第10話 寝る子は育つ

 




 アランとはフレンド登録をして別れた。


 串焼き肉は塩を振っただけの簡易な物だったけど、料理スキルの恩恵か元々良い肉なのか、それともアランの腕が良いのか、結構美味しかった。


 ウルルも満足した様子。


 更に、肉や食材になりそうな物を見つけたら売ってくれる様にも頼まれた。


 その代わりに商品は三割引で提供するとも、これで僕の食事事情も幾らか改善した事だろう。



 と言う訳でやって来たのが北の草原、兎を狩って肉を確保する為だ。


 ついでに大量にある草を採取していくつもりだ。



 早速一匹、草叢からちょこちょこ出て来た。



ワイルドラビット LV?



 ナイフを投擲し、腿を突き刺して機動力を奪う。



「ウルル、ゴー」

「ウォン!」



 ウルルが駆け、逃げようとする兎の喉に食らいつく。


 ウサギはジタバタと暴れ、割と強力に見えるキックを繰り出すものの、ウルルは決して怯む事なく噛み付き続け、しばらく後兎は動かなくなった。


 兎を咥えて此方にやってきたウルル、見たところ大きな怪我は無いが、兎に蹴られた所をしきりに舐めている。やっぱり痛かったのかな?



「よしよし、ウルル、良くやったね」

「クゥーン」



 ウルルを撫で回すと気持ち良さそうに目を細める。


 兎はナイフを抜き取ると、インベントリにしまった。昨日タクがやった『ドロップ』は素材が全部手に入らないので、取り敢えず僕はやらない。

 ……解体スキル持ってないしね。





 狩りをしつつ様々な草や木の実の採取をしていたら、気付くと太陽が真上に登っていた、リアルで昼食を食べる時間である。



「ウルルー、おいで、帰るよー」



 草原を走り回り、木の実を咥えて来たり転げ回ったりしていたウルルを呼ぶ。


 ウルルは僕の呼び掛けに応えてトコトコと早歩きで向かって来た。しかし、その途中の草陰でフッといなくなった。



「あれ? ウルル?」



 少し慌て気味にウルルが消えた草叢によって行くと、其処には影になって分かりにくいが、小さな穴が開いている。


 どうやらウルルは其処に落ちたらしい。



「ウルルー、生きてる?」

「ウォン」



 穴の中に声をかけるとウルルの声が聞こえた、無事らしい。良かった。



 しばらく待つと、ウルルが自力で穴から這い出て来た。……口に仔兎を咥えて。



「ふむ、成る程、ここの兎は野うさぎかと思っていたけど、穴ウサギの性質もあるんだね」

「?」



 ウルルは数回穴を出入りすると、合計で六匹の仔兎を捕まえて来た。


 さて、この兎をどうするか、具体的には兎肉にするか兎ちゃんにするかだ。



 少し悩んだが、そもそもこの兎を肉にしても可食部は少ないので、テイムしてみる事にした。




ベビーラビット LV1



「『下級契約テイム』」






 テイムは無事完了し、六匹の仔兎を革袋に詰めると図書館に戻った。


 ウルルには昼食として余分に貰った串焼きを与え、兎ちゃん達には薬草であるオオナグサを幾らか袋の中に入れておいた。



「それじゃあウルル、兎ちゃん達を見ててね」

「ウォン」



 お座りをして此方を見るウルルに軽く手を振ると、昼食を食べにログアウトした。


 ……兎ちゃんがウルルの昼食にならないか少し心配である。





 手早く昼食を済ませると、水分をしっかりとって色々と雑事を終わらせてからまたログインした。



 瞼を開いてウルルの方へ目を向けると、ウルルは丸くなって寝ていて、その周りに六つの毛玉が転がっている。


 即行で仲良くなったらしい、種族の垣根を超えていた。



兎のフン 品質E レア度1 耐久力E

備考:兎の糞。



 兎の糞は肥料として良く使えると聞いた事がある、後は……鍋を作る時は糞を一緒に入れると良いとか何とか、まぁ猟師の食べ方だ。とりあえず回収はしておく。



 その後壺に魔力を込めたが、やる事が無い。


 態々疲れて寝ているウルル達を起こして外へ狩りに行くのも忍びないので……本を読む事にしようか。



「ふむ……ふむむ……」



 ふと、思い至って、例の光っている本を手にとってみた。

 この図書館、一通り見て回ったけど、光ってる本はこれだけだったからね。



 本を開くと、中身は白紙だった、パラパラとめくってみるが、どれも白紙。

 ただし……途中である事に気が付いた。


 これ、本の厚さに対してページ数が明らかに多い。


 めくってもめくっても最後のページに辿り着かないのだ。



 仕方なく、本を閉じて棚に戻す……試しに少し鑑定をして見た。



本 品質? レア度? 耐久力?

