第9話 妨害工作【フレン】SIDE


ユリアーナの相手が、よりによってナヘロ伯爵⁉

彼は、顔の美しさで前ナヘロ伯爵に好意を寄せられ結婚した。前ナヘロ伯爵とは二十歳も歳が離れていたので、皆に『ナヘロ伯爵の財産が目当てだ』と言われている。


「お館様、やはり彼は頻繁に乗馬場に出入りしています。恐らく領政などにはほとんど関わっておりません。そうでもなければ、これほど頻繁に乗馬場に通うことはできません」

 

 確かに、私もユリアーナの折角の休みに休みを合わせられないこともある。毎日のように乗馬場に通う領主などみたことがない。

 悩む私にガイが言葉を続けた。


「それにうちの乗馬場はそれほど法外な値段を取っているわけではありませんが、毎日となると……それなりにかかりますよ?」


 コースの整備にかなり力を入れているので利用料もそれなりの金額を貰っている。


「う、う~~ん。怪しいな……。そんな怪しい男がユリアーナとデートなど!! 許せずはずがない!! 行くぞ、ガイ!!」

「は? え? ちょっと……お館様どこに行くんですかぁ~~~?」


 私はすぐに早馬を出すと、古くから馴染みであるサンドリア公爵家の門をくぐった。


「おお、フレン。お前が俺に会いに来るなんて久しぶりだな!!」


 私は友人のサンドリア公爵に頼み事をするために、彼に会いに来た。


「ああ。実は頼みがあってな」

「頼み? 俺に頼みってことは……領で何かあったのか?」


 彼は、全ての領の収益を管理している王の信頼の厚い人物だ。


「そうだ。だが、我がキュライル侯爵領のことではなく、ナヘロ伯爵領のことだ」


 するとサンドリア公爵が眉を寄せた。


「さすがだな……お前もおかしいと思ったのか。お前まで不審に思っているのなら、悠長にしている場合ではないな……」

「やはりナヘロ伯爵家には問題があるのか?」


 サンドリア公爵が深く頷きながら言った。


「ああ。恐らく横領が行われている」


 横領!?

 もし、そんな悪に手を染めている男とユリアーナが懇意にしているなどと噂がたったたらと思うと、居てもたってもいられなかった。


「踏み込もう!!」


 私はサンドリア公爵に向かって言った。


「フレン……本気か!? だが、まだ確固たる証拠が……」


 焦るサンドリア公爵に向かってフレンが言った。


「ナヘロ伯爵は毎日のように私の経営する乗馬場に現れる。もうそれで十分怪しいだろう? それにナヘロ伯爵領はそれなりに影響力のある領だ!! あまり放置すると……真似をする領が現れるぞ?」

「……そうだな。ある程度の不正が行われたと疑いのかかる書類もあるし、フレンがそこまでいうのなら……踏み込むか……」

「ああ」


 こうして、私はその日のうちにナヘロ伯爵邸にサンドリア公爵にと共に乗り込んだ。


「ナヘロ伯爵に横領の疑いがある。帳簿関係を全て調べさせてもらう」


 そう言って私たちはナヘロ伯爵邸に乗り込み、完全に油断していたナヘロ伯爵邸の者は帳簿などを隠すことも出来ず、裏帳簿まで手に入れた。

 話を聞くと、どうやらナヘロ伯爵家の家令が全てを牛耳っていたようだ。


 ナヘロ伯爵家の家令は、捕えられ、ナヘロ伯爵は監督不行き届きとして謹慎処分を受けてこの件は終わった。

 私はサンドリア公爵に「さすがフレンだ。頼りになる」と言われて家に戻って来た。


「ユリアーナ……彼は確かに顔はいいが……男を見る目が無さすぎる」


 私はナヘロ伯爵邸から戻った後に、ソファに座り込みながら言った。


 女領主だった前ナヘロ伯爵は、現在ナヘロ伯爵家に一目ぼれして彼と結婚した。そして、二年前に女伯爵が病気で亡くなり爵位を継いだ。また三十代前半で、美しい彼は社交界でも令嬢人気が高くなっているらしいが……横領を見逃していたなど話にならない!!


「お館様……ユリアーナ嬢と彼の仲を邪魔するためとはいえ……やり過ぎじゃないですか?」


 私は、ガイを見ながら大きな声で言った。


「やり過ぎ!? では、ユリアーナが彼のような問題を抱えた男と結婚してもいいというのか!? そんなの許せるはずがない!!」


 私は立ち上がりながら言った。


「すぐにユリアーナの家に見合いを申し込もう」

「は? ちょっと、お館様!? 恋愛結婚を目指して自然な出会いを演出するのではないのですか!?」


 ガイの言葉に私はさらに大きな声で言った。


「今回のように、横から取られたらどうすのだ!? 本来なら私がデートに誘うはずだったのに!! ナヘロ伯爵め、横からかすめ取るような真似を!!」

「いや、ナヘロ伯爵とユリアーナ嬢の出会いの方がむしろ自然……」


 私はガイを睨みつけた。


「とにかく、すぐに見合いを申し込む!! すぐに手配してくれ!!」

「はい!!」


 こうして私は、居ても立っても居られずに、ユリアーナの家に見合いを申し込んだのだった。

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