第9話 ウルルのお肉
「クゥーン」
擦り寄ってくるウルルを撫でつつ、錬金術を鑑定する。
『錬金術LV1』
・下位変換
・上位変換
下位変換
一種の物を下位に変換する。
上位変換
一種の物を上位に変換する。
鈴守家の家訓に、知らぬなら挑め。と言うのがある。猪みたいだなぁ。と思った物だが、つまりこう言う時の事を言うのだろう。
知らぬなら挑め。知れぬなら体得せよ。即ち猪化推奨だ。
未知への探求は前のめりで行けと言う事である。納得。
手持ちの物で変換出来そうな物はスライムの核だけだろう。失っても痛くないのも理由の一つだ。
早速チャレンジしてみる。
二つに分断されたプチスライムの核を一つ手に持ち、下位変換を試す。
「『下位変換』」
呪文を唱えると、僕の残り少ない魔力を全て消費して、スライムの核を中心に眩い光が発生した。
それが収まった時、手のひらの上には、正八面体の結晶が一つ乗っていた。
レッサープチスライムの核 品質C レア度2 耐久力E
備考:レッサープチスライムの心臓部、無傷。
どうやらうまく行ったらしい。
レッサープチスライムはプチスライムの劣化種だろう。つまり成功である。
続いて上位変換。
……と、行きたいところだが、魔力が無くなってしまったので街の探索をしてみようと思う。
ウルルを抱き抱え、図書館から出る。
入り口受付で金髪の少女とすれ違った、一応客は来るんだね。
◇
目的地は取り敢えず冒険者ギルドだ、犬を売りたい。
次点で商店、レイーニャにご飯を用意して貰っている状況を改善する必要がある。
続いてアイテム集めだ、これは今も進めている。
街の中にも案外アイテムが転がっているのだ。
備考:石材のかけら。脆い。
薬草 品質E レア度1 耐久力E
備考:雑草、
毒草 品質E レア度1 耐久力E
備考:雑草、痺れ
植物図鑑を見ていたおかげで、それが何か分かった。
薬草の方は正式名称をオオナグサと言い、葉っぱに薬効がある、記述を見た感じだと薬効は疲労回復ってところかな。
毒草の方はキイロソウと言い、毒草の中では痺れ草に分類される。根と花に毒性を持っているが摂取しても末端に痺れを感じるだけでそこまで強い毒ではない。
薬師の入門書に薬の作り方があったので、道具があれば作ってみようか。
◇
ギルドに着いた。
大通りから少し道に入った場所にある、交差する剣がかたどられた看板には、冒険者ギルド。本部。と書いてある。
冒険者ギルドまでは看板一杯に書いてあるのに、本部は後で付け足された様な不可解な事になっている。
開け放たれた扉から中を伺うと、ギルド内には人が殆ど居らず、閑散としていた。
併設されている酒場には何人かの影があるが、男も女も朝から酒を飲んでいる。
そこはどこか退廃的な雰囲気が漂っていた。
……大丈夫かな、ここ。
躊躇していても始まらないので入ってみる事にする。
中の構造は、左側に酒場があり、右に紙が貼られた板がある。左右の奥にはそれぞれ出入り口があり、右は訓練場、左は立ち入り禁止。
正面には受付があり、スキンヘッドの筋肉おじさんが紙の束を見ている。
取り敢えず受付のおじさんに話しかけてみよう。
「こんにちは」
「ん? ああ、こんにちは、冒険者ギルドに何か御用で?」
「魔物の解体をやってるって聞いたんだけど」
「解体ならやってるが……まぁ良い、ついて来い」
おじさんは僕の体を足から頭まで確認し、最後にウルルをみると頷いた。
……まさかウルルを解体するつもりか?