備考:?



 それは、明らかにやばいと分かる本だった。


 他の本を鑑定するともっと情報量が多い。



植物図鑑 品質C レア度2 耐久力C

備考:植物の情報が書かれた本。


魔物図鑑 品質C レア度2 耐久力C

備考:魔物の情報が書かれた本。



 本、とだけしか情報が出てこない時点で相当な一品である事が分かる。

 無闇と触れたのは不味かったかな?



 仕方が無いので図書館の本を読み漁る事にする。





「ほっほっほ、可愛らしい幼子だの、読書かの?」

「ん?」



 僕が椅子に座り、絵本『マレビトと人形姫』を読んでいると、僕の背後には実に1日ぶりと成る爺様が立っていた。


 手にはあの光る本を持ち、後ろにウルルと兎ちゃん達を引き連れている。



「爺様か、言ってなかったね。僕の名前はユキ、これでも16になる」

「ほう、それは驚いたの」



 相変わらず驚いていない顔で驚いたと言う。


 それと……一応謝って置かなければなるまい。



「ところで爺様。申し訳ないが、その光る本、勝手に触ってしまったんだ。何か大事な物だったろうか?」

「……成る程、やはり光って見えるか」

「?」



 爺様が何か小声で呟いた、何を言っているか聞き取れないが、とりあえず、謝る事はもう一つある。


 ウルルが此方にやって来た、頭を撫でて座って貰う。

 ウルルが座ると、兎ちゃん達もその後ろに座ってお互いに毛繕いを始めた。夕日が差す中を毛が舞う。



「それと爺様、勝手にウルル達を入れてしまったが、猫以外禁止だったりするかな? だとしたら随分と毛が落ちてしまっているんだが……」

「構わんよ、ドール達が掃除をしてくれているからの」



 あの人形、かなり便利なんだな。ともあれ、お許しが貰えて良かった。



「ところでユキよ」

「んん? 爺様、急に改まってどうしたんだい?」



 いつも好々爺然としているのに、真面目な顔で名前を呼ばれると此方まで身構えてしまう。やっぱり怒ってる?


 爺様は光る本を僕の目の前に置いた。



「この本に手を置いてくれんかの」

「? ……こうかい?」

「うむ」



 爺様に言われるがままに、光る本の表紙に手を置いた。

 僕の手が小さいせいか、本が余計に大きく見える。



「この本は空白の書」

「空白の書?」

「この本は資格ある者にのみその真価を発揮する」

「資格ある……者?」



 妙に頭に入る声だった、響き渡り、奥の奥へと浸透する。



「儂はこれを遥か昔に、金色こんじきなる者から預かった」

「な……にを……?」



 生じた疑問を言葉にしようとした段階で、僕は僕自身の意識が朦朧としている事に気付いた。



「ユキよ」

「なに……が……」



 意識が沈み込むように薄れて行く。



 ーーどうか……く……を救………れ





 鈍く重い意識、鉛のように重い瞼を開くと、目の前は白に染まっていた。



 何処までも永遠と続く白い世界に、僕とあの光る本だけが存在している。



 光る本は静かにそっと開かれた。



 それは何も書かれていなかった筈の1ページ。



 ……文字が……所持……者、ユキ……?



 白いページに浮き上がってくる文字を読む。



 ……召喚と……契約の……魔典……。




 其処まで読んで限界が訪れた。


 重い意識が沈み込み



 まるで眠るように




 僕は意識を失った。





《【神話ミソロジークエスト】『救世主の資格 三 白の魔典』をクリアしました》



神話ミソロジークエスト】

『救世主の資格 三 白の魔典』



参加条件

・?



達成条件

・?



失敗条件

・?



達成報酬

・空白の書改め『召喚と契約の魔典』



全体報酬

・進化補助



エクストラ評価報酬

・進化条件の緩和一定範囲

・『ーーの加護』






 目が覚めると自分の部屋だった、外は既に真っ暗だ。



 きゅるるぅ〜〜。



「……お腹空いた」



 ご飯を食べてお風呂に入って、寝支度を済ませてストレッチしたら寝よう。


 そう決めると、即座に立ち上がって部屋から出た。



「?」



 ふと、視界の端に銀色の何かが映った気がした。



 振り返って見てみると、何という事はない、僕の髪が照明を反射しただけの事。



「……明日も早く起きなきゃ」



 そう呟くと、僕は階段を駆け下りた。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る