第2話 彼女のために【フレン】SIDE
それから私は、視察との名目で学院に学生の頃のように通い、ユリアーナを探すようになった。
彼女は、授業が終わると常に図書館の一番奥の静かな場所で一人、一心不乱に勉強をしていた。
正直、女官試験に受かるのは難しいかもしれないな……。
見たとこ彼女の実力では今一歩合格には届かないだろう。
ユリアーナが出来ないわけではない。女官試験は難関だ。
だが……こんなに頑張っているんだ。彼女の笑っている顔が見たいな……。
いつも真顔で黙々と勉強しているユリアーナの笑っている顔が見たくて、私は、影ながら彼女をサポートすることにした。
ユリアーナがわからない問題につまずき困っていると、私は、その事柄が詳しく書かれた本をわざわざ取り寄せてさりげなく置いておいたり、教師にもっと授業で詳しく説明するように頼んだりした。過去の試験問題を私なりに分析して、勉強に使えそうな本を彼女の勉強する場所の近くに配置したりした。
ガイは「やり過ぎじゃないですか……」と震えていたが、ユリアーナのためだけではなく、今後女官試験を受ける者のためになると説明した。
――そんな日々があってのユリアーナの合格の報だ。
祝いたいに決まってる!!
「なんとか、ユリアーナの合格を祝えないだろうか? 彼女が今後この国のために尽力してくれるというなら貴族として敬意を……」
私がガイに説明していると、ガイがニヤニヤしながら言った。
「……それで、本音は?」
私は真顔でガイを見ながら言った。
「ユリアーナの笑った顔が見たい!! いつもの真剣な顔もいいが、笑顔がみたい!!」
そう言うと、ガイが私に招待状を手渡した。
「学院の卒業式の招待状です。来賓としてですので、お話はできないかもしれませんが、笑顔は見れるかもしれませんよ?」
「来賓!! なるほど!! その手があったのか!! ガイ、すぐに衣装を特注するぞ。ユリアーナの晴れ舞台だ。とにかく彼女の記憶に残るように、カッコイイところを見せたい!!」
「なりふり構わなくなりましたね……お館様……」
もう、彼女の瞳に映るならなんでもよかった。
私は、自分の卒業式よりも気合を入れて、ユリアーナの卒業式に臨んだのだった。
◇
「続いてのお客様は、『フレン・キュライル侯爵閣下』」
私は来賓として紹介され、壇上で「紳士淑女の皆様、ご卒業おめでとうございます」とあいさつをした。
壇上から会場を見ると、私はすぐにユリアーナを見つけた。
いた!!
可愛い!!
可憐だ!!
ドレス姿もいい!!
ユリアーナのパートナー。……あれは、ユリアーナの弟君か?!
やはり、調べ通り婚約者はいないのか!!
私が壇上からユリアーナに微笑みかけると、ユリアーナの周囲に令嬢たちが、「今、フレン様私に微笑んで下さったわ」「いえ、私よ」「私よ。目が合ったもの」と少し騒ぎになった。
だが、当のユリアーナは、笑顔で私のあいさつに拍手をしていた。
私は、ユリアーナに微笑んだのだが……。
少し肩を落としたが、ユリアーナのドレス姿を見れただけで満足していた。
その後、卒業式が終わり、卒業パーティーが始まると、私は退席することになった。
そうなのだ!!
卒業式に来賓は、卒業パーティーには出ることができないのだ!!
悲しい……!
悲し過ぎる!!
なぜ来賓は、卒業式のみの参列のみで、卒業パーティーには出られないのだ!!
ユリアーナと話がしたかった。
もし可能なら踊りたかった。
さらに可能なら、ユリアーナの家に送っていって両親にあいさつがしたかった。
ユリアーナを想いながら、エントランスに出ると、私は令嬢に囲まれた。
もみくちゃにされながら「今日は大切な卒業パーティーなのでしょ? また社交の場でお会いしましょう」と令嬢たちをまいて、ガイの待っている控室に戻ろうとすると、幸運にもユリアーナが、数人の令嬢とベランダへと歩いて行った。
ユリアーナ!!
私はこの幸運に感謝して、ユリアーナの後を追ったのだった。
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