付いて行くと、訓練場と書かれた板の横を通過し、右奥の門をくぐった。
出た先は大きなグラウンドだった。ただし、草が生え放題になっていて人がいない。
グラウンドの縁を進むおじさん、進行方向には大きな建物がある、目的地はそこだろう。
中に入ると、そこでは魔物の解体が行われていた。
巨大な熊を3人がかりで解体している、毛皮がズタボロなので、倒すのに余程苦労したのだろう。
巨大な熊と言ったが、実際に腕だけで僕と同じくらいの大きさがある。
この豪腕で引っ叩かれたら昨日の犬くんの様に吹き飛ぶだろう。恐ろしい事だ。
……吹き飛ぶ前に頭が弾けるなり首が取れるなりするかもしれないが。
「それで……獲物はそいつで良いのか?」
「わふ?」
「違うよ。それは僕の相棒」
ウルルを顎で示して問うスキンヘッドに対し、僕はウルルに抱き着いて否定する。
「そうか、残念だ……高く売れそうなのに」
ちょっと
気の良い人だな。
「獲物はこっち」
そう言いながら、僕はインベントリから犬を取り出す。
虚空から落ちて来た犬を見て、おじさんは一時固まった。
しばらく後、おじさんは納得した様に頷く。
「……そうか、マレビト……成る程」
特に何かを問うでもなくスキンヘッドのおじさんは査定を始めた。
犬の解体は今日中に終わるらしい、今は熊の解体で手が空いていないが、それが終わった後に取り掛かり、最短だと正午には終わるとの事。
肉は売却して、骨と爪牙、毛皮と魔石を貰う事にした。
◇
スキンヘッドで筋肉なおじさんに見送られ、続いて商店にやってきた。
この街の北東は、
僕の目的としては、アルルみたいに簡単に食べられる果物の入手だ。
現状検証はしていないが、インベントリの中で時間が停止しているなら、屋台で纏めて買うのもありかもしれない。
まぁ犬の死体を見たところ、時間は停止している様に見えたがね。
兎に角、今の目的は果物だ。
「クゥーン」
「む?」
ウルルが突然パタパタと動き始めた、何事かと思ったら食欲をそそる匂いが漂ってきている。
どうやらお腹が空いていたらしい。
匂いの元は屋台、遠目から見て何かの肉を串焼きで売っているらしい。
「食べようかな?」
「ウォン」
食べたいらしい。
「お兄さん、串焼き二本で」
「はいよー」
串焼きを売ってるお兄さん、茶色のエプロンをしていて、黒髪に深い青色の眼をしているが、よくみるとエプロンの下が僕と同じ旅人風の服だ。
詰まる所プレイヤーだろう。
相手も僕がプレイヤーだと気付いた様子小声でぽつぽつと何かを言った。
「おっと……よくみると凄い美少女だな……小学生か?」
「まさか、これでも僕は高校生、それに男だよ?」
「は? はぁ? ……それってリアルモジュール……だよな……」
「髪と目以外は弄って無いよ」
「……まぁ良いか」
いまいち納得していない顔のお兄さんと、串焼きが出来るまで軽く世間話をした。
彼の名前はアラン。アランは料理好きで、このゲームを始めた理由は未知の食材を求めて、なのだとか。
今の所未知っぽい食材は無いので、ソロで兎狩りをしてその肉を売って金策しているらしい。
兎は逃げ足が早くて初心者向けじゃないと言う話だし、それなりに心得のある者なのだろう。
客層は今の所、九割九分NPCなのだとか。
それと言うのも、ベーターテストの時には、空腹度と言う物は無く。また、ログアウト時も、体がその場に残るなんて事は無かったらしい。
食事はただの嗜好品だったと言う事だ。
「まぁ、始めたばっかで嗜好品なんかにお金は使ってられねぇ、ってのは分かるんだけどなぁ」
「でも、そろそろ皆空腹度がゼロになる頃だと思うけど」
「ん? 空腹度?」
むむ?
アラン LV3 状態:
「アラン、お腹は大丈夫?」
「……そう言われてみると物凄く腹が減ってる様な……」
「最後に物をたべたのは?」
「今朝、味見に肉を一欠片」
「昨日は?」
「何も食ってねぇ」
今焼いている串を見てゴクリと唾を飲み込むアラン。
「僕なら待てるけど?」
「……すまねぇ」
焼き上がる端から消えていく串焼き肉にウルルが悲しげな声を上げた。
「クゥーン……」
「いやすまねぇ、マジで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます