第16話 脅威の行動力【フレン】SIDE
「こ、こ、こ、これは、侯爵様……私共の主催する夜会にお越し下さり、至極こ、こ、光栄にございまちゅ、ます」
私が夜会会場に到着すると、すぐにこの夜会を主催している男爵家の者が飛んで来た。緊張した顔であいさつをしたかと思えば、気の毒に思えるほどのあいさつだった。
「本日は、お招きいただき感謝しています」
私は普段の夜会と同じようにあいさつをした。
「ま、ま、まさか、侯爵様がいらっしゃって下さる……」
男爵の話が長くなりそうだったので、私は男爵を気遣うフリをして会話を切り上げた。
「そう、かしこまらないでください。それより、男爵殿は主催者なのだがら、会場に戻った方がいい。私も楽しませてもらう」
「はい、どうぞ、お楽しみ下さい」
私は、男爵をかわすとすぐに会場に向かった。
目的はただ一つ!!
ユリアーナと自然に出会うことだ!!
会場内を見渡すとすぐに、ユリアーナを見つけた。
見つけた!!
ユリアーナだ!!
ユリアーナはオレンジ色のドレスを着ていた。
青系の好きなユリアーナがオレンジのドレスなど珍しい。どういう心境の変化だろうか? もしかしてユリアーナは本気でここに相手を探しに来たのだろうか? ああ、まるで夕日をまとったようなオレンジは彼女に相応しい。もしユリアーナにドレスを贈るならオレンジだろうか? だがいつもの青系のドレスもユリアの清楚さを引き立てて上品で美しい。いや、待て。桃色と言った王道も色の白いユリアーナに良く似合いそうだ。桃色のドレスも捨てがたい。いや、だが濃厚や黒いドレスというのもユリアーナの大人の魅力を存分に引き出し、エロではない。妖艶でいいのではないだろうか? いや、だがなんといっても純白だ。ユリアーナの純白のドレス。ああ~~想像しただけで最高だ。絶対に純白のドレスを着た彼女の隣は譲れない……。
「フレン様、ごきげんよう」
「フレン様、私と一曲踊っていただけませんか?」
「私とぜひ」
ユリアーナのドレス姿を見て、様々なドレスを着たユリアーナに想いを馳せていると、いつの間にか令嬢たちに囲まれていた。
これでは前回と同じだ。
だが、私はそこまで愚かではない。この事態も想定してこのタイミングでの入場したのだ。
「皆様、本日は……」
丁度、主催者の男爵のあいさつが始まった。
「ご令嬢の皆様、あいさつが始まりました」
私が微笑みながらも圧をかけてそういうと、令嬢たちは私から少し離れ、男爵の方を見た。
私はその隙にテラスに出ると、柱の影に隠れて男爵の話が終わり、ダンスが始まるのを待っていた。
これで、タイミングを見てユリアーナをダンスに誘えばいい。
素晴らしい考えた。
そう思って会場を見ていると、ユリアーナの様子が少し変なことに気が付いた。
ん? ユリアーナは誰かを見ているのか?
ユリアーナは一点を見つめている。
何だ?
私がユリアーナの視線の先を追うと、ドラン子爵とその隣に美形の男がいた。
あの男は!?
実は、ドラン子爵の隣にいた男は、数年前に学園で問題を起こした生徒だった。
確か……元々は男爵家の嫡男だったが、数人の女子生徒に結婚の約束をして金品を巻き上げかどわかしたため、学園を退学、そして貴族籍を抜かれたはずだ。
私がまだキュライル侯爵を引き継ぐ前の話だ。私は彼をめぐり令嬢たちが前代未聞の傷害事件まで発展して、学園に何度も足を運び対応に追われた。
彼は貴族ではなく平民になったし、また学生のしたことだからとそれほど社交界には伏せられたことだった。
だが、あの男が今度はドラン子爵のお付きの者として社交界に現れるとは!!
もしかして……ユリアーナはあの男を見ているのか!?
私は全身から血の気が引く思いだった。
ユリアーナが私以外の男の側にいるなど許せないが、よりにもよってあの男はダメだ!!
ああ、ユリアーナ。君はなんて……男を見る目がないんだ!!
私が絶望していると、ドラン子爵とあの男と、令嬢と三人でこちらに向かって来た。私が息をひそめて三人を見ていると、三人は休憩室などが用意してある方に向かった。
これは絶対にいかがわしいことが行われる前触れだ!!
そう思っていると、ユリアーナがテラスに出て来てしまった。
私は心の中で絶望した。
ああ、ユリアーナ!! やっぱり彼を追って来たのか!? ユリアーナ、美しく気高く努力家で素晴らしい君だが……男を見る目が壊滅的だ!!
私は思わず天を仰いてしまった。
だが、絶望しているヒマはない。彼女を止めなければ!!
「待って下さい。ユリアーナ嬢」
気が付くと、私は大きな声で叫んでいた。
ユリアーナは、驚いた顔で私を見ていた。
そして、ドレスの裾を持って頭を下げた。
「これは、キュライル様。ごきげんよう」
あいさつをされて、嬉しくて舞い上がりそうになったがすぐに私は現状を思い出した。
どうしよう!! 自然な出会いを演出せねば……自然な出会いを演出せねば……。
私は考えて考え抜いて、胸ポケットからハンカチを取り出した。
「ユリアーナ嬢。落ちましたよ」
私は、以前ユリアーナが学園で使っているハンカチを観察した。同じ物を持ちたくて、王都中を探し、このハンカチが学園近くの雑貨屋売られているものだと知り、買い占めたのだ。
ユリアーナが今日、このハンカチを持っているかは、賭けだったがこれ以外に自然な出会いが浮かばなかった。
ユリアーナはハンカチを見て首を傾けた。
ああ~~~可愛い!! きっとユリアーナは内心戸惑っているだろう。困った顔も可愛いすぎる。結婚したら、私がいないと生きていけなくなるほど甘やかして、そしてたまに、困った顔見たいものだ。
そんなことを考えているとユリアーナが作り笑顔でお礼を言った。
「ありがとうございます」
ああ、可愛い。
どうしてこんなに可愛いのだろうか?
好きだ。もう、今すぐ家に連れて帰りたい。
連れて帰れないだろうか?
今、求婚すれば、一晩中一緒に居られるだろうか?
そんな妄想に取りつかれている間に、ユリアーナが頭を下げた。
「それでは、フレン様。御前を失礼いたします」
ユリアーナは、頭を下げるとすぐに庭園の方に向かった。
ドラン子爵とあの男が向かった先は、そちらではない。私は、ユリアーナがあの者たちを見失っている間に方を付けることにした。
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