第4話
ルイーゼはあーでもないこーでもないといくつも僕の名前の候補を出すそばから彼女自身でダメ出しをして結局僕の名前は決まらずじまいに。
「絶対、君に似合う名前つけてあげるから少し待ってて」
と僕の名付けは一旦中止され、暫定的に僕の呼び名は錆びた鎧だからと鎧くんになった。
僕の隣に座り鞄から取り出した塩漬け肉と香草を挟んだパンと格闘しながら食むルイーゼの姿は小動物のように可愛らしい。
そんなルイーゼを見つめていると視線に気づいた彼女が小首をかしげながら尋ねた。
「なあに?わたしの顔に何かついてる?」
『違うよ。ただ、ルイーゼが可愛いなって』
僕は思ったことをそのまま口にしただけなのにルイーゼは頬を薄紅色に染めて俯いてしまう。
「おだてたって何も出ないんだから。それより……」
恥ずかしいのか顔を隠したままルイーゼは話題を変えてきた。
「鎧くん、どこかに向かう途中だったんじゃないの?急いでたみたいだし。わたしが引き止めちゃって大丈夫なの?」
心配げに僕を見上げる彼女に僕は首を横に振る。
『目的地は無いよ。僕はただ逃げ出しただけ』
そう、僕には行く宛なんかない。ただ、あの恐ろしい場所から逃げ出したかっただけ。
「そう。わたしと似てるかもね」
聞き返そうとして彼女の目尻に涙の玉が浮かんでいるのに気づき僕は尋ねるのを止め、ルイーゼが口を開くのを待った。
「わたしもね、行かなきゃいけない場所があるの。でも、そこには恐ろしい魔物がたくさんいるって聞いて凄く怖くて涙が止まらなかったの。あんまりにもわたしが泣くものだから可哀想に思った聖騎士様や神官様が「必ず迎えに来るから」ってわたしをここに置いていったの」
大粒の涙を流し、しゃくりあげながらも最後まで話しきったルイーゼの頭を『そうだったんだ』と相槌を打ちながら僕は錆だらけの手でぎこちなく撫でた。
『ずっとここで待ってるの?』
僕の問いに彼女は小さく頷く。
『今はまだ明るいけど、夜になったら暗いし野生の獣とか場合によっては魔物もでるかもよ』
ルイーゼの引っ込みかけた涙がまた目尻に溢れ出す。
「で、でも、ここで待つって約束したから」
必死に泣くのを我慢しているが既に涙腺が決壊しかかってるのは明白。
『じゃあさ、急にいなくなったら心配だから行き先を書いていこう。これなら良いんじゃないかな?』
僕の提案にルイーゼは首がもげるんじゃないかと思うくらい激しく頷くと直ぐ様、鞄から紙とペンを取り出し筆を進める。最後に署名を書き終えて近くの切り株に書き置きを風で飛ばされないよう重しを置いてさあ、出発するかという所で背後からガサガサと草木を押しのける音が僕らの方に近づいてきた。
ルイーゼを背に身構える僕の前に姿を現したのは穴だらけのボロを着た
「きゃぁぁぁぁ!」
『うわぁぁぁぁ!』
僕とルイーゼは同時に絶叫し、僕は直ぐ様ルイーゼを抱き上げ全力で近くの村に向かって駆け出した。
3度目に振り返った時には
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