第11話 地下水路へ ※挿絵あり

 



 朝、いつも通りに、しかし1人でやる事を済ませ、ログインする準備を済ませる。


 アヤは今日の夕刻に帰ってくるので、夕食は家で食べる。つまり用意する昼食は一人分だ。




 いつ迄経っても慣れないログイン時の意識切断と強制接続。特に体や意識に不具合は無いので、問題は無いと思う。



 瞼を開くと最近では見知った天井が目に映る。


 ついでとばかりに紫水晶アメジストの瞳とも目が合う。



「起きたニャ、そろそろ起きる頃だと思ったニャ」

「ああ、一日振りだねレイーニャ」

「ユキが目を覚ましたら連れてくる様にししょーに頼まれてるニャ。くるのニャ。壺も出しとくのニャ」



 爺様が呼んでいると。

 昨日は良く分からない事になったので、出来れば何か説明をして貰いたい所だ。



 くきゅるるる〜〜。



「……お腹空いたかな」

「……しょうがニャいニャー」



 猫に養われている。





「ほっほっほ、早い目覚めじゃの、調子はどうかな?」

「どうもこうも、あれは一体何だったんだい? 後、ウルルと兎ちゃん達は何処に行ったの?」



 図書館の大机のまえ、其処には変わらず好々爺な爺様がいた。机の上には良く分からないが魔法の道具っぽい物が置かれている。



「まぁまぁ、そうくでない。ユキの友は無事じゃよ」

「まぁそう言う事なら。で、説明はして貰えるのかな?」

「うむ、先ず本を出してみなさい」



 爺様はそう言うと、机の上にあった一冊の本を手にとった。


 本を出してみろ。と? つまりあの光る本は僕が持っているという事か。


 メニューを開く、パーティーの項目の下にレギオンという項目が増えている事が気になったが、今は構っている場合では無い。


 インベントリを開くと、大量の草やら石やら木の実やらの下に『召喚と契約の魔典』と言うのがあった。直ぐに取り出す。


 手の中に出現したそれ、光る本は今は光を放っていない。



「ふむ、それじゃの、先ずは開いてみよ」



 促されるままにページを捲る。




所持者:ユキ



召喚と契約の魔典




 一ページ目にかかれている情報はこれだけである。

 捲る。



目次


1、ウルル

2、ベビーラビット

3、ベビーラビット

4、ベビーラビット

5、ベビーラビット

6、ベビーラビット

7、ベビーラビット




 ふむ、興味深い、つまりどう言うことかな?

 更に捲る。



名前:ウルル LV2 状態:


種族:ベビーウルフ亜種


スキル

『噛み付きLV2』

『嗅覚強化LV3』

『忠誠LV1』


召喚可能




 ほうほう、つまり?



