侯爵様の大暴走

第15話 迷走スタート【フレン】SIDE


「え? 戻って……来た?」


 私は唖然として、手元の封書を見つめた。


「封を開けた形成がないので、お館様がイヤと言って断られたわけではなく……恐らくユリアーナ嬢は、結婚するつもりがないか、やはり恋愛結婚を望まれているのでしょう」


 私は、返されたお見合いの釣書を握り潰しながら言った。


「恋愛結婚……自然な出会い……!! ああ、やはりユリアーナはそこにこだわっているというのか!?」


 ガイが同情するように言った。


「まぁ、お館様の真の姿を知らない普通の令嬢なら、顔は極上、家柄はいい。評判も上々……こんなお館様からの見合いを断るなんてことはしませんよね~~。よほど恋愛結婚に憧れているんでしょうねぇ~~」


 私は頭を抱えながら言った。


「またしても私は自然な出会いの機会を作る必要があるのか……」


 ガイが私の肩に手を置きながら言った。


「お館様、頑張って下さい!」


 ◇


 次の日私は、城に夜会が開かれる届けないかを確認に行った。

 

 もう、夜会という夜会に出席してユリアーナと出会うしか手はないと思ったのだ。

 夫婦や婚約者と一緒に行く場合は爵位の高いどちらか一方だけが記載されるが、男女一人で参加する場合は、女性男性に関わらず招待客が記載される。

 私は同じ侯爵家で、貴族の繋がりを監視する権限を持っているヘルール侯爵を訪ねて城に行った。


「フレン、久しいな。あ、すまない。今は、キュライル侯爵か」

「ああ。そっちこそ、ヘルール侯爵だろ?」


 ヘルール侯爵は、私を嬉しそうに招いでくれた。


「それで、どうしたんだ?」


 ソファに座ると私は本題を切り出すことにした。


「実は、夜会のリストを見せてほしい」

「夜会? どうした……もしかして、何かキナ臭いことでもあるのか?」


 ヘルール侯爵の言葉に私は眉を寄せながら言った。


「実は、ある人物と接触したいと思っている。だが、なかなか機会がない。夜会なら自然に近づけるだろ?」


 ヘルール侯爵は真剣な顔で言った。


「なるほど……確かに夜会なら自然に近づけるな……お前は陛下から教育機関の強化に力を入れるように命じられたと聞いていたが……何か深い理由があるのだろうな」

「ああ。頼む」


 ヘルール侯爵は私を見ながら言った。


「先日のナヘロ伯爵の件は聞いた。かなりの悪影響を及ぼしていたらしいじゃないか……お前が動かなければ、財務部だけでは手遅れになっていかもしれないと、サンドリア公爵が言っていた」


 ヘルール侯爵はそう言うと、ソファから立ち上がり、執務机に行くと紙の束を持って来た。


「ここで見て行ってくれ」

「感謝する」


 私は夜会と、招待客を確認し、とうとうユリアーナの名前を見つけた。


「見つけた!! この夜会だ。この夜会に行く!!」


 私が声を上げると、ヘルール侯爵が私の手元を覗き込んで来た。


「ん? はぁ? 男爵家の夜会? フレン、いや、キュライル侯爵。本気でこの夜会に行くのか? これは……言いにくいが、男女が出会うためのお見合いパーティーのようなものだぞ?」


 男女のお見合いパーティーだと!?

 そんないかがわしい夜会に、なおさらユリアーナを一人でなど行かせることはできない!!


「もちろんだ!! この夜会でなければ意味がない!!」


 ヘルール侯爵は私を見て小さく笑った。


「本当にお前の王国を思う気持ちには頭が下がる。いいだろう。私が招待状を用意してやる。ただ……無茶はするなよ」

「恩にきる」


 私は、ヘルール侯爵の好意で招待状を手配してもらえることになったのだった。


 屋敷に戻るとガイが頭を抱えた。


「あ~~あの様子じゃ、ヘルール侯爵は絶対、お館様が何かの悪事を暴くために夜会に潜入しようとしていると勘違いしていらっしゃいましたよね~~~ただのストーカーなのに!!」

「だが、お前を聞いただろう!! 男女が出会うための夜会だと!! 危険極まりないだろう?」

「どこかですか……年頃の男女にとって貴重な機会なのに……ああ、お館様が会場になんて姿を見せたら……泣く男性が多いでしょうね……本当に罪な!!」


 そして私は男爵家の夜会に乗り込むことにしたのだった。

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