第3話
不意に少女が口を開き、か細い声で己の名を告げ僕に問う。
「わたしはルイーゼ。貴方は?」
少女、ルイーゼに名を問われて僕は答えられなかった。僕は主によって作り出された偽りの命で大量生産された個体の一つ。作られ、消費されるだけの存在に名前なんてあるわけない。
『僕には名前なんてない』
「そう……」
僕の答えにルイーゼは悲しげに目を伏せ、しばらく少し考えているような素振りを見せた後、彼女は瞳に期待と不安を織り交ぜて僕に尋ねた。
「貴方の名前、わたしがつけても良いかな?」
考えもしていなかった提案に僕の瞳は驚きに瞬く。え?僕に名前?壊れたら替えの効くような存在の僕に。あまりにも驚きすぎて直ぐに答えない僕にルイーゼは不安そうな顔を見せた。
「わたしなんかがつけたら嫌だった?」
目尻に涙の玉を作りかけているルイーゼに慌てて僕は大きく首を横に振った。
『全然、嫌じゃない。むしろ嬉しいよ』
僕の答えにルイーゼの顔に笑顔が浮かぶ。
「それじゃあ……」
僕の身体を頭から足まで満遍なく見つめるルイーゼの目。その目が僕の頭の所で止まる。
「怪我してるの?」
頭についた返り血を僕の怪我だと思ったルイーゼは肩にかけていた鞄からハンカチと小瓶を取り出し、小瓶の液体をハンカチに吸わせると僕の頭をそっと拭い始めた。
あっつ!ハンカチで拭われた所が熱湯をかけられたように熱くてジンジン痛む。転んでも痛みなんかなかったのにどうして?
『……ルイーゼ、その小瓶の中身って何?』
痛みに震えそうになる声を抑えながら恐る恐る尋ねると彼女は胸を張り誇らしげに
「これ?聖女の祝福を受けた聖水よ。邪を清め傷の治りを早くする効果があるの。凄いでしょ」
と満面の笑みで答えた。……聖水って
僕、浄化されかけた?いや、ルイーゼは良かれと善意でやってくれたんだ、疑うなんてそんなこと。でも、不死者かどうか疑っているのかも?
信頼と疑惑がグルグル頭の中で回っているうちにジンジンとした痛みは気づけば消えていた。
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