第17話 またしても水際解決【フレン】SIDE



 しばらく、夜会の個室近くで張り込んでいたら、先ほどの三人が部屋から出て来た。

 女性は、ドラン子爵の側にいる男に寄り添うと、耳元で何かを囁いていた。

 

「またお会いいたしましょう」


 男の言葉に、女性は嬉しそうに去って行った。


「少し結婚をちらつかせただけでこれか……いつもながら、お前を養子に迎えることと決めてよかった。これで我が家も安泰だな」


 ドラン子爵の言葉に、男がニヤリと笑いながら答えた。


「彼女の家もかなり稼いでいますからね……平民になり名前を変えるだけで、皆、私だと気づかない」


 どうやら、あの少年は平民になって心を入れ替えたわけではなく、平民になってもなお自分の顔を利用して結婚詐欺の悪事を続けていたようだった。

 しかも強欲なドラン子爵と組んだようだ。

 学園の頃は、いい意味で周りに守ってもらえる。

 例えば、年頃の令嬢が婚約詐欺にあっても、それを公けにしても幼い二人のことだと許してもらえる空気がある。

 だが、学園を卒業し、貴族として大人として見られるようになると、詐欺にひかかってしまうと醜聞になるので隠す家が多い。


 つまり、被害はどんどん拡大するのだ。


 このままではいけない。


 私は、すぐにヘルール侯爵の元に向かった。



「何? そんな男が? そうか……学園を追われ、貴族名簿から一度除籍されてしまうと、その人物の情報が全て処分される」


 普通は、元貴族が再び貴族になることはほとんどない。

 だから、余程の犯罪歴でもなければ情報は残らない。

 社交界に出て、噂が広がっているならだが、学生の頃の話ならほとんど話題にも上らず、被害にあった令嬢の次の結婚のためにもこの話は完全に消される。


「どうやら、ドラン子爵が養子に迎えるようだ」


 ヘルール侯爵は、眉を寄せながら言った。


「確かに、ヘルール侯爵は、養子を申請しているが……昔平民女性と愛し合った時にできた自分の子どもかもしれないとの引き取り理由が書かれていたから、許可した。今頃、サンドリア公爵に許可状が回っているはずだ」


 私は大声を上げながら言った。


「絶対に、あの男はドラン子爵との血の繋がりはない!! 断言する!! 顔も体型も、何もかもが違う!!」

「そ、そこまで言うほど違うのか?」

「ああ。大違いだ」


 ヘルール侯爵は、立ち上がると私を見ながら言った。


「これからサンドリア公爵の元へ行く。一緒に行ってくれるか?」

「もちろんだ!!」


 こうして私は、ヘルール侯爵と共にサンドリア公爵の元へ向かった。



 私たちが、サンドリア公爵の元へ向かうと公爵はすぐに会ってくれた。


「おお、フレン。今度はどうしたのだ?」


 私は、サンドリア公爵を見ながら言った。


「はい。以前、学園で婚約詐欺の騒ぎを起こし、平民になった男が、現在、ドラン子爵の養子になると言って社交界で再び結婚詐欺をしているようです」


 そして、今度はヘルール侯爵が口を開いた。


「数日前に公爵閣下に、養子縁組の書類をお送りいたしました。そちらの者がキュライル侯爵の言う男性です。申し訳ございません。平民女性との子供というと調査もままならない現状から……許可を出しました。私の調査不足でした」


 ヘルール侯爵が頭を下げると、サンドリア公爵が眉を寄せて、自身の側近を呼んだ。


「最近、養子についての書類を処理しただろうか?」


 側近は、頷きながら言った。


「明日、閣下が処理される予定の書類の中に入っております」


 それを聞いたヘルール侯爵はほっとしたように言った。


「明日? よかった……間に合った」


 サンドリア公爵も頷きながら言った。


「そうだな……一度認めてしまうと、取り消すのは大変だ。陛下のお手をわずわせる必要もある」

「陛下の……!!」


 ヘルール侯爵は驚きながら震えていた。

 それもそうだ。国王陛下はとても多忙なのだ。そんあ陛下に訂正の書類などなかなか提出できない。だからもしかしたら、このまま黙認するしかなかったなかったかもしれない。


「悪いが、その書類を持って来てくれ」

「はっ」


 サンドリア公爵の言葉で、側近が書類の束の中から、ドラン子爵の養子についての書類を探し出した。


「こちらです」

「ふむ」


 サンドリア公爵は立ち上がると、自分の執務机に行き『不可』という印を押すと、ヘルール侯爵に手渡した。


「この書類はヘルール侯爵に返そう」


 ヘルール侯爵は書類を受け取ると、深々と頭を下げた。


「感謝いたします」


 ヘルール侯爵が書類を受け取った。これで、あの男の毒牙にユリアーナが引っかかることもないだろう。

 私が心底ほっとしているとサンドリア公爵が私を見ながら言った。


「さすがは、フレンだ。また助けられたな」

「いえ、王国のために尽力できたのなら幸いです」


 私は、ユリアーナをあの男から引き離すことさえできれば何も問題ないのだ。

 これで、あの男が社交界に出入りすることもないだろうか、ユリアーナがあの男の姿を目で追うこともないだろう。

 そう思うと、心底すっきりだ。


 サンドリア公爵家を出ると、ヘルール侯爵が真剣な顔で言った。


「フレン、本当に助かった。フレンが居なければ、大きな問題になっていた可能性もある」

 

 私はいつの間にか昔の呼び方に戻っていたヘルール侯爵の肩に手を置きながら言った。

 

「何、過去に絡んだことのある人物だったからな。同じ侯爵になったのだ。お互い助け合えばいい」

「フレン!! お前のような友がいて私は幸せ者だ!!」


 そして私たちは肩を叩き合ったのだった。

 その後、ヘルール侯爵は、怒りの篭った瞳で書類を見ながら言った。


「フレン……この件、後は私に任せておけ。二度と、結婚詐欺など……いや、人前に出れないようにしてやる!!」

「頼む」

「任せておけ」


 私は、彼らの件は全てヘルール侯爵に任せたのだった。



 その後、ヘルール侯爵はそのままドラン子爵の元に乗り込んだ。

 ドラン子爵は、結婚詐欺で相手の令嬢の家からだまし取ったお金は隠していたようで、そちらの罪も追及されることになり、ドラン子爵の側近の男性は国外追放となった。


「国外追放か、これなら絶対にユリアーナには会えないな、ふふふ」


 私が安心していると、ガイが震えながら言った。


「お館様……怖いです」

「私だって、わかってはいるが、抑えられないんだ!!」


 ユリアーナのこと以外はすこぶる上手くいっていっているのに、彼女のことになると全く上手くいかない!!

 私は頭を抱えたのだった。

 

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