結晶『消臭』×5

・スキル結晶『悪臭耐性』×5



エクストラ評価報酬

個体名『レイーナ』との友誼

・スキルポイント10P

・スキル『念話・特殊』

・スキル『契約・特殊』



全体報酬

・地下水路への入り口の全開放

・スキル屋に新スキルの追加




◇◇◇◇◇



地下水路内で戦ったユキのラフビジュイラスト



https://kakuyomu.jp/users/Shirato_ryu/news/16818093080327814301

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