「『召喚サモンウルル』」



 本が光を放ち、続いて目の前の地面に魔法陣が現れた。

 魔法陣が一際強く輝くと、其処にはウルルが。



「クゥーン」

「つまりそう言う事じゃよ」

「うん、納得」



 擦り寄ってくるウルルを撫でつつも考える。


 この本は、ウルルを召喚出来て、送還する事も出来るという事だろう。


 更に付け足すと、召喚獣以外の魔物、つまり従魔術でテイムした魔物も召喚と送還が出来ると言う事だ。


 超便利アイテムと言う事である。



「儂はこれを預かって以来、この本の研究を進めて来た、そしてそれを模倣した物が儂の持つこの本じゃ」



 爺様は持っていた本をひらひらと振ってみせる。確かに良くみるとその本はこの本に少し似ていた。



「この魔典は魔物の魂を封じる事が出来る。1頁毎に強力な魔力が秘められておっての、その力で配下を封じるのじゃ」



 爺様は変わらず好々爺顔だ、レイーニャは興味無さそうに毛繕いをしている。



「契約された魔物は死ぬ事が無い。器が滅びようとも魂はこの魔典に保護されておる、万が一死なせてしまっても時間をかければ蘇るのじゃ」



 成る程、それは強力だ。


 それがあるだけで召喚術や従魔術の不遇さが大きく緩和される。


 召喚獣は自分より弱い者しか召喚されないし、テイムは自分より弱い者しか従える事が出来ない。

 だから召喚獣やテイムされた魔物は弱いし死にやすい。


 ところがこの魔典があれば、万が一死んでも復活し、時間をかけて配下を育てる事が出来る。



「この本のページは魔力が溜まる毎に増えていく、精進せよユキ」





「話は終わったニャ? そしたらついてくるニャ、ユキ」



 爺様の話が一区切りつくとレイーニャが話しかけてきた。



「ついてくるって何処へ?」

「虫退治ニャー!」

「えーと、爺様?」



 レイーニャが良く分からないので爺様に助けを求める。



 ニコニコ微笑む爺様の話によると、ここしばらく夜の王都で食料が無くなる事件が起きているのだとか。


 レイーニャがそれを調べ始めたのはつい昨日の事で、レイーニャの身内の猫が行方不明になったから。


 レイーニャ自身猫は気紛れだと思っているし、一匹くらいいなくなった所で、多少は悼む気持ちはあるが、特に思う所は無いらしい。


 しかし、王都の猫の殆どはレイーニャの目となり耳となり活動している為、何の情報も無しに突然いなくなるのは奇妙なのだとか。



 そして一日、猫の大群を率いて朝は暗がりを探し、夜は王都一帯を調査してみたら。

 配下がでかい虫に襲われている現場に出くわした。



 レイーニャはその虫を適度に痛め付け、逃走を始めた虫を追い掛けた。


 その虫は、廃墟街——僕が一番最初に目を覚ました場所——に逃げ、地下水路へと潜って行った。



 つまりこう言う事である。


 仲間の危機に立ち上がったツンデレイーニャが遂に仇敵を発見、その本拠地と思わしき場所を見つけ出し、爺様に報告した。


 爺様は僕に修行をつける為、レイーニャ率いる虫討伐軍に加わらせて、地下水路へと進撃させる。



 ちなみにタクのメールから。今のプレイヤーの殆どは草原で少ないリソースを奪い合い、一部の上位プレイヤーは、東の浜、南のワイルドドックの林、西の川原、で狩りをしているらしい。


 地下水路があるなんて情報は聞いて無い。



「それじゃあ行くのニャ」

「ほっほ、気を付けて行くんじゃぞ」

「うん、行ってきます」





 廃墟街を進む事しばらく。


 廃墟街と言ってもそこまで廃墟っぽさは無い、蔦がびっしりと絡んだ石壁や錆び付いた柵と門、石畳はその殆どがひび割れて、その隙間に雑草が生えている。


 明るい日の差し込むそこは、廃墟というより古都である。


 こう言う所はゴロツキが住みそうな物だが、レイーニャ達猫軍団が追い払っているらしい。


 そのレイーニャなのだが。


 先ずメニューを開き、レギオンを選択する、すると。




レギオン


・ユキ LV3

・ウルル LV2

・レイーナ LV?

・ワイルドキャット LV?

・ワイルドキャット LV?

・ワイルドキャット LV?

 ………




 大体合計で80匹くらいか、簡潔に言うと、ここは廃墟街でも古都でもなく、猫の街、にゃん拠街だった。



 にゃん拠街を進む事しばらく。

 入り組んだ道をずんずん突き進むレイーニャの後について行くと、半開きになった扉の前で止まった。


 ここが地下水路の入り口だろう。



「暗き道を歩む者に闇の導きを『夜目ダークアイ』、行くのニャ!」

「「「ニャー!」」」

「お、おーう」



 軽く拳を振り上げた僕と猫軍団は、地下水路へと歩みを進める。



 暗い暗い、地下水路、所々に明度が落ちている灯りの石があり、その一部は完全に光を失っている。


 とはいえ、夜目のおかげで少しの光でも良く見える、夜目の上位魔法に暗視の魔法がある様だが、それを使うともっと良く見えるのだろう。



灯り石 品質E レア度2 耐久力C

備考:光の属性石に『発光』の魔法陣が刻まれている。魔力が切れている。



劣化した灯り石 品質F レア度2 耐久力E

備考:光の属性石に『発光』の魔法陣が刻まれている。魔法陣が一部擦り切れて使い物にならない。



 地面に落ちているそれを拾う。



「レイーニャ、これ貰って良いかな?」

「壊れてるみたいだし、良いんじゃニャいかニャ」

「じゃあ頂きます」



 時折落ちている魔法のアイテムを回収していく。後でじっくり解析しよう。





 地下水路を進む事しばらく、僕は遂にそれ・・に遭遇してしまった。



「……うわぁ」

「やるニャ!」

「「「ニャー!」」」



 猫の大群に集られ、必死に抵抗するそれ・・


 触角が飛び、手足はもがれ、ひっくり返されてはまだ動く手足をうぞうぞと動かして絶命したそれ・・



ビッグコックローチの死体 品質E レア度2 耐久力C

備考:傷が多い。若い個体。



 つまり巨大なコックローチである、小型犬程はあるだろうか?


 黒光りする甲殻を持つあれである。


 僕やアヤはそれが家に出ても喚き散らす程では無い。勿論お近付きになりたくも無いが、外に追い出すなりぶち殺すなり焼き払うなりはする。



「ニャーはこれ要らニャいからユキにあげるニャ」

「え? ……うん、一応貰っとこうかな……」

「ニャーが見たのに比べるとちょっと小さいのニャ、まだまだいっぱいいるみたいだニャ」

「うん、そうみたいだね……」



 若い個体らしいしね……。





ビッグバット LV?


スカベンジャースライム LV?


ワイルドマウス LV?


小石兵 LV?


ゴースト LV?


ビッグスラッグ LV?


ビッグコックローチ LV?




 これらが地下水路で遭遇した魔物達である。


 それぞれ——



 ビッグバットは大きな蝙蝠。動きが早い。


 スカベンジャースライムは濁ったスライム。酸が強めらしい。


 ワイルドマウスは鼠。ただのネズミ。


 小石兵はゴーレムの親戚らしい。非常に固く、しかし倒れると起き上がるのに時間がかかる。


 ゴーストは小さな魂の集合体らしく、オオオォォッ! とか言う叫び声を上げる。半透明で物理攻撃が殆ど効かない。


 ビッグスラッグは巨大なナメクジ。キモチワルイ。


 ビッグコックローチは巨大なゴキブリ。ノーコメント。



 ——である。


 死体などのアイテムはそのほぼ全てをレイーニャのご厚意で僕が頂いている。



 スライムとゴーストは流石にただの猫ちゃん達では倒せないので、レイーニャが軽く雷の魔法で倒していた。


 スカベンジャースライム、ビッグスラッグ、ビッグコックローチは毒攻撃をしてくる様で、レイーニャが度々『解毒』の魔法と『回復・小』の魔法で猫ちゃん達を援護していた。



 魔物を狩り、進む事しばらく。


 カサカサカサと嫌な音が聞こえてきた。


 ウルルもレイーニャも、猫ちゃん達もその音に気付いている様で、全員の動きが止まっている。


 真っ直ぐな通路のずっと奥、夜目の魔法で良く見える僕の目は、こちらへと向かってくるそれら・・・を捉えてしまった。



 通路の床に——



 壁に——



 天井に——




 ——おびただしい程のゴキブリの大群を。




「レイーニャ、流石の僕もあれはちょっと……」

「ニャーもあれはキモいと思うのニャ……」



 流石の猫ちゃん達もあの大群を前にひるんでいる。


 数は明らかにゴキブリの方が多く、通路の先全体が黒く染まっている。



「あれ、どうする? 逃げられそうに無いけど」

「仕方ニャいからニャーが殲滅するのニャ」

「できるの?」

「多分ニャ」



 できるなら是非やって欲しい、僕とウルルはトラウマになるだけで済むが、猫ちゃん達は死んだらそれまでなのだから。



「雷よ、疾く、顕現せよ! 『雷竜巻ライトニングストーム』!」



 レイーニャは今までで一番気合を入れて魔法を詠唱した。


 ほとばしる雷属性の魔力が、レイーニャの描く大きな魔法陣を経て、雷を纏う竜巻となって突き進む。


 閃光——


 ——轟音。


 それが過ぎ去った後には通路を埋め尽くす程いた巨大ゴキブリの大群はただの肉片へと変わっていた。



《レベルが上がりました》



「……レイーニャ、本当に魔法特化だったんだね」

「前に言ったじゃニャいか」

「うん、聞いてたよ」



 聞いてたんだけどね……。



 バラバラになった死体はどうせ使えないと思いスルーしようとしたが、ふと思い至ってスキル『解体』を取得した。


 ゴキブリの肉片にナイフを突き立て『ドロップ』と唱えると、周囲の肉片が一部消失し目の前に黒光りする甲殻がががが。



 ……取り乱した。



 ともあれ、そうやってゴキブリ素材を回収して行く。



ビッグコックローチの甲殻 品質E レア度2 耐久力C

備考:ビッグコックローチの甲殻、僅かに傷が残っている。それなりの固さを持つ一品。


ビッグコックローチの羽 品質E レア度2 耐久力E

備考:ビッグコックローチの薄い羽


ビッグコックローチの魔石 品質C レア度2 耐久力C

備考:小さく魔力量が少ない魔石。小魔石。


ビッグコックローチの肉 品質E レア度2 耐久力E

備考:ビッグコックローチの肉、珍味。



 全ての素材を回収し終え、通路の先に進む、この奥にはまだまだゴキブリがいる事だろう。



◇◇◇◇◇



地下水路へ向かう際のユキ:ラフビジュイラストです




https://kakuyomu.jp/users/Shirato_ryu/news/16818093080327749058

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