PSI CRIME -サイクライム-
しゃいれむ
プロローグ
第1話 PSI
稀に超能力を持って生まれてくる人間がいた。その能力はさまざまであり、強力な能力も多々あった。やがて超能力者による犯罪も増え始め、その超能力の強力さに警察は対応できなくなっていった。そうした超能力犯罪に対応すべく、ある組織が結成された。その組織の名前は「PSI(サイ)」。10人の精鋭たちによって構成される超能力犯罪対策班である。
警察官がビルの屋上で息絶えていた。近くには男がおり、その警察官の遺体を笑いながら眺めている。
「馬鹿だよな。お前ら警察は普通の犯罪者だけ相手にしてりゃいいんだよ。超能力者には勝てねえんだからさ」
警察官を蔑むような目で見つめながら、男は勝ち誇って言った。
「くだらない正義感で俺の支配領域に手を出さなきゃ死ななかったのにな」
優越感を感じながらそう言った時だった。
「ねえねえ、あなたがケリー?」
突然女の声が響いた。男が声のした方を見ると、20歳くらいの女が立っていた。女は微笑みながら男の方に近づいてきた。
「あ?なんだお前」
威圧するように男が言うが、女は怯える様子もなく、笑顔のままさらに近づいてくる。
「警察から依頼があったんだー」
場違いなほど呑気な声でそう言うと、右手の人差し指を伸ばし男を指差した。
「だから」
パリッという音がすると同時に眩しい光が辺りを照らした。女は相変わらず純粋そうな笑顔を浮かべていたが、その瞳には明確な殺意が感じられた。
「ごめんね」
地面を揺らすような轟音が響き、巨大な稲妻が真横に向かって走った。
ドイツ フランクフルト
公園に男が1人で立っていた。彼は待ち合わせをしており、腕時計を見ながら溜め息を吐いている。
「また遅刻か……」
彼はソーン・マーティンという名前のアメリカ人である。年齢は23歳で、身長は179センチ。髪色は明るい茶色で、瞳は青、体は細身。PSIのメンバーである。
困ったような表情で、もう一度溜め息を吐いて空を見上げる。青空に浮かんでいる雲を眺めながら、相手が到着するのを待つ。
そんなソーンを公園の木の陰から帽子を被った男が睨みつけていた。憎しみを込めた瞳でソーンを睨みながら、手に持っている鉄パイプを強く握りしめた。
「あいつ……、間違いない」
俺の組織を壊滅させた奴の1人だ。あいつのせいで俺たちはめちゃくちゃにされた。
殺意を纏っているその男は、足音を殺しながらソーンに近づいていく。ソーンは気付いている様子はない。2人の距離は縮まっていき、ついに鉄パイプを振れば殴ることのできる距離まで近づくことができた。
仲間たちの仇だ……。
鉄パイプを振り被り、ソーンの頭に向かって思い切り振り下ろした。鈍い音が響き、ソーンは地面に倒れた。倒れたソーンを見て男はほくそ笑む。そしてすぐに殺意のこもった表情になり、鉄パイプをもう一度振りかぶり力強くそれを振り下ろした。もう一度、もう一度、もう一度。何度も何度も倒れたソーンの頭を殴り続けた。
「死ね!死ね!死ね!死ね!」
そう叫びながら繰り返し殴り続ける。10回ほど殴ったところで一度手を休め、すぐに鉄パイプを思い切り振り上げ、動かないソーンを睨みつけた。
「トドメだ」
そう呟いてもう一度鉄パイプを振り下ろした。
しかし、その鉄パイプはソーンの頭を殴ることはできなかった。ソーンは突然立ち上がり、振り下ろされた鉄パイプを手で掴んで止めた。男は驚き、後ずさる。
ソーンの姿を見て男は戦慄した。
ソーンは無傷であった。擦り傷一つない。汚れはいくつかついているが、それは汚れているだけで傷ではない。
「そんなはずは、ない……。あの手応えで、無傷なんて、そんなこと……」
しどろもどろになりながら男が言うと、ソーンは少し恥ずかしそうに笑った。
「ああ、これは体質みたいなもので……」
「体質……?」
男は意味が分からず、驚いた表情のまま困惑していた。
その瞬間、一瞬男が光ったかと思うと男は悲鳴をあげて倒れた。男は感電したようであった。ソーンはすぐに察して辺りを見回すと、少し離れたところから笑顔の女が近づいてきていた。
「ごめんね、遅刻しちゃった」
「もう、遅いよ。いつも遅刻するんだから」
ソーンは呆れた表情で女に言った。するとその女、リア・アインホルンは突然土下座をし始めた。
「申し訳ございません!」
それを見てソーンはまた始まった、とげんなりした顔をした。
リアは純粋に謝罪をしているわけではなかった。
「どうか私を踏みつけて罵って蹴って唾を吐き掛け、辱めてください!」
涎を垂らしながら恍惚の表情を浮かべたリアがそう言う。
彼女は極度のマゾヒストで、謝罪ですら楽しんでしまうため、謝罪をされても許そうという気にはならなかった。しかし許さなければ許さないで、それを喜んでしまうのだから手に負えない。今の所リアを懲らしめる方法は見つかっていない。そんな変わった人物であるが、彼女もPSIのメンバーである。
「嫌だよ。そんなことしても喜んじゃうだけでしょ」
「罰を与えないという罰ですね!ありがとうございます!」
嬉しそうに笑いながらソーンに笑いかけてくる。ソーンはどうしようもないなと思いながら苦笑した。
「人生楽しそうだね」
そう言いながら土下座しているリアを立ち上がらせる。
普通にしていればただの可愛らしい女の子なんだけどなぁ。
そう思いながらリアの顔を見つめる。リアは涎を手で拭いながら笑っている。
「それで、この男の人は誰?」
リアが倒れている男を見ながら言った。
「さあ。僕らを恨んでいる人ってことは間違いないね。僕らのことを恨んでいる人は多いから」
「そうだねぇ。とりあえずこの人を警察に引き渡そうか」
「じゃあ、僕はこの人を連れていってくるよ。だからちょっと待ってて」
ソーンは男の体を担ぎながら立ち上がる。しかし気絶している男を運ぶのは筋力のないソーンには難しそうだった。言ってしまった手前、やめてしまうのは格好悪いななどと考えながら、なんてことないように装って男を連れて歩き始める。
リアから見えないところまで運んだら警察に電話して、到着を待って引き渡そう。
そう考えながら歩いていると、リアが後ろから声をかけてきた。
「できるだけ早く帰ってきてね。今日のデート、すごく楽しみだったから」
振り返ると、リアがしおらしい顔をしていた。ソーンは微笑みながら、「遅刻しておいて」と答えた。
「じゃあ、行ってくるね」
「はーい!」
ソーンが見えなくなるまで見送ってから、近くにあったベンチに座った。
「楽しみだなぁ」
ソーンが帰ってきた時のことを想像しながら一人でニヤついている。
その時、突然口を塞がれた。リアは驚いた顔をして、目線を動かし後ろにいる人物を見ようとしたが、その人物の顔は見えなかった。
「お前、あの男の仲間だな?」
男の声だ。その声に聞き覚えはなかったが、友好的ではないことだけはわかった。
「情報を洗いざらい吐いてもらうぜ。ああ、別に黙っていたって構わない。俺たちの拷問に耐えられるのならな」
そう言って男は不気味に笑った。
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