第3話 魔力を覚える

 



 ——この大陸は広い。



 その多くはとても人が住める領域ではなく、殆どが強力な魔物の住処となっている。

 この地はかつて、『魔境』あるいは『神に見捨てられた地』と呼ばれていた。


 だが、その反面大陸の広大さ故に人間の住む領域も広い。



 いくつもの国が存在し、少しずつ魔を討ち、森を拓いて人間の領域を広げて行った。



 ある時、とある王国の王が野心を持って小国の一つに攻め込んだ。



 そこから人間の戦乱の時代が始まる事となる。



 多くの国が奪い合い殺し合い、時に呑み込まれ、時に分かたれて。

 戦いが戦いを生み、それは止まる事なく永遠と続いて行くものと思われた。



 そんなある日の事だった。


 魔境に隣接していた、ある大国が滅ぼされたのは。



 ——それは人間の手による物ではなかった。



 黒い魔物の群れ、いや、それはもはや津波と言った方が良いだろう。


 先頭に漆黒の巨竜を据えた黒い津波は、瞬く間にいくつもの国を消し去り、しかしてその勢いは決して衰える事は無い。


 永きに渡る人の戦いは皮肉な事に魔物の手によって止められたのだった。



 生き残った国々は手を取り合い、対魔物連合を組み上げる。

 しかし、黒い津波は、それをまるで無意味と言わんばかりに食い潰した。



 反撃の力を無くした国はたちまち津波に呑み込まれ、故国ルベリオンも、もはや近い未来に必ず訪れる滅びを待つのみ、多くの者が絶望に膝を屈したその時。




 ——神が舞い降りた。




 神は天より極光を振りまき黒い魔物達を消し去ると人々に神託を授け、世界を少し改変した。



 近場に霧の森があるおかげでほぼ無傷のこの国、ルベリオン王国にマレビトを送り出すと。



 それから幾らかの時が経ち、僕らが此処にやって来たらしい。



 此処から更に爺様の事情が入る。



 爺様はその黒い魔物との戦いでそこそこの有名人らしく、自分の力や知識を継承できる弟子を求めていたらしい。

 それこそ見込みのある猫に魔法を教えるくらい。


 そんな折にマレビトの話を聞き、王国中に網を張り巡らせていた。


 マレビトは遥か昔にも存在し、その多くが人々に知識や力を齎したのだとか。


 事実、この大陸『アルバ』や他の大陸にもマレビトが居たと言う事を証拠付ける書物や遺跡が残っているらしい。



 そんなこんなで爺様は才能が高かった僕に目をつけ早速とばかりに猫ちゃんを派遣した。


 それからは口八丁手八丁で僕を弟子にするつもりらしい。



 この話は僕からしてみれば有難い事だった、何せ先達の知識を得られる。



 タクの話によると、このゲームは様々な情報が全く提示、解析されておらず、手探りの状態らしいのだ。



 正に図書館は情報の宝庫である。


 当然、弟子になる事を快諾した。





 先ず手始めに、体内の魔力を感じ取る事から始まった。


 図書館奥の広間で座禅を組む僕の肩に、爺様が手を置いてそこから魔力を流し込む。


 体の内に入ってきた暖かい何か、魔力。それに似通った物が僕の中にある事が理解出来た。


 体の中で循環しているそれ、それが体内にある魔力、『オド』であると教わった。



 嬉しそうに笑う爺様、猫ちゃんは何やら目を見開いていた。



 次いで行ったのがオドを操る訓練、体を動かすのと同じ要領でやったら出来た。



 次が、オドを外に放出する訓練、魔力を貯めておく事が出来ると言う壺を渡され、その中にオドを流し込んだ。



 次にやったのはその要領でオドを体外に放出、そのまま外に出たオドと外の魔力、『マナ』を見極める。


 これがなかなか難しくパッと出来る物では無かったので、爺様にも協力してもらい、僕の魔力と爺様の魔力、その他の魔力、という形で見る事が出来た。


 上々の結果である。



 その間猫ちゃんはポカーンと口を開けていた。



「此処まで出来るとは思わなんだの」



 そう言うと爺様は次に魔力の形態の違いを教えてくれた。


 これが割と複雑だったが、火の魔力や風の魔力といった具合に何となく分かる様になった。



◇◇◇



 一通りの基礎を終えた所で、今日は終了とするらしい。


 猫ちゃんは本棚から本をいくつか取り出しその隙間に入って寝ている。

 よく分からないが落ち込んで不貞寝しているらしい。



 爺様は僕に壺を渡すと『用事があるのでな』と言って何処かへ行ってしまった。



 取り敢えずメニューを開く。


 メニューは声に出すか、メニューを開くと思考すると開ける様だ。


 内容は簡素な物で、スキル、フレンド、パーティー、クローズゲート、の四つだった。



 スキルは取得済みスキルを見れる他、スキルポイントを消費して、スキルの取得や強化が出来る。


 フレンドはフレンド登録した相手の確認が可能で、フレンドチャットで会話が出来る、今の所フレンドは居ないので、早くタク達とフレンド登録したい所だ。


 パーティーは最大6人まで組める、効果は経験値共有、召喚術が不遇と呼ばれる原因の一つだ。

 召喚獣はパーティー枠を1つ使用するらしいからね。


 最後にクローズゲート、従来の言い方ならばログアウトボタンの様な物だろう。

 音声以外でもログアウトできると言う事だ。



 昨日の昼、4人で帰る際に何時集合するかと言う話になった。

 だが、そもそもゲームの舞台がどう言う場所か分かっていなかったらしい。



 タクはこのゲームのベータテストをやっていたらしいのだが、タクがベータ時にプレイしていたのは古い遺跡で、次は街であると言う事しか知らなかったらしい。


 そんな訳で今日、課題の終わっていない女子は二人で集まって課題をやり、その間にタクが良さそうな場所を選定する。



 集合時間は19時、場所はタクからの連絡待ち。


 僕はそれまで自由時間となる。



 早速近場の本を手にとって開いて見ると——



「……成る程、道理で図書館にプレイヤーが居ない訳だ」



 ——其処には、が並んでいた。



 

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