第2話 地下室

「はあ、疲れた……」

ソーンは男を警察に引き渡した後、リアの所へと戻っていた。男を運んだため、腕が小さく痙攣している。

「情けないなぁ」

自分の筋力のなさに落ち込みながら、溜め息を吐いた。

「お待たせ。戻ったよ」

辺りを見回してリアを探したが、見当たらない。

どこかに行ったのだろうか。

近くを探してみるが、やはり見つからない。トイレにでも行っているのかとも考えて、トイレの前まで行ってしばらく待ってみたが出てくる様子はない。

そこでさっきの男のことを思い出した。

警察に協力して犯罪者たちと対峙している僕たちのことを恨んでいる人は多い。そういった連中に狙われたという可能性はないだろうか。もしそうだとすれば、迅速に対応する必要がある。

ソーンはポケットからスマートフォンを取り出し、連絡先の中にある『趙凛風(チョウ・リンファ)』の名前をタップした。


机の上に置いてあるスマートフォンがバイブ音を響かせて着信を知らせている。ソファの上で論文に目を通していたPSIのメンバーの1人である趙凛風が、それに気づいてスマートフォンに手を伸ばした。

「はーい、どしたの?」

「リンファ、突然ごめんね。今外にいるんだけど、リアが突然いなくなっちゃったんだ。最近僕らを狙っている連中も増えているから心配で……」

リンファは黒髪をいじりながら微笑んだ。

「そうなんだ。でもリアは私たちの中だと一番強いし、もし誘拐されたりしたんだとしても心配はないと思うけどなぁ」

確かにリアは超能力者の中でも一際珍しい能力を持っている。普通に戦えばリアに勝てる人間はほとんどいないだろう。

「そうだね。でも……」

でも、もしかしたら……。

「助けを求めているかもしれない。もしそうだとしたら、助けてあげないと」

それを聞いてリンファは小さく笑った。

「ソーンは過保護だなぁ。まあ任せてよ。人捜しは得意だからさ。見つけといてあげる」

「ありがとうリンファ」

そう言ってソーンは微笑んだ。


街から離れた人気のない場所にある倉庫を改造したアジトの地下室にリアはいた。両手を縛られ、天井から吊るされている。口から血を流しながら力無く項垂れている。

目の前にはゴーグルをつけた男が床に座っていた。

「まだ何も言わないつもりかい?あまり賢いとは言えないな」

男は立ち上がり、リアに近づいていく。

「僕は元ボクサーでね。あまりパンチを受けすぎると……」

相手を殴る態勢になり、ニヤリと笑う。

「死ぬよ」

リアの腹が力強く殴られる。リアは痙攣するように頭を振り口から血と唾を吐きながら、また項垂れた。その様子を見ながら男は大声で笑い始めた。

「気持ちいい!最高だ!拷問は最高だ!」

リアの髪をつかみ、顔を上げさせる。自分の顔を近づけて叫ぶように言う。

「さあ!もっと泣け!喚け!もっと俺を悦ばせろ!」

男は恍惚の表情を浮かべながらそう叫んだ。

「何これ」

しかしリアは対照的に冷たい声でそう言った。

「……あ?」

「これが拷問……?」

リアはうっすらと笑みを浮かべていた。そして男の顔を見ると笑みが消え、寒気がする程の冷たい表情になった。

「ぬるすぎる。何してんの?」

男は少し黙った後、余裕を感じさせるように笑みを浮かべた。

「なんだそれは。強がってんのか?」

その瞬間、薄暗い地下室が一瞬明るく光った。リアの両手を縛っていた縄が黒焦げになり、ちぎれて床に落ちた。

「縛り方もゆるい。痛めつけ方も単調。精神的な責めも稚拙。狂人ぶってるけど実力が追いついてない。自分に甘いから向上心もない。それに加えてセンスもない」

冷たい声でそう言いながら自由になった両腕を軽く振り、それから人差し指を立てて男を指差した。

「もっとどぎついのをやってくれないと、私たちマゾヒストは悦ばない」

指先が充電するように電気を纏い、辺りを明るく照らす。リアは男を睨みつけた。

「拷問はこうするんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る