第2話 攻略者達のプロローグ ニ
ある日、某有名動画サイトに一本の動画が投稿された。
短い風景映像、それは草原や森、砂漠、湿地、雪原、風が吹きすさぶ渓谷や生物が住めるとは到底思えない溶岩地帯、暴風雨に晒され荒れる海に陽光照り返す雄大な山々。
それだけならただの風景映像でしか無かったが、シーン毎に何か
例えば草原では角が生えた兎が駆け回り
あるいは砂漠では明らかに縮尺がおかしい蠍が駱駝の様な生物に襲い掛かり。
はたまた海には計り知れない程に巨大な何かの影がゆっくりと移動していた。
シーンは移り変わり、草原、一人の少女が映る。
革の鎧に身を包み、一本の剣を背負っている。
少女は周囲を一頻り見回した後、スライムのような液状の生物に目を付けた。
重そうに剣を引き抜くと、そのスライムへと斬りかかる。
少女の一撃はスライムの体を切り裂いて、その体積をいくらか減らす事に成功する。
少女の攻勢は続き、時折くるスライムの反撃を躱し、時に掠らせながら辛くも勝利した。
スライムは地面に溶ける様に流れていき、その場にはスライムの核と思わしき透き通った結晶だけが落ちている。
少女は満足気に頷くと、地面に転がっているスライムの核へと手を伸ばし——
——巨大な影が少女の上を通り過ぎた。
少女は慌てた様に空を見上げ、そして——
——陽光を照り返す金属質の鱗。
——大空を飛び回る巨大。
——ドラゴン。
少女はそのドラゴンが遥か遠く、見えなくなるまで地面にへたり込んでいた。
……それは少女にとって無意識だったのだろうか?
彼女は、その手に持つ一本の剣を、強く、強く握り込んでいた……。
そんな映像が投稿されてから、動画は日毎に投稿された。
それは一人の少女の冒険譚。
戦い。
装備をより強い物に変え。
戦闘技術をより高め。
時には武具の素材を集めに鉱山へと赴き。
時には仲間と協力して強敵を倒す。
少女は少しずつ、少しずつ成長していった。
最初の投稿から一月がたった日。
少女はあの草原で遂に竜と対峙する。
ギラリと光る爪と牙。
牙の合間から漏れ出す灼熱の息。
少女は勇敢にも……蛮勇にも、竜へと挑み掛かり。
激闘の末。
少女は。
——炎に包まれた。
暗転。
少女が目を覚ますと、そこは何の変哲も無い、少女の家のベッドの上。
飾り気のない木製のベッドとその上に敷かれた白いシーツ。
少女はキョロキョロと周りを見渡すと、小さな声で呟いた。
「クローズゲート」
暗転——
少女は目を覚ます、そこは今までの動画とは全く異なるリアルな部屋。
ベッドの上には大量のぬいぐるみが居座り、部屋の隅には勉強机とパソコンが置かれている。
少女は小さな声で呟いた。
「はぁ、負けちゃったな」
落ち込んだ様に囁いて、ヘッドギアを下ろす。
「ご飯できたわよー」
「はーい!」
『AnotherWorldOnline、予約受付、開始』
◇◆◇
帰り仕度を終えると、タクは当然の様に僕のカバンを持つ。
特に僕が貧弱と言う訳ではなく、いつの間にやら僕の荷物を持つ様になった。良くも悪くも大人になったと言う事だろう。
昇降口まで降りて靴を履き替える。此処から先にはまだ出ない、女子2人が来るのを待たないと行けないからだ。
いいんちょ、もとい千里と祐美は本物委員長の手伝いで職員室に書類を運んでいる。
僕も手伝おうかと言ったのだが『鈴守さんに力仕事なんてさせられません!』と断られてしまった……。
その上、進んで動き出そうとしたタクの機先を制する様に『宮代くんは鈴守さんの側に居てくださいね』とも。
夏は長い髪が鬱陶しいのでもっぱらポニーテールだ。
小学生の折、髪を切ったら女子達に酷く怒られたのでそれ以来髪を切っていない。
のんびりと女子2人を待っている間、タクにゲームの説明を受けた。
それによると、AnotherWorldOnline、略称アナザー、は投稿された動画の通り、かなり自由度が高いゲームらしい。
従来のゲームと同様にレベルと言う物があり、それをあげる事で強くなれるとか。
レベルが上がればスキルポイントと言う物が得られ、そのスキルポイントでスキルを取得して戦うのが基本、けれどスキルが無くても戦い自体は出来る様だ。
また、レベルは戦闘以外の行動でも上がり、スキルレベルはそのスキルに準じた行動を起こせば少しずつ上がっていくらしい。
スキルには
それは例えば当てるのに技術が必要な弓スキル、例えばパーティーシステム的に経験値の分配で他人と軋轢が生まれるらしい召喚術スキル、他生産系のスキルは手間が多く情報が不足している為揃って不遇らしい。
僕も聞きかじる程度には調べたが、妙に情報統制が敷かれていてゲーム内容を全く得られなかったのだが……まぁ良いか。
戦うのも面白そうだが、 スキルが無くても戦えるのならスキルを取得しなくても問題ない筈だし、折角なので動物と関われる召喚術と生産系のスキルを取得してみようと思う。
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