第3話 攻略者達のプロローグ 三

 



「鈴守くん、宮代くん、お待たせ!」



 ニコニコ微笑みながら此方へ歩いて来るのが祐美。



「待たせちゃったわね」



 千里は少し申し訳なさそうにしている。



「特に待ってないさ」

「さぁ、帰ろうぜ」



 四人で帰るのはいつもの事。


 どうやら僕以外はタクにゲームの説明を受けていた様だ。



「ゲームも良いけど、課題もしっかり終わらせないとだめよ?」

「ふふふ、その点は抜かりない、夏休みを満喫する為に全て終わらせてある」

「うわぁ、宮代くん……よっぽど楽しみだったんだねぇ、鈴守くんも?」

「僕は何時も通りだよ」

「まぁユキはな、そうだろうよ」



 そう、何時も通り、万事抜かり無く終わらせている。



 学校から我が家への距離は徒歩にして僅か数分、こう言った他愛もない会話をしていれば直ぐに着いてしまう。



「それじゃあまた明日、ゲームの中で会おうぜ」

「えぇ、また明日」

「またね、鈴守くん、宮代くん」

「また明日」



 手を振って二人を見送る。


 僕とタクは幼少の頃からの付き合いだ。それは僕とタクの家が隣同士だからと言えるだろう。


 鈴守家の両親、つまり僕の親は何かと家を空けている事が多い。


 小さい頃は良く宮代の御両親に兄弟共々お世話になった物だ。

 どうやらお互いの両親は学生の頃からの親友だった様で、宮代の御両親は僕達を我が子の様に可愛がってくれる。

 勿論その他にも理由はあるが、最たる理由はそれだろう。


 姉は人見知りしがちだが、妹は結構懐いている。



「それじゃあタク、また明日」



 そう言って僕は戯れに自分の家に帰る。



「おいおい、こらこら、ゲーム渡して無いぞ」



 ちょっとした冗談である。



◇◇◇



 タクにゲーム機を貰うと、軽く話をしてから家に帰った。



 家のドアを開けると、直ぐにエプロン姿の妹がやってくる。



「おにぇーちゃんおかえりぃ〜」

「ただいま、彩綾」



 妹の名前は彩綾さあや、ちなみに僕の名前は紗雪さゆき、姉は沙里奈さりなである。


 鈴守家には名前に関する家訓がある。他人に名乗る時は偽名を使用する事。と言う物だ。

 よって、妹はアヤ、僕はユキ、姉はリナ、が外での名乗り方なのだ、勿論遵守すべしと言う訳では無いのでただのあだ名として使っている。


 アヤは僕の事を呼ぶ時おにぇーちゃんと呼ぶ、それと言うのも、アヤは六つになるまで僕の性別を理解していなかった事が原因だ。

 以来アヤは僕を呼ぶ時、お兄ちゃんとお姉ちゃんを混ぜたおにぇーちゃんと呼んでいる。


 付け足すと、アヤはブラコンだ。


 僕とは歳も近いし、姉は不器用、加えて両親が何時も居ないと言う環境が末っ子のアヤの中で化学反応を起こした。


 子供の頃は何処に行くにも『おにぇーちゃん、おにぇーちゃん』と付いて来た物だ。

 近所ではおばちゃん達を中心に美少女三姉妹として有名だった。


 『おにーちゃん? おねーちゃん? ううーん……? お……にぇーちゃん? ……おにぇーちゃん!!』悩みの末そう呼ぶ事となる原因を作ったのは近所のおばちゃん達だろう。



「お風呂にします? ご飯にします? そ・れ・と・も——」

「それより、宿題は終わったの?」

「ふふふ、私は何時も通りだよ!」

「そう、じゃあご飯にしようか」



 時刻は陽光輝く昼、昼ご飯の後はアヤの宿題の時間だ。



 お昼ご飯はスパゲッティー。僕が着替えている内にアヤがパパッと作ってくれた。

 その後は仲良く片付けをしてお勉強の時間である。



 アヤの成績は優秀だ、そもそも宿題や勉強は僕とやる必要が無い。

 つまり、あえて残していると言う事である。



 勉強は程々に終わらせ、湯船に浸かり、就寝前のストレッチを終えてから眠りに入る。


 勿論妹とは別々の部屋だ。



◇◇◇

 


 翌朝、いつも通りの時間に目が覚める、外はまだ薄暗く、夏であってもこの時間は冷える。



 当然の様に潜り込んでいたアヤを起こすと、冷たい水で顔を洗って目を覚まし、ジャージに着替えて朝のランニングである。



 終える頃には日も顔を出し、汗をシャワーで洗い流すと、アヤと二人で朝食を作る。


 朝ご飯は、目玉焼きにウィンナー、サラダにパンとありきたり。アヤはこう言うありきたりな感じが好きらしい。



 その後は昼前まで勉強を教え、昼食を食べ、いよいよゲームの時間である。



 アヤは友達に呼ばれて友達の家に遊びに行っている。

 戸締りもして、火元の確認もした、その他の雑事は全て終え、万事抜かりは無い。


 さて、世界初のVRゲーム、果たしてどんな物かな?


 僕はヘッドギアをつけるとベットに横になり、そっと息を吸い込んだ。



「オープンゲート」



 